第3話 お土産は、野獣です
「え・・・えらいものを見た・・・!」
その様子を、ティアムルは物影から見ていた。
その少女の、化け物じみた身体能力と戦闘本能を見ると、あれは彼女の本来の素質ではなく、種族特性によるものだと容易に理解できた。
恐らく、彼女の能力は、あの服装からして魔導師系のものと推測できる。
かつて、女王補佐官は、一連の交渉において、キティルハルムの人猫の並みならぬ身体能力を見せている。
「つまり、ウズドガルド殿下は、餌付けすれば『猫』になる相手に不用意に手を出し、『虎』にしてしまった訳だ。」
ティアムルは、己の主君に報告すべく、帰途についた。
「アニス様。あの人・・・捕まえなくてよかったんですか?」
「胸毛野牛」を仕留めたレアンが、アニスに尋ねた。
「いいのよ。
だって、どうせこっちは、いきなり会いにいくんだもの。
無理して捕まえて説得するより面倒がなくていいわ。」
当然、二人は、ティアムルの存在には気付いていた。
トラルティア城・・・
そこで、ティアムルはトラルティアに報告をしていた。
「そうか。恐らくその子供らはキティルハルムの王太子と従者であろう。」
「えっ!そんな大物を使者に遣すのですか?」
「これまでの経緯から、キティルハルムの民は、敬意を重んじる民であることはわかっている。
最初に来た人物は女王の補佐官だった。
本当なら、大物すぎて使者に出さんぞ。」
確かにそうだ。
「あれから、七年経っている。
ニウ女王も、娘に帝王教育を始めると同時に国交正常化に乗り出す考えのようだな。」
話をしていると、レイチェルが姿を現した。
「殿下。ティアムル様。キティルハルム王国王太子ニウ・アニス・キティルハルム様と王太子補佐官レアン・ミケランジェロ様がご到着されました。
しかも、「胸毛野牛」を抱えておられます。」
「うむ。客間にお通しせよ。」
ティアムルは、アニスが追って来なかった理由を悟った。
「子供のくせに食えんな・・・トラルティア様の対応を見ようというのか・・・」