お前らだけは。
全力で走ってはいるものの。
智夏は結構足速いし、パタパタと走っていったからそろそろ着いているかもしれない。
やべぇ…絶対に間に合わせねぇと。
智夏自体には恨まれるような非はないけど、残念ながら俺にはあるんだ。
特定の相手だけど、少なくともテニス部の連中には。
うちのテニス部は強いからまじめにやる奴ばっかりだけど、
やっぱり多少は不良みたいな幽霊部員がいる。
そーいうのが許せない俺は何度かケンカを売られたこともある。
まぁ、買うことは無いけど。
まさか…いないよな?
よりによってこんな時に…。
一階まで二段抜かしで駆け下りる。
体育館は…あの扉だっ。
少しだけ開いた大きな体育館へと通じる扉は、きっと智夏が開けたんだろう。
「智夏っ…!」
「離してっ!!」
「っ!?」
どこかから智夏の声が聞こえた。
どこからだっ…?
この広い体育館には無数の倉庫がある。
落ち着け…俺。
体育館の中心部まで来ていったん立ち止まる。
そして耳を澄ます。
わずかな物音のする倉庫がどこかにあるはず。
どこか…。
「翔太ぁぁっ!!」
俺を呼ぶ声。
それをちゃんと認識するよりも早く俺の体は動いていた。
体育館の一番奥の倉庫だ。
立ち止まりもせずに勢いよく扉を開け放つ。
そこにいたのはやはり男子テニス部の幽霊部員の二人と、
「智夏っ」
部員の一人に手首を掴まれている智夏だった。
一気に怒りがこみ上げて来るのが自分でも分かった。
俺はケンカの経験もないし、しかも相手は二人だし。
走っていたときは何とか智夏の手を引いて逃げれば…なんて考えてたけど。
この三人を見ていたらそれが吹っ飛んでいった。
「タイミングいいじゃねぇか」
智夏の手首を掴んでいたほうの部員がパッと手を離して俺を見てニヤつく。
手を離したのを見て俺は智夏につぶやく。
今叫んだらそのまま部員に殴りかかりそうだった。
「…げろ」
「え?」
「逃げろ、智夏」
「え………、うん」
智夏は一瞬と惑うような仕草を見せたけど俺を見てしっかりと頷いた。
智夏が倉庫を出てたのを見送った二人は俺に話しかけてくる。
「俺たちに勝てると思ってんのか?」
あざ笑うかのような声に俺は妙にイラついた。
俺は吐き出すように声を出す。
「…思ってねぇよ。
でも、お前だけは許せねぇ」
俺の世界がグラリと揺れた。