第8話 恐るべき火力
東トラルティールと西トラルティールの、「国境地帯」。
両軍が、向き合っていた。
東トラルティール軍一万二千。
西トラルティール軍五万六千。
普通なら西トラルティール軍の勝ちと言うであろう。
しかし、兵の質が違った。
まず、東トラルティール軍は、志願者のみを鍛え上げ、騎士・兵士と魔導師に分け、戦略の違いに応じて使うことを前提としている。
西トラルティール軍は、一定の年齢の男子のみを集めた徴兵で、騎士・兵士のみである。
東トラルティール軍は、キティルハルムやラムンセンからふんだんに輸入される良質のミスリルの武具で武装しているため、騎士は素早く動ける上、防御も万全である。
西トラルティール軍は、対して鋼鉄。
身を守るはずの武具が邪魔し、素早く動けない。
だが、この戦いに、東側に言わばジョーカーのカードが二枚あった。
客分のはずのキティルハルム王太子アニスと、従者レアンだった。
「コレ何?」
レアンが、何やら小瓶のような陶器を並べていた。
見ると、フタの上からひものようなものが伸びている。
陶器は、無駄に装飾が施されている。
「粉末化学爆薬です。母さんがもっていけって。」
アニスの問いに、レアンが答える。
「あちゃー・・・
あの人過激なのよね・・・」
「はい。どっちかってえと、僕らが心配だからというより、ウズドガルド殿下が嫌いだからのようです。」
「わかる・・・」
「粉末化学爆薬?
なにそれ?」
レイチェルが尋ねた。
「あ・・・
はい。
キティルハルムでは、鉱山の採掘のために、「液状爆薬」を開発しました。
凄まじい威力を持つ爆薬です。
硬い岩盤を爆裂魔法並みの威力でふっ飛ばしますが、問題があったんです。」
「問題?」
「衝撃を加えると爆発してしまいます。
そこで、珪藻土という水中の粉状の藻が化石化した土にしみこませて粉末化し、紙と導火線でまとめてコンパクトにしたものが、本来の粉末化学爆薬です。」
怖ろしい技術である。
ウズドガルド王子は、こんなモノを作れる技術を持った国家を本気で怒らせたのだ。
「母さんは、これをいくらか投げ込んで、聖魔核融合でも叩き込めば、敵の八割は消滅させられるって言ってました。」
アホなくらいの破壊力である。
「ねえ・・・
どうせ使うなら、普通にやろ?
私たちの「参戦」の目的は「虐殺」じゃないんだし・・・」
「え・・・ええ。
そうですね・・・」
顔がひきつるアニスに、同意のレアン。
「ところで、この入れ物は?」
レイチェルが、レアンに尋ねた。
「僕の実家・・・
職人一族なんですよ。
母さんは、陶芸家で、うまくできたものでも満足せず、作品を叩き割ってしまいます。
「人鼠騒動」の時も、そうした「失敗作」を集めておき、敵の頭上から叩き落していたって言ってました。」
「ご先祖の一人の作品で、うちに献上された花瓶を超えるんだって言ってたけど、それはいつになるんだろ?」
やたら「濃い」国民性のようだ。
「ってか、これって・・・
失敗作なの!?」
これこそが、究極の「廃物利用」なのだろうか・・・




