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紳士クンの、割と不本意な日々Ⅲ  作者: 椎家 友妻
第五話 紳士クンと足のない乙女
103/110

15 バカにされてる

 (ど、ど、ど、どうしよう?僕は一体どうすればいいの?)

 もう何をどうすればいいのかさっぱり分からない紳士クンは、

意味もなくワタワタと両手を動かした。

するとその拍子に紳士クンの左手が彼女の鼻チョウチンにあたり、

その鼻チョウチンはパチン!

とやけにはっきりした音を立てて割れた。

 「ひっ⁉」

 思わず声を上げる紳士クン。

しかし集中している華子は全くその声に気付かない。

が、鼻チョウチンを割られた彼女は、その瞬間にパチッとその目を開いた。

その目には生きる者の生気は全く感じられず、

まるで死者の国に続いているかのような深い闇に覆われていたが、

ひとつ気を許せばたちまちそこに吸い込まれてしまいそうな美しい瞳だった。

 そんな彼女の瞳から、紳士クンは反射的に目をそらした。

目を合わせば死者の国に引き込まれるか、

この幽霊に取りつかれるかもしれないと思ったのだ。

そう思うとさっきの恐怖が再び心の中によみがえって来た。

 が、そんな紳士クンの恐怖とは裏腹に、

目を開いた足のない乙女はパチパチと二度ほど瞬きをすると、

水の中を泳ぐ人魚のようにそこいらを漂い始めた。

そして華子の魔法陣に気がつき、右手の人差し指を顎にあて、

小首を傾げてその様子をしげしげと眺める。

そして呪文を唱え続ける華子を見て、プッと吹き出し、

 『なあにこの子、もしかして幽霊でも呼び出そうとしてるの?

そんな事できる訳ないでしょ、プププー』

 というような笑みを浮かべた。

そして華子が目を閉じているのをいい事に、

魔法陣のロウソクの炎を勝手に吹き消し、

自分の傍らに漂う青い火の玉の炎をともしたり、

華子のリュックに入っていたマジックペンを使い、

(直接手で持つのではなく、ペンを見えない糸で操るようにして)

魔法陣に落書きをしたり、華子の目の前でペロペロバアをしたりして、

一人でケラケラ笑っている。


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