第9話 数を覆す!
呪文を唱えつつ、アニスは杖を振るった。
「雷撃鉄槌雨!」
天から降り注いだ雷が、敵軍を射抜いた。
「こ・・・これが、キティルハルムの王族の力・・・」
レイチェルは、驚嘆していた。
すかさず、レアンが、粉末化学爆薬に点火して投擲する。
凄まじい爆音と共に、敵兵は爆散する。
だが、一際活躍していたのは、ティアムルだった。
「奥義!ティアムレットバースト!」
ティアムルが、駆け抜けた後は、鎧ごと斬られた敵兵の死体が無数に転がった。
数時間もしないうちに、東トラルティール軍は西トラルティール軍の半分を減らしていた。
しかも、損害なしでである。
「ぐ・・・!」
後方で、様子を見ていたウズドガルドは、歯噛みした。
「いいようにやられているではないか!」
こんなはずではなかった。
最初は、兄が長子の権利として全部もっていったものだと思っていた。
しかし兄は、次期国王の器を次第に見せ始めた。
古きものでよいものは残し、悪いものは捨てる。
新しきよいものを取り入れ、家臣や民の意見を取り入れる「民主主義」という枠組みを作った。
あの、素性の知れなかったティアムルという騎士と、レイチェルという女魔導師がいい例ではないか。
家柄など関係なく、兄に従っている。
ふと、ニス・ミケランジェロの言葉が、脳裏に蘇る。
『せいぜい兄上におしおきされるがいいにゃ。』
「くそっ!いまいましい!」
次第に数の上でも東側が、押し始めていた。
もとより、武具の質が違う。
「さて・・・」
黄金の(高純度の最高級ミスリル)鎧をまとった、トラルティアは、立ち上がり、西側の陣を見た。
西側の死者・投降者・捕虜は相次いだ。
東側は、負傷者が何名か出ただけである。
「まいった。」
ティアムルは、剣をアニス、レアン、レイチェルに見せた。
「これは・・・」
レイチェルは、一目で剣の状態を見抜いた。
「呪いが掛かってしまっていますね・・・」
「だいぶ斬ったからな・・・
私ならば、ものともせず振るえるが、他の者ならば取り憑かれ、理性を失ってしまうだろう。」
「これは・・・」
「ええ。」
アニスとレアンは、何かを思いついたようだ。
「???」
「ティアムル様。
確か、大きなご自宅がありましたよね?」
「ええ。ありますが・・・」
「蔵に、封印しちゃってください。」
「なぜ?」
アニスが、続ける。
「あなたの御子孫でもある、転生体のためです。
あなたの運命をちょっとだけ見ました。
御子孫のうち何人かは超魔王と戦われる。その一人は、この剣を使って戦われる。
でも、しばらくは不要になります。」
「超魔王・・・
毒をもって毒を制するか・・・」
「はい。」
その剣は、統一トラルティールの時代に蘇ることとなる。
娘が勇者である、騎士団長が蔵を掃除していたとき、床板を踏み外したことによって・・・
「締めと行きましょう・・・」
アニスは、立ち上がり、呪文を唱え、杖を振るった。
敵軍の中央に、魔方陣が現れた。
「アニス様!この呪文は!」
「光輝大燃焼・・・・・・!」
魔方陣から、巨大な火柱がほとばしった。
「「「ぎゃあああっ!」」」
西トラルティールの兵たちが、生きたまま焼かれる!
「ま・・・
まさか・・・!」
ウズドガルドは、ニスが言った言葉の意味を理解した。
「これが・・・「お礼参り」というヤツか!」
因縁となった、パスキールで見たキティルハルム方面から立ち昇った火柱。
説明はされていたが、納得はしていなかった。
それを、その「娘」が再現して見せたのだ。




