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黄色いハンカチ  作者: グッディ
4/7

3 タビダチ



「やっぱ無理だよ、もういいよ」


 翌日、お昼休みに運動場のすみっこで、私とミキちゃんと香久山くんは昨日調べたことを話し合っていた。


「電車なんて乗った事ないし、間違えて乗ったりしたらどこ行くかわかんないじゃん、やっぱムリ」


 子供だけで行けるわけが無いと、香具山くんが吐き捨てるように言う。


「なんでよ、まだ何もしてないじゃん!すぐに無理って言うのやめてよ」


「だって、お金だっているんだぜ、どうすんだよ」なんか香久山君はイライラしているようだ。


「ミキはお小遣いあるから」


「どんくらいあるんだよ」


「3・・・まんえん」


 うっそ!ミキちゃんお金持ちじゃん。


「・・・そ、そうか、でお前は」


「え、わたし?その・・・たぶん6千円くらい」


「なんだよその「くらい」ってよお」


「でっでもそんだけあれば大丈夫じゃん?」


「香久山くんはお金あるの?」


「あぁ、お前と同じくらいな」香久山くんがミキちゃんを見ながら言った。二人ともお金持ちだなぁ、私ももうすこし貯金しようかなぁ。


「名呉屋駅ってすんごい広いんだろ?どの電車に乗るのかわかってんのかよ」


「それは、たぶん・・・」


「ほらみろ、俺たちだけなんてムリなんだよ」


 名呉屋駅はとーっても大きくて学校よりも広い駅なんだ。

 くやしい。

 なんかすごくくやしい。

 私は絶対にあきらめないんだから!そうだ、良いことを思いついた。


「うん、そうね、私たちだけじゃちょっと無理かもしれないわ、なら電車のことよく知ってる子をさそったら大丈夫じゃん」


「はぁ、そんな子いるのかよ?」


「あ、ミキ知ってるよ」


「ホント?」


「えっと・・・うん、後で聞いてみるね」なんだかミキちゃん、はっきりしない言い方だなぁ。


「かってにしろよ」


「ちょっと、そういう言い方はないんじゃない?」


「・・・ゴメン」


「う、ううんミキぜんぜん気にしてないから」そう言いながらミキちゃんは、両手を前に突き出して手を振ってみせた。なんか香久山くん、一回一回イヤな言い方をするなぁ。


「でもミキちゃん、それ誰なの?」


「えっと、後で、ね」


 なんかミキちゃん、あやしぃなぁ・・・。








 放課後にミキちゃんに引っ張られて、階段の後ろの隙間に2人で隠れるようにして入ると、ミキちゃんが不安そうな顔で私を見つめた。


「なになに?どうしたのミキちゃん」


「そのね、電車のことよく知ってる子なんだけど」


「うん」


「その子のおばあちゃんが、静山市に住んでて、その子1人で電車に乗って行ったことがあるって」


「っすごいじゃん、その子がいっしょに来てくれたら絶対に大丈夫だね!」


「う、うん、そうなんだけど・・・」


「どうしたの?ミキちゃん?」


 なんかミキちゃん、どうしようか迷ってるみたい。


「ねえ、その子ってだれなの?さそってみようよ」


「その、実はね・・・マー君なの」


 えぇぇぇ!マー君っていえば、香久山くんが転校してきたその日にケンカした相手じゃん、私は目をまん丸にしておどろいちゃった。


「・・・そうなんだ」


「うん」


「どうしよっか」


「どうしよう・・・ミキわからないょ」


「・・・マー君に聞いてみようよ、ちゃんと話しをしたらわかってくれると思う」必ずなんとかなるって、私は思ったんだ。


「でもぉ」


「じゃあ私が話しをするから、ミキちゃん一緒にいてね?」


「・・・わかったよ」


 それから私たちはマー君を探しに行った。


 マー君とミキちゃんは、幼稚園の頃からの友だちだ。私とミキちゃんは2年生の時に同じクラスになって、すごく仲良しになったけど、マー君とミキちゃんもけっこう仲が良い。クラスでは二人ともあまり話をしないのに、帰り道やお家で遊ぶときは、マー君の方がミキちゃんの話を聞いているくらいに、いつもはあまり自分からしゃべらないミキちゃんも良く話しをするし、マー君もミキちゃんに対しては学校でのイジワルな感じが全然しないんだもん。


「あ、マー君!」


「うぅわオトコオンナ」


 うぅぅぅ、マー君は私のことを「オトコオンナ(男女)」なんて呼ぶんだ、そりゃミキちゃんみたいに可愛くないけど、私だって女の子なんだし、ぜんぜん男の子っぽくないのに!!


「・・・あのさ、ちょっと話があるんだけど」


「クラブあるから、早くして」


 いちいち腹の立つ言い方するなぁ。


「・・・あのね、マー君に助けてほしいの」


「ヤダ」


 くわぁっ腹立つぅ~!


