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コンビニ発、異世界行き

先のわからぬ暗闇の中、薄い炎の明かりが繊細な装飾が施された豪華な椅子を浮かび上がらせる。

そこにはその椅子の主人に相応しい衣服を纏った人物が腰を下ろしていた。

その人物は肘掛けに置かれたグラスを手にもつと、憂鬱そうな表情を浮かべ、ユラユラとそのグラスを回す。


「満ち、満ちる、我が杯に悦楽は満ち溢れる」


そのしなやかな指先で揺れるグラスから赤い液体がこぼれ落ちた。

こぼれ落ちた液体は床に落ちるとぬらぬらと流動し人の顔を形取り


「ごわ・・・」


と声を発すると、蒸発し消えた。


「飽いたな・・・・飽いた」


人物がひとりごちると、暗闇の中に異形の者の姿が浮かび上がった。


「べセルか・・・」

「王よ、かの者のパーティがおよそ40分程でこちらに参ります。」

「40か・・・・遅すぎるな。

城の警戒レベルは?」

「はい、仰せのままに、1に落としております。

流石に0にまで落とせば、かの者が怪しがり、引き返すかもしれませんので」

「1にまで落として、そのていたらくとは、、この時代の勇者は・・・・あれなのだな。」


異形は顔を崩し、ニヤリとすると


「あれ、でございますね」


と答えた。


「ではあと40分、充分に出迎えの準備ができるというものだな。」


人物は立ち上がると右手を上げ、指をパチンと弾く。

すると、暗闇は収縮し、弾いた指先に黒い球を作る。

暗闇の後に残ったのは、荘厳な空間、王の間という名に相応しい煌びやかな空間が出現した。


「さあ、始めようか、終わりの始まりを」



〜・〜・〜・〜・〜・〜〜・〜・〜・〜・〜・〜


「いらっしゃいませ〜」


来店のベルが鳴り、事務所から顔を出し、最低限の接客をする。

事務所に引っ込み、監視カメラの映像を確認すると人影は真っ直ぐに雑誌コーナーに向かったようで、立ち読みを始めていた。


「立ち読みかよ」


パイプ椅子から立ち上がると身体をほぐす為に伸びをする。


「ん・・・はぁ」


時計を見ると時刻は2時30分過ぎ、この時間帯はフライヤーの洗浄をしないといけないので、お客が来ると本当に面倒臭い。


「さて始めるか」


事務所から出てレジを横切り厨房に入ると、フライヤーの電源を落とす。

壁に掛けてあったエプロンを装着し軍手をはめ、フライヤーに手をかけると。


「すいません」


表から声が聞こえた。


ちっ 


心の中で舌打ちし、


「少々お待ちくださーい」


と声をあげる。


「ふぅ〜」


軍手を取り表に出るとこの寒い時期にしては珍しい薄手の服装の女性が立っていた。


「いらっしゃいませ、お待たせしました」


カウンターに出たが、その女性の前には商品が置かれていない。

タバコか?

数秒、無言の時間が続く。


「あの?」


見ると女は寒いのかブルブルと身を震わている。

顔は長い髪をだらりとさせて俯いているのでどんな顔なのかははっきりと確認出来ない。

髪の隙間から見える顔は、20代後半位の女性に見える。

酔っ払っているのか?

