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黄色いハンカチ  作者: グッディ
5/7

4 トモダチ



 みんなご飯を食べ終わると、後片付けをして静山西小学校へ向かった。本当は白い砂浜で貝殻を拾ったり遊びたかったけど、今日は遊びに来たんじゃないんだもんね。


「ねえ香久山くん、もうちょっとゆっくり行こうよ」


 香久山くんが丘の上にある学校まで近道をしようと言って、急な坂に立ち並ぶ家の合間の、くねくねと縫うように続く細い階段を登っている。


「ああゴメン」


「ミキちゃん大丈夫?」


「ふうふぅ、だいじょうぶぅ」


 運動の苦手なミキちゃんは、私が引っ張るように手を繋ぎながら階段をいっしょうけんめいに登っている。


「すごい階段だね、まだあるのぉ?」


「いま半分くらいだから、もうちょっと」


「ひやぁ、まだぁ半分なのぉ、ふぅ」


 ミキちゃんはとっても辛そうだ。


「ちょっとストップ!」私とミキちゃんをおいて、どんどん先を登って行く香久山くんとマー君を呼び止めて、ミキちゃんに言った。「ねえミキちゃん、止まって向こう見てごらんよ」


 なに?と言って振り向いたミキちゃんの先には、青い海と青い空が一つになって、どこまでも続いていた。


「わぁすっごい・・・・」


「ね、すごくキレイでしょ」


「うん」


「上まで登ったら、きっともっとステキだと思うよ」


「そうだね、ミキがんばる!」


 ミキちゃんの顔がパッと明るくなったのを見て、今度は4人でいっしょにゆっくりと階段を登った。


 階段を登りきり、猫がいっぱいいる細い路地を抜けたら車が通れるくらいに道が広がり、その先に小学校の正門があった。


「ミキちゃん、着いたよ!」


「はぁはぁ、やったぁあぁ着いたぁ」


ミキちゃんヘロヘロになってるぅ。


「あっハルちゃんあれ、船だよ!」


 校門の向こう側の、入ってすぐ左手に大きな木でできた船がドーンと置いてある。


「おい香久山、校門開いてるから中に入ろうぜ」


「おう!」


 そういうとまた香久山くんとマー君は、私とミキちゃんをおいてピューッと走って行ってしまった。


「もう男子はっ!ミキちゃんゆっくり行こうね」


「うん、ありがとうハルちゃん」







 近くで見る船は、とても大きくて本当に使えるんじゃないかと思ったけど、入り口が船の底に四角く穴が開いて中に入るようになっていたから、これじゃあ沈んじゃうよねってミキちゃんと笑いながら中に入った。


「すごぉい、本当に使ってた船みたい」


「わたし船に乗るのはじめてだからわからないなぁ」


「ミキはフェリーになら乗ったことあるよ」


 フェリーって木でできているのだっけ?


 私たちは奥に階段を見つけて登ると、船の上の甲板に出れた。海のにおいがする風に包まれて、そこから見る景色は、遠くまで続く海がそのまま空まで広がっていて、まるで体中が海の青に包まれてるような、不思議な感じがした。


「うわぁけっこう高いね」


「ハルちゃん向こう、ほら海に船が見える!」


 ずうっと遠くの方に、ご飯つぶぐらいにしか見えない船が、白くかすんでゆっくりと動いているのが見える。


「あんなに小さいけど、たぶん貨物船だよアレ」


 いつの間にかとなりに来た香久山くんが答えた。


「貨物船ってものすごく大きいのでしょ?」


「うん、たぶん学校の校舎よりも大きいと思う」


「香久山くんは見たことあるの?」


「一度だけ近くで見たことあるけど、まるでビルみたいだったな」


「ふーん、でもココからじゃハナクソより小さいんだな」


「もうマー君やめてよぉ」


 となりに来てニヤニヤしながら言うマー君に、ミキちゃんがイヤそうに言う。


「なあ香久山、そろそろオマエの友だちんところ行こうぜ」


「あ、うんそうだね」


「3時7分のバスに乗らないと、3時50分の電車に間に合わないからな」


 マー君に言われて腕時計をみると、もう2時30分だ。すぐに小学校を出て友だちのお家に向かうことにした。香久山くんの友だちのお家は、学校の裏手を少し下ったところにある、歩いて5分ほどのマンションの2階だった。