「あぁぁぁ、あのね、大切なことだからちゃんと話し聞いてって」


「あの、お願いがあるから・・・」後ろからミキちゃんが声をかけると、マー君はミキちゃんに気がついていなかったようで、ちょっとビックリしたような感じでミキちゃんを見ていった。


「しゃあないなぁ、話ってなに?」言い方がすごく私の時と違ってるぞ。


「うんとね、マー君じゃないと出来ないことなの」


「まかせとけ、話してみろよ」


 うっわ、なにその態度わぁ!私とえらいちがうじゃん。


「あのねマー君、おこらないで聞いてくれる?」


「なんでおこるんだよ、いいから言えって」


「じつわね・・・」ミキちゃんと私は、香久山くんのことをマー君に話した。


 前の学校の友だちに会いたいこと、その友だちに会いたいけど会いにいけないこと、すぐに別れるなら友だちなんていらないって言ったこと、だから私たちが香久山くんの前の学校まで香久山くんと行こうとしていること、それには電車に乗ったことがあるマー君がいないと出来ないことを、一生懸命にはなした。


「あいつ・・・わかったまかしとけ、絶対に静山に連れて行ってやる!」


 なんかマー君おこっていない?


「ありがとう!」


「オレにまかしとけって」


「ありがとうマー君」


「おう!オトコオンナ」


 一言多いってばぁ!でもこれで静山市に行ける!!








 学校から帰ると、マー君のクラブが終わるのを待ってミキちゃんのお家に私とミキちゃんとマー君で集まり、時間やお金のことを相談した。


 静山に行くのは、今度の土曜日の朝9時に駅で待ち合わせ。お金は6千円、お菓子は持ってこれるだけ、お母さんにはマー君のお家でお昼を食べるから、お昼ご飯はいらないと言っておくことなど、3人で話し合って決めた。


 それから、マー君がいっしょに行くことは、土曜日まで香久山くんにはナイショにしておくことになった。ミキちゃんが、ちゃんと話したほうが良いと言ったけど、マー君が「あいつはイジッパリだから、いま俺が行くって話したら、きっと行かない」だから土曜日まではナイショにしておこうって言うんだ、そうなのかなぁ、男の子ってわからないなぁ。








「ちゃんとハンカチ持った?」


「持った!」


「言うことを聞いて、良い子にするのよ」


 土曜日の朝、出かけるときにお母さんが心配そうに言う。


「お母さんマー君のお宅に電話しといたほうが良いかしら」


「そんなのしなくていいよぉ、別にお泊りするんじゃないし」


 電話なんかしたら、マー君のお家にいないのがバレちゃうじゃん!


「そう?でもお昼はご馳走になるのでしょ?」


「マー君がいいって言ってるんだからいいの、もう行ってくるからね!」


「気を付けていってらっしゃい、飛び出したりしたら危ないからね」


「もう、わかってるて!じゃぁいってきまーす」


 このまま玄関にいてお母さんと話をしていたら、約束の時間に遅れそうだと思って、勢いよくドアを開けて外へ飛び出した。





 電車の駅に着くと、ミキちゃんと香久山くんがもう来ている。


「おはよう」


「おはようハルちゃん」


「おう」


 ミキちゃんは、レースのフリルが付いた白いスカートに刺しゅうの入った半そでの白いシャツの上から、襟元にフリルの付いた黒いチョッキを着ている、ミキちゃんて本当に何を着ても可愛いなぁ。

 私はというと、青いジーンズに丈の短い半そでのピンクのワンピース、だって動きやすいんだもん。


「なあ、本当にもう一人来るのか?」


「うん、すぐ来ると思うよ」


 ほら来たとミキちゃんが言うと、マー君がニコニコしながら「おう!」と答えた。


「・・・なんでコイツなんだよ」


「か、香久山くん・・・」


「コイツといっしょなんて、イヤだからな!」


「ちょっと香久山くん」


 怒って言う香久山くんに、私はなだめるように言おうとしたけど、ぜんぜん話を聞いてくれそうもない。


「オレはミキに頼まれたから、こいつらを静山まで連れて行くだけだ。香久山がいっしょに来るのなら、勝手に来れば良い」


 マー君が、まるで大人の人が話すような言い方で言うと、香久山くんは何も言わずに「ふん」と横を向いた。


「あの、ミキ切符買おうと思うのだけど・・・」


「あぁ静山市駅まで1860円な」


 ミキちゃんがチラチラと香久山くんを見ながら、マー君といっしょに切符を買おうと販売機の方へ行く、私はじっとしたままの香久山くんの腕を掴むと、強引に引っ張ってミキちゃん達の後を追った。


「お、おい引っ張るなよ」


 そういう香久山くんは、引っ張られることに嫌がろうとはしていない。


「切符買うわよ」


「・・・ああ」


「ちゃんとお金持ってきた?無いなら貸してあげようか」


「オマエよりは持ってるにきまってる」なによそれ!