この時間に来る客に常識を求めてはいけないというのが自論だが、ここ迄おかしいのはここでバイトを始めて以来初めてだ。


「タバコですか?」


こちらから声を掛けてみるが反応といった反応は無い。


めんどくさ。

案件じゃんこれ


酔っ払いや、ヤンキーのお客さん、反社のお客さんは、監視カメラの写真を撮り、こいつが来たら要注意という事で深夜バイトの間で共有する事にしている。

困って女性越しに店内を見回すが、お客さんはこの女の人一人、さっきの立ち読みの人はいつ帰ったのか、いなくなっていた。


視線を女性の方に戻すと、カウンターに手が置かれており、その先には、包丁が握られていた。


「え?え?」

頭の回転が追いつかない、一体何が起きているのか理解出来ない。


「・・・したの?」

「え?」


女性が何かを喋ったがこの心理状態もあって、よく聞き取れ無い。


「何処に隠したの?」

「はい?」

「私のあ・か・・」


次の瞬間、左胸の辺りに熱を感じる、


「あ、、っつぅ、、クフっ」


喉から息が抜ける。


次に首に鈍い痛みが走り、首から赤い液体が吹き出すのを左眼が視認する。

売れた事を見たことのない菓子折りに液体が巻き散ってしまった。

一体こいつらは何のために製造されたんだろうと、あまり意味のない事を考えていると目の前が暗くなり意識が途切れた。


〜・〜・〜・〜・〜・〜〜・〜・〜・〜・〜・〜


「うわぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあ!!」


声を上げ、目を開けるとそこは元のコンビニの店内。

レジの時計を見ると、2時30分過ぎ。

お気楽なBGMが、意識を取り戻させる。


寝てた?


夢?


意味のわからない女に殺されかけた?

夢をみたのか?

だったら、事務所で寝てるはずなんだけど、、、。

疲れ過ぎて立ったまま寝てたとか?


刺された胸や首を確認するが傷は無い。

でもリアルな痛みは覚えている、、、。

でも飛び散った血は何処にもない、頭上を確認してみるが菓子折りは無事だった。


やっぱり夢か・・・。


「夢ではない」


驚いて声のした方を見ると、場違いな衣装を身に纏った男がカウンター越しに立っていた。

場違いというのは、その言葉の通りで、明らかに現代では無い、中世の王様が纏っているような、仕立てのいいスーツのような上に、何の毛皮かわからない豪華なマントを羽織っている。

その相貌は美しく、声を聞いていなければ、女性と言われても否定出来ないユニセックスな顔立ちである。

少なくとも、今迄生きてきた人生の中で、こんな美しい人を見た事は無かった。


「お前が、私の依代」

「依代?」

「はぁ・・・べセルよ、いくら急とはいえ、このようにチンケな魂が私の依代とは」

「はい?」

「チェンジ・・・は出来ぬ様だな、向こうと連絡がつかん、何かに干渉されているのか?

ふふ、面白い、私の力がここには及ばぬようだ。

お前、何をした?」

「へ?ぼ、、俺ですか?

何もしてませんけど」

「ふむ」


男が僕をまじまじと観察するように見る、その赤と青のオッドアイに見つめられると、全てを見透かされたような気持ち悪い感覚に陥る。


「お前は何だ?」

「?

里見です、里見秀雄。」

「・・・名前は聞いておらん。

お前は私の部下が用意した依代では無い。

何故私はここにいる?」

「俺が聞きたいですよ、てか、知りませんよ!」

「奴か、奴の仕業か、、、、。

それとも、勇者、あの者のスキルか。

奴め、実力度外視で、スキルのみゴリ押しで私様にカスタマイズでもしたのか?

私の転生を邪魔しようと。」

「て、、んせい」


男は手を上げ何やらしているが、頭上にクエスチョンマークが浮かんだような表情を浮かべこちらを見る。


「ふむ、本当にここでは私の力を発揮する事が出来ぬようだ、何の冗談だ・・・・・面白い。」

「ここは、ただのコンビニですけど」


男がゴミクズでも見るような目で俺を見つめる、どこか、可哀想な者を見る様な目にも見えた。


「はぁ、、、。

うすうすお前も気づいているであろう、ここはコンビニという場所ではない、ここはお前の世界だ、人が死ぬ前に辿り着く刹那の一瞬。

お前の言語で言えば、走馬灯とでも言えばしっくりとくるか?」

「ああ、人生の振り返りを見るっていうあの」

「難しい話をしてもお前では理解出来んだろうから、そうと言っておこう」

「じゃあ、俺本当に、殺されたんですね」

「ああ、だからそう言っている。」

「あの女なんだったんでしょう?」

「何故私にそれを、、?