 ピンポーン


 ちょっと緊張しながら香久山くんが呼び鈴を押すと、中から小柄なおばさんが出てきた。私たちの中で一番大きいマー君とかわらないくらいかもしれない。


「はーい、どなたですか?」


「あの、香久山です」


「あら!イクちゃんじゃない、ちょっとケンジーッ、イクちゃんよ!!」


 おばさんは香久山くんだとわかると、すぐに家の中へと招き入れた。


「ささ入って、お父さんと一緒に来たのかい?」


「あの、友だちもいっしょなのですが」


 おばさんがやっと私たちに気付いて、そんなところに突っ立ってないでと私たちもいっしょにお家の中へ招き入れてくれた。


「イク!」


「よう!ケン」


 ケンと呼ばれた男の子は、ビックリした顔で香久山くんを見ている。


「おまえ、来るなら来るって言えよ」


「わるい」


「こらケンジ、とっとと皆さんを中に入れてあげなさいって、ホントに気の利かない子なんだから」


 うるさいなぁと言いながら、その子は嬉しそうに香久山くんと私たちを奥のテレビの置いてある部屋へと案内してくれた。


「はいジュース、お母さんは元気にしてるかい」


 おばさんがみんなにジュースをわたしながら、香久山くんに聞いた。


「はい」


「いつアメリカへ行くか決まったの?」


「いえ、まだです」


「そうかい、早くアメリカに行って元気になって戻っておいでよ」


「かぁーちゃんもういいだろ、向こうに行ってて!」


 ケンくんがいうと、おばちゃんははいはいゆっくりして行ってねと言って部屋を出て行った。


「かーちゃん、すぐにアレコレ聞くんだから」


「別にいいよ」


「アメリカって・・・」ミキちゃんが聞こうとしたけど、すぐにケンくんがサッカーの話をしだした。


「なあイク、向こうでもサッカーやってるんだろ」


「いや」


「えぇ!なんでだよ」


「すぐ転校しないといけないからクラブはできないんだ」


 香久山くんがさみしそうに言うと、そうかと言ってみんな黙り込んだ。


「あ、あのね、今度みんなでサッカーしようよ」私は何か話さないとって思って、一生懸命になってしゃべった。


「香久山くんの友だちいっぱい呼んで、みんなでサッカーしよう!」


「おまえさぁ、よくそんなおかしなこと考えるよな」それまでぜんぜんしゃべらなかったマー君が言う。


「まあいつものことだけどさ、そんな簡単にできるわけないじゃん、だいたいおまえサッカー知らないだろ」


「そっそりゃそうだけどね、だって・・・」


「『やろうとしなけりゃいつまでたったってできない、ならやろうとすればやれるじゃん』」


 香久山くんとミキちゃんが、私が言おうとしたことを声をそろえて言っちゃったよ。


「ふふふ、やっぱりハルちゃんそうくると思った」


「はははっそうだよ、それだよな!」


 なんでここで笑うのよ?!


「今すぐじゃなくてもいいから、そんなふうにいつかみんなでサッカー、できたら楽しいだろうな」香具山くんが、なんだか寂しそうに言う。


「そうだな、そうだよな、そん時はオレも誘えよ!」


「マー君もサッカーやってるの?」マー君の話しに香久山くんがびっくりした様子で言った。


「おう!オレはけっこう上手だぞ」


 マー君、自分で上手なんて言っちゃってるし。


「そうなんだ、俺もケンもけっこうできるんだよ」


「言っとくけどドリブルじゃあ負けないから」


「俺なんてクラブじゃロナウドって呼ばれてるんだぞ」


マー君は得意げに言うけど、みんなクスクス笑い出しちゃったよ。


「はははっなんだよそれ、外人じゃん」


「ならオレは酒井宏樹だね」


「俺は中島翔哉」


「みんな海外ばっかりじゃん」


 なんか男子はサッカーの話でもり上がってるけど、私にはさっぱりわからないよ。ミキちゃんはウンウンとうなずいてるけど、わかってるのかな?


