13 足が、ない
(んん?)
自分の目の錯覚だと思った紳士クンは、
目をこすってパチパチ瞬きをし、再び天井に目を凝らす。
するとやっぱり、五メートル程高い空中に、
一人の女の子が顔をこちら側に向けて浮いている。
それはまるで、水中を漂う人魚のようであった。
その女の子はエシオニア学園の女子の制服を着ており、
歳も紳士クン達と同じくらい。
澄み切った海のように青みがかった黒髪が腰のあたりまであり、
それが体と同じく水中に漂うようにフワフワ浮いている。
月の光に照らされた肌はゾッとするほど青白く、
それでいて吸い込まれそうな程に透き通り、よどみがない。
目は閉じているが、整った鼻筋、艶やかな唇、
すらっと引き締まった顔の輪郭を見れば、
彼女が美少女である事に異論を挟む余地はどこにもなかった。
(お、女の子が、浮いてる?)
紳士クンは自分の目で見ている光景が信じられなかった。
今まで色んな女の子に出会って来たが、
空中をフワフワ漂う女の子を見るのは生まれて初めてだった。
しかも更に驚くべき事に、その女の子には、
足がなかった。
そう、なかったのだ。
影になって見えないのではなく、彼女の膝から下はまるで、
闇に吸いこまれて消えてしまったかのようになかった。
そして彼女の頭上には一個の青白い火の玉が、フヨフヨと燃えている。
と、いう事は、まさか、まさか・・・・・・。
(あの子って、幽霊なの⁉)