私は物知り博士では無いぞ」

「ぷっ物知り博士って何ですか?」

「お前の言語で最適解を紡ぎ出した。

ただ、心当たりが無いわけでは無い、お前は私の力をある程度、限定的に抑える事が出来るらしい。

そうする為にお前は利用された。

その女も恐らく、精神を支配され操り人形にされたんだろうな、お前の生のエネルギーを利用する為に。」

「生のエネルギー?」

「死ぬ前に魂を天へ昇華する為のエネルギーだ。

この走馬灯は、私を封じ込める、差し詰め結界というところか。

お前のエネルギーの賜物だろうな。

私の力を一瞬でも抑えるために、無関係過ぎる世界の者を犠牲にするとは・・・。

久々に面白い事をしてくれたなあいつら」

「・・・つまり、僕はあなたを閉じ込める為に利用されたって事ですか?」

「ああ、そうだ」

「え、、、とんだとばっちりじゃ無いですか!

僕はただのフリーターなんですよ、19の未成人、、。

でも仕方・・・ないのか?

別に生きる目標を持ってなかった俺は利用されても仕方ない?」

「フン、随分と物分かりのいい、、。

だが・・・・。

お前を利用したところで、19年だ、お前らの時間でいう所の、私にとっては刹那と同じ。

寝て待てば済む。

19年経てば私は解放され、また新たな私へと転生する

いい機会だ、いい加減休みなく、人間界に侵攻するのも飽きておったのだ、刹那でもいい休暇になるかもしれん。」

「僕はどうすれば?」

「好きにするといいさ、私のように寝て待てばいい、エネルギーの消滅を」

「19年も寝れませんよ!

てか、エネルギーが消滅したら僕って・・・」

「消滅だろうな、普通は天に登り、また新たに産まれるのを待つのがお前の元いた世界でのセオリーらしいが、それももう叶わぬだろう」

「とばっちりで消滅だなんて、、最低だ、責任者出てこいよ、、マジで」

「お前、不憫過ぎるな、面白い」

「面白いって!

今迄の話からすると、あなたが、悪さをしてきた結果でしょうが、一体貴方は何者何ですか?」

「魔王だ」

「え?

まおう?」

「ああ、正真正銘の魔王だ、魔王が悪さをして何が悪い?」

「悪くはないと思いますけど、、。

何かスケールが小さいんだか大きいんだかもう、訳分からん」

「しかし、私が寝ている間にお前に煩く近くで生活されてもあれだからな。

そうだな、特別に」


魔王は言いながら何やら呪文のような言葉をいい声で羅列する。


「出入り口を作った。

外に出てみよ、私が元いた世界とお前の世界を繋げた。

私はお前のせいで外に出ることは出来ぬが、お前の肉体は外に出る事が可能になった。」

「肉体だけですか?」

「ふふ、お前なかなか聡いな、精神は私を繋ぎ止めておく楔だ恐らく外には出れん、なので、そこは私が中継して繋げてやる。」

「無防備な精神を貴方が消滅させない保証は?」

「言っただろう、19年は私にとっては刹那と同じなのだ、一瞬の為に私が力を使うメリットがあるのか?

あるなら言ってくれ、すぐさま実行し、お前をこの場から消滅させてやろう。」

「いえ、、遠慮しておきます」

「それが懸命だな、最後にこれも何かの縁だ、お前にギフトをやろう。

これは本来、私の敵、お前の敵の仕事なのだがな、私の力をお前に19年預ける、と言っても、殆どの力はお前のせいで使い物にはならぬので意味がないのだがな。

向こうに着いたら確かめてみるがいい。」

「なんか、何やら何まで、すいません」

「私の安眠の為だ気にするな」

「じゃあ、行ってきます」


ピンポーンピンポーン 

ありがとうございました。


自動ドアが開き、音声が流れた。


ここから僕の期限付異世界ライフが始まるらしい。








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