 男の子3人は、夢中になってサッカーやゲームの話をして楽しそうに話しているけど、私とミキちゃんは何を話しているのかよくわからないから、ただ聞いているだけだった。でも香久山くんが楽しそうに話をしているから、それでいいやって思ったんだ。


「あのさケン」


「なに?」


「ゴメンな」


 とつぜん香久山くんが少しうつむいたままで言い出した。


「俺、ケンにちゃんとありがとうって言ってなかった」


「なんだよ急に」


「ケンと友だちになれてうれしかった」


「バカヤロウ、そんなこと言うなよハズカシイじゃんか」


 ケンくんが、照れながら答えた。私はステキだなって思った、友達って本当に本当にいいなって。



「あの、そろそろ時間が・・・」ミキちゃんが腕時計を指しながら言うと、みんなも時計を見てため息をつきながら立ち上がった時だった。


「ちょっとイクちゃん、こっちへいらっしゃい」


 ケンくんのお母さんが香久山くんを台所の方へ連れて行った。私たちはその間にジュースのコップやお菓子を片付けて、それが終わっても香久山くんが来ないから電車に間に合わなくなるんじゃないかと心配になって台所に行くと、香久山くんがケンくんのお母さんと向かい合うようにテーブルに座っている。


「ちょうどいいわ、あなた達も座りなさい」


 そう言ってケンくんのお母さんはテーブルのイスを指した。電車に間に合わなくなるとマー君が言うと、わかっているから座りなさいと、怒ったようにケンくんのお母さんが言うので、みんなしかたなくイスに座った。


「あなた達、お母さんやお父さんにココに来ることを話していないでしょ」


 ナイショにしていることを知られていた!私はビックリしてイスから落ちそうになった。


「いまイクちゃんのお父さんに、心配になって電話したのよ」


 私は何も言えずに、だまってケンくんのお母さんの話を聞いた。


「みんなのお父さんやお母さんがどれほど心配しているかわかってるの?大事な子供に何かあったら、きっとお父さんやお母さんショックで病気になっちゃうかもしれいんだよ、それくらいみんなのことを心配しているんだよ」


 ミキちゃんは目に涙をためて、だまってうつむいている。


「わたしはね、ウチに遊びに来てくれることはとても嬉しいのよ、でもちゃんと言わなと、心配かけないようにしないと」


 マー君は、ヒザの上で手をぎゅっとにぎってケンくんのお母さんの聞いている。


「お願いだから、今度来るときはお父さんやお母さんにちゃんと話をして、ウチにも電話してから遊びに来るって、おばちゃんと約束してくれるかい?」


 私たちは、声をだすことができなくて、ただコクリとうなずいた。


 ケンくんのお母さんは、あんまり心配かけちゃダメよと言って微笑んでくれた。



 それからケンくんのお母さんは紙と鉛筆を出してきて、私たちに名前とお家の電話番号を書くように言った。本当はみんなにお家に電話してほしいそうなんだけど、それでは電車に間に合わなくなっちゃうから、私たちが電車に乗るのを見届けてから、ケンくんのお母さんが私たちのお家に電話をしておいてくれると言うことだった。帰ったらお母さんに怒られるだろうなぁ。