「なら自分の分くらい買いなさいよ」


 なんでこう男の子っていうのは、イジワルな言い方するのかなぁ。




 けっきょく4人で電車に乗り、名呉屋駅までは混んでいて座れなかったけど、迷路のような名呉屋駅で乗り換えた電車は、4人が向かい合って座れるボックス席という場所にゆっくりと座ることができた。


「あとは静山市駅まで2時間くらいだな」


「2時間もかかるんだ」


「ミキ1人だったら、名呉屋駅で迷っちゃってたかも」


 ミキちゃんが少し興奮しながら目を丸くして言った。


「広かったねぇ」


「オレもはじめて1人で来た時は迷ったよ」


「ふぅーん、でももう迷わないんだから、マー君すごいよね」


 そんなふうに私たちが話をしているあいだ、香久山くんは1人窓の外の流れていく風景を見ている。なんかちょっとさみしいな、いっしょに話をしたにのに。

 だから私は思い切って香久山くんに話しかけた。


「ねえ香久山くん、前の学校って校庭に船が置いてあるのでしょ?」


「・・・よく知ってるな」


「えへへ、インターネットでどんなところか調べたんだ」


「そっか、アレは使えないやつだよ」


 香具山くんが私のほうを向くと、なつかしそうに目を輝かせている。


「えーっ使えないの?なんで」


「アレはすごく昔の船を、それっぽく再現して作ったニセモノの船なんだ」


「へぇ、じゃあ船の中も昔のままで作ってあるの?」


「中も作ってあるけど、木で作ったオモチャみたいになってるんだ」


「ふーん、見てみたいな」おもちゃってことは、積み木みたいな船なのかなぁ?私はなんだかワクワクしてきた。


「ミキも見てみたい、船の中に入ってみたいなぁ」


 マー君と話していたミキちゃんが、香久山くんとわたしの話に気が付いて答えた。


「静山西小学校って、学校から海が見えるのでしょ?」


「そうだよ、3階の教室のベランダからだと、海のずぅっと先の方まで見えるよ」


「いいなぁステキねぇ」ミキちゃんが遠くを見るような顔で言った。


「雨上がりの晴れた日なら、遠くの方を行く船までハッキリと見えて、水平線だってしっかり見えるんだ」


「スイヘイセンってなあに?」


「水平線っていうのは、海と空のさかい目が一本の線になって見えることだよ」


「へぇ」


「晴れていても、普段は白くかすんでハッキリと見えないんだ」


「じゃあ今日は見えないかなぁ」


「そうだな、ちょっと見えないかもな」


 楽しそうに話す香久山くんは、やっぱり嬉しくてソワソワしてるみたい。


「なあなあ、じゃあ香久山はいつも海で泳いでいるのか?」


 身体をのり出すようにして、マーくんが香具山くんに聞いた。


「いつもじゃないけど、歩いて海まで行けるから、よく泳ぎに行ったよ」


「タダで泳げるんだろ、いいなぁ町民プールなんて250円もするし、オレだったら毎日だって泳ぎに行くよなぁ」


 ここで町民プールの話を出すところなんてマー君らしいや。もしかしたらまたケンカするんじゃないかと心配していたけど、マー君も香久山くんも楽しそうに話をしていて、私はとってもホッとした。


「もうマー君たら、タダならなんでもいいんだからぁ」


「ミキだってタダなら毎日海で遊ぶだろ?」


「ミキはしないよぉ、だって日焼けしちゃうもん」


「でもタダでアイスクリーム食べ放題だったら、いっぱい食べるだろ?」


「それは、だって、マー君だって食べるじゃない」


「ほら、タダのほうがいいじゃん」


 マー君もマー君らしいけど、ミキちゃんも負けてないよなぁ。私と香久山くんは、そんな2人の会話に思わず顔を見合わせて微笑んだ。




 2時間なんてあっと言う間だった。楽しいお喋りの時間は、こんなに早く感じるのだなって思うくらいに、気がついたら静山市駅についていた。


「腹へったなぁ、おいもう12時じゃん、なんか食べようぜ」


「マー君は遊ぶことか食べることばっかり」微笑みながら、ミキちゃんが楽しそうに言う。


「だってお腹すいたじゃん」


 さっき電車の中でもお菓子を食べてたのに、本当にマー君は遊ぶことと食べることしか考えてないみたい。


「なあ香久山、どっかでご飯たべようぜ」


「そうだな、どっか食べるところ探そうか」


「ほら、香久山だってお腹すいてるじゃん」ほらみろって顔してるし、案外この2人って仲が良いのかもしれない。


「でも、ミキは子供だけでお店