5 黄色いハンカチ
静山から戻ってからの、私とミキちゃんとマー君とイクくんの4人は、ものすごく仲良しになった。
あれから香久山くんのことを、私たちはイクくんって呼ぶようになり、マー君とイクくんは、たまにケンカするけど、ケンカしたのがウソみたいにすぐに仲直りして、いっしょにあそんでいる。
クラブのない日や、お休みの日はほとんど4人でいっしょにいて、学校の裏山を探検したり、亀を探しに川に行ったり、とっても楽しい毎日だった。
そういえばマー君は、私のことを「おとこおんな」って言わなくなったけど、クラスじゃあいかわらずいじめっ子。
でもちょっと女の子にやさしくなったみたいなのは、イクくんの影響かな?
イクくんは私とミキちゃんにはものすごくやさしくて、それをお父さんに話したらジャントルマン?とか言ってたけどウルトラマンの仲間?
でも1ヶ月って時間はものすごく早くて、とうとうイクくんがアメリカに行く日がやってきてしまった。
授業が終わって帰ろうと私とミキちゃんが校門を出たら、イクくんととイクくんのお父さんが、車の中で私たちを待っていて、私たちを見つけると車から出てきた。
「イクくん!」
「よう」
「もう行っちゃうんだね」
「イクくんのママ、良くなるといいね」ミキちゃんが、寂しそうに言う。
「ありがとう、マー君は?」
「クラブだけど・・・わたし呼んでくるから待ってて」
私はそう言って、モウレツダッシュで校庭を走ってマー君を呼びに行くと、マー君は校庭を走っていた。 私が追いついて「イクくんが待ってる」と言うと、私と一緒にモウレツダッシュで校門へ駆け出した。
「おいイク、まだいたのかよ、はぁはぁ」ニヤニヤしながらマー君は言うけど、走ったせいでなんだか変になってる。
「うん、最後にお前らに・・・」
「はぁはぁ、間に合ったぁ」私は両ひざに手を付きながら、顔を上げた。
「お前らにお礼言わないといけないと思って」
「どうせまた必ず会うんだから、礼なんていらなよ、なぁ?」マー君が私とミキちゃんを見て言うと、私たちはうんうんとうなずいて見せた。
「そうか、じゃあもうお礼はいーわない!」
「なんだよそれ」
「クスクス」
「ふふっ」
「そのかわりに、コレ」そう言ってイクくんは手に持っていた紙袋から、包みを3つ取り出すと、包みにペンで書かれている名前通りに、私達に渡した。
「これは『勝』だからマー君」
「お、おう」
「これは『美紀』だからミキちゃん」
「ありがとう」
「で、これは『春美』だからハルちゃん、はい」
「ありがとう」
「みんなココで開けてみて」
それじゃあと、みんなでゴソゴソと紙の包みを開けてみると、それは黄色いハンカチだった。
「ステキ、あっ名前が刺しゅうしてる」
お花の柄は付いてないけど、黄色いハンカチの右下には名前が刺しゅうされて、左上には『友情』と刺しゅうされている。
「ホントだ、すげぇ」
「うれしい」
「前にお前らが刺しゅうのハンカチいいなって言ってたのを、ママに話したら作ってくれたんだ」そう言ってイクくんもポケットから同じように名前の入った黄色いハンカチを出した。
「オレもさ、皆と同じので作り直してもらったんだ」
「黄色いハンカチって幸せになれるって、ミキのお母さんが言ってたよ」
「友情、俺たちこれからも友だちだよな」
「私たち4人はずっと友だちだね」
「このハンカチは、その証しだ」
私はとっても良いことを思いついた、うん、みんなで約束しよう。そう思って小指を立てた右手を前に差し出した。
「みんな約束しよう!ぜったいにまた会うって」
「うん」
「約束する」
「よっしゃ」
みんなの小指が重なり合って、指きりげんまんを4人で一緒に歌った。
「ゆびきりげんまん」
「うそついたら」
「はりせんぼん」
「のーます」
「ゆびきった」
指をはなしたらお別れなんだと思うと、なかなか指をはなせなかった。みんなも同じみたいで指をつないだまま4人で黙り込んでいた。
「・・・オレ、もういかないと・・・」
「わすれるなよ」
「絶対にわすれねーよ」
「約束だからね」
「うん」
「うっぅぅぅ」
「泣くなよミキちゃん」
ミキちゃんだけじゃなくて、わたしもイクくんも、マー君だって泣きそうになっているよ。
「じゃあ、な」そう言ってイクくんは、重なっていた小指をゆっくりと離すと、何度も振り向きながら車にのって行ってしまった。
私たちは、イクくんの乗った車が見えなくなっても、しばらく校門に立っていた。
ミキちゃんと一緒に暖かい風の吹くガタガタ道を通る帰り道。イクくんと別れてから、2人ともなんとなく無口になっていた。
そこで私はまた良いことを思いついた、絶対に良いこと!
「ねえミキちゃん、夏休みになったらアメリカまでイクくんに会いに行こう」
「うん行こう!ぜったい行こうね」
「マー君もさそって、ナイショで行こうよ」
「ナイショはダメだよまた叱られるよぉ、ちゃんと言おうよ」
「だって言ったらダメって言われるよきっと」
「どうして?」
「だって、アメリカってすんごぉく遠いんだよ」
「ハルちゃんはアメリカ知ってるの?」
「知らないけど、きっと遠いよ」
「うぅーん、わかったナイショにする」
「約束だよ」
「うん約束する!」
私とミキちゃんは、ガタガタ道の真ん中で立ち止まり、どこまでも続く青い空を見上げた。
もしかしたら、イクくんもこの空を見上げているかな・・・。
~おしまい~