 静山駅までケンくんのお母さんが車で送ってくれて、駅の中のホームまでケンくんのお母さんとケンくんが見送りについて来てくれた。


「イクちゃん、ケンジも私も心配だから向こうについたら、ちゃんと着いたって電話ちょうだいね」


「はい、おばさん」


 ケンくんのお母さんに答える香久山くんは、少し落ち込んでいるようだ。


「元気でな、イク!」


「ありがとう、ケンもな」


「みんなも気をつけて帰るのよ」


「はい、ありがとうございました」


 ミキちゃんがお礼をいうのを見て、私とマー君もありがとうございましたとお礼をしたら、またいつでも遊びにきてねって言ってくれた。


 ケンくんのお母さんとケンくんは、私たちが電車に乗って、見えなくなるまでずっと手を振ってくれた。







「俺のママさ、病気なんだ」


 来る時と同じように4人が向かい合うように座ったボックス席は、みんな黙って暗い感じがしていたところに、香久山くんがしゃべりだした。


「心臓の病気で、アメリカで手術しないと治らないんだって」


 香久山くんがさみしそうに話す。


「そのために、いまの大学病院に入院して、あと1ヶ月くらいでアメリカの病院に移るんだ」


「香久山くんもいっしょにアメリカに行くんだね」


「うん、アメリカに行ってもすぐに治るわけじゃないみたいだし、どれだけ向こうにいるかわからないから」


 すこしうつむいて話す香具山くんは、なんだか苦しそうに見えた。


「アメリカに行けば病気は治るの?」


「・・・パパは大丈夫だって言ってたけど、前に先生とパパが話してるのをこっそり聞いたら、治るかどうかわからないって・・・」


「・・・」こんな時は、なんて言ってあげたらいいのだろう。


「怖かったんだ」


「へ?」


「俺さ、友だちとも別れて、ママまで居なくなっちゃうんじゃないかって、大事な人が俺のそばからみんな居なくなっちゃうんじゃないかって・・・それが、こわかった・・・」


「・・・だからおまえ、前の学校のケンに会いたかったのか」


「ごめん、おれ・・・」


 マー君の問いに香久山くんはうなだれた。


「バカヤロウ、ケンだって俺たちだってこれからもずっと友だちだろ?」


「そうよ、どんなに離れてたって、すぐに会えなくたって、ずっと大事な友だちだよね?」私もマー君に続いてしゃべった、言わずはいれなかった。


「ミキも、みんなも、もう友だちだよね、イクくん?」


 ミキちゃんが、『香久山くん』じゃなくて『イクくん』って呼んだら、香久山くんが顔を上げて「うん」といいながら大きくうなずいた。


「友だちだよ、ありがとう・・・やだなぁなんか涙が」そう言って嬉しそうにはにかむイクくんの頬を涙がつたっている。


「へへ、男のくせにみっともないや」


「ぜんぜんグスン、みっともなくなんかないよぉ」


「なんでハルちゃんまでないてるのよぉ」


「わかんないよぉ」


 私もミキちゃんも、よくわかんないけど、涙があふれて止められなかった。マー君はじっと上を向いたままだまっている、前を向いたら涙があふれちゃうのかな?


 イクくんの涙を拭く手には、あのタンポポのように黄色いハンカチがにぎられて、『郁』の字がちらりと見えた。


「ねえイクくん、なんで『イク』って呼ばれてるの?」


 名前の字を見ているうちに、不思議におもってたずねてみた。


「ケンが最初に言い出したんだ」


「ケンくんが?」


「うん、前の学校に転校した時に、『カオル』って女みたいな名前だってからかわれてさ、でもケンが『カオル』はいい名前だけど、おまえはそんなに可愛くないし、ケンカっぱやいし、この字は『イク』とも読むし、だからイクだって」


「たしかにお前はケンカ強いし、ぜんぜん可愛くねーよな」マー君がニヤニヤしながら言った。「まあ俺のほうが強いけど」


「マー君もけっこうやるけど、オレだって強いぜ」


「そういやぁまだ勝負ついてなかったな、イク」


 マー君もイクくんも、そんな怖いことを楽しそうに話さないでよ。


「もうぅ、マー君!イクくん!ケンカしないでよぉ」


 ミキちゃんが声を荒げて男子の間に割って入った。


「だめだからね、ミキ怒るよぉ」


「くくっ、悪い悪い、もうケンカはしねぇよ」


「オレもマー君とはしないって」


 ほんとに、仲が良いのか悪いのか、男の子ってよくわかんない。


「約束だからね!ケンカしたらミキ絶交だから!」


「はいはい」「はーい」


 ミキちゃんって、こういう時にすごいなぁって思う。


「なあイク、そのハンカチ名前が入ってるんだな」


「え、あぁこれね、ママが刺しゅうしてくれたんだ」


「イクのかぁちゃんすげぇな、俺のかぁちゃん絶対にこういうのしてくれないよな、かっこいいじゃん!」


「ステキよね、こういうのって」


「ありがとう、そんなに言ってもらえるとママも喜ぶと思う」


 嬉しそうに言うイクくんにとって、おかあさんの刺しゅうしてくれたハンカチは、きっと宝物なんだろうな。


 それから私たちは、私たちの学校のことや、学校の裏の山にタヌキが住んでることや、川で亀が釣れることや、いろんな話をした。やっぱり楽しいお話の時間はあっという間に過ぎちゃって、気が付いたらもう一駅のところまで来ていた。だから最後に、イクくんもぜったいにいっしょに遊ぼうって、みんなで約束をした。







 駅について、夕暮れの改札をミキちゃんと手をつなぎながら出ると、私のお父さんとミキちゃんのお父さんとお母さんと、背の高い縁なしメガネをかけたオジサンと、大きな体の怖そうな黒いメガネをしたオジサンが、私たち4人を待っていた。


「ミキ!」


「お母さん」ミキちゃんはお母さんに駆けよって抱きついた。


「どうして勝手にいちゃうのよ、お母さんどれだけ・・・どれだけ心配したか」


「ごめんなさい」


 ミキちゃんのお母さんは、いつもとってもやさしくてあったかい。


 腕を組んだままのミキちゃんのお父さんは、やっぱり怒ってるみたいだ。




「心配したぞハルミ、ケガは無いか?」私のお父さんがしゃがんで、なんかとってもやさしく話してくれる。


「うん、ケガなんてしてないよ、大丈夫だよ」


 お父さんはそれ以上何も言わずに、ニッコリと微笑みながら「そうか」と言ってうなずき、大きな手で私の頭を撫ぜてくれた。




「ばかやろぅ!」


 大きな声とバチンッと叩く音がして振り向くと、マー君が頬を押さえていた。


「おまえは、どれだけ人様にご迷惑おかけする気だ!」


 大きな体の怖そうなオジサンが、またマー君を叩こうと高く腕を上げている。


「まっってぇーっ」


 私はともかく何とかしないとって思って、気がついたら怖いオジサンの前に飛び出ていた。


「ま、まっておじさん、マー君を叩かないでマー君は悪くないの」


 オジサンの薄いマユゲがピクピクしてるぅ。


「わわわ、わたしがマー君に一緒に来てくれるようにお願いしたの、わるいっ、わるいのは・・・わたし、だから・・・」


「ちがう、悪いのはオレなんだ」私が必死に何とかしないとって、オジサンをにらむように見上げていたら、イクくんが私のとなりに来て言った。


「オレが友だちに会いたいって言ったせいなんだ、別れた大切な友だちに、みんなオレを会わせてくれるために、だから悪いのはオレなんだ」


 いつのまにかとなりにミキちゃんが来て、ぎゅっと私の手を握ってくれた。


「今の話は本当か、カオル」


 背の高いオジサンの言葉に、イクくんが「うん」とうなずくと、背の高いオジサンがパチンとイクの頬を叩いた。


「皆さんにあやまりなさい、カオル」


「・・・ごめん、なさい」


 私たちの方を向いて、イクくんはうつむいたまま言った。


「私の息子のせいで、皆さんのお子様を危ない目にあわせてしまい、まことに申し訳ありませんでした」背の高いイクくんのお父さんが、腰をくの字に曲げて言う。


「イクくんは悪くない、わるくないもん」


「悪くないよぉ、わたしが・・・ぐすん」


 私はなぜかとてもくやしくて、泣きたくないのに涙が出てきた。ミキちゃんも泣いている。


「お、おれがわるいんだぁ」


 とつぜんマー君が、大きな声で言った。


「オレが静山に連れてってやるって言わなけりゃ、みんな行かなかったんだ、だから、だからぁ」


「わかった、マー坊もういい」


「とうちゃん?」


「ワシはまたオマエがやったんだと思っとった、おまえはいつもいつもイタズラかケンカばかり、悪いことばかりする。でもこの子達は、理由はどうあれ友だちを助けたいと自分から罰をうけようとする、すばらしいお子さん達じゃないか!マー坊にはこんなすばらしい友だちがいたなんて、ワシは嬉しいぞ」


「本当にみんな良い子ばかりですね」私のお父さんが、微笑みながら口を開いた。


「お父さんやお母さんに何も言わずに行った事は、4人ともみんな悪い。でも、良い悪いを別にしても、この子達の互いに思いやる気持ちは褒めてあげても良いんじゃないでしょうかね、香久山くんのお父さん?」


「・・・そう仰っていただけると助かります」


「平井さんはどう思われますか?」


 お父さんがミキちゃんのお父さんに話しかけるけど、ミキちゃんのお父さんはまだ怒ってるようだ。


「ウチの娘は、おとなしくて、こんな大それた事をするような娘じゃ・・・」


「ちょっとアナタ!」


 ミキちゃんのお母さんが、ミキちゃんのお父さんを肘で突いた。


「ミキの気持ちも考えてあげて下さい」


 ミキちゃんをみると、泣きながらも、ものすごく怒った顔でミキちゃんのお父さんをにらんでいる。ミキちゃんのこんなに怒った顔なんて、はじめて見たよ。


「いや、その・・・親の子を心配する気持ちもわかって頂きたいと」


「みなさんも同じだと思いますよ、だからこそ皆さん仕事や家事を放り出してココにきてるのでしょうから、気持ちは一緒なんですよ」


「・・・そうですね、すみません、つい・・・」


「もうしわけありません」


 イクくんのお父さんが、また頭を下げる。


「いやもう頭を上げてくださいな」


 ミキちゃんのお母さんに言われて、イクくんのお父さんも頭を上げた。


「良いじゃねぇか友情、くぅ泣けてきたぜぇ」そう言ってマー君の怖いお父さんは、黒いメガネを外して泣き出した。メガネの下の目は、ちっちゃくてキレイで、怖い外見からは想像できないほどかわいらしくて、私は思わずミキちゃんと顔を見合わせて笑いそうになっていた。


「なぁとおちゃん、泣くなよぉ」


「これが泣かずにおれるかぁ、本当に良い子ばかりじゃねーかよぉ、これからもマー坊の友だちでいてやってくれよ」


「もっもちろんです!私たちこれからもずっと友だちです」


 私が言うと、ミキちゃんが横でカクンカクンと大きくうなずいている。


「ありがとよ、ありがとよぉ」


「あ、あの、おじさんコレ・・・」


 ミキちゃんが白いハンカチを、マー君のお父さんに差し出すと、「すまねーな」と言って受け取り、涙を拭いた。


「泣くなって、もうとうちゃんはぁ」


 しかし、ズビビビィビィッィィィッとすごい音とともにマー君のお父さんは、ミキちゃんの白いハンカチで鼻をかみだした。


「わわわ、汚いよとうちゃんやめてって、みっともないよぉ」


 ハンカチを貸したミキちゃんは、口をポカンと開け目を点にしている。


 誰かがクスクスと笑ったから、みんなも我慢できずに笑い出した、でもミキちゃんだけは口を開けたまま呆然と固まっていた。


 私は何か良いことを思いついたような気がして、大きな空を見上げると、暗くなった夜空いっぱいに星が輝いていた。







 家に帰ると、ちっちゃい弟の世話で迎えにこれなかったお母さんに、泣きながら怒られた。お母さんは私のことが心配で心配で、とっても辛くて苦しくて悲しかったのだと1時間くらいずっと言われた。私にはこんなに心配してくれるお母さんやお父さんがいるんだと思うと、涙がいっぱいあふれて、お母さんにごめんなさいってあやまってもちゃんと声に出来なかった。





「心配かけてごめんね、おかあさん」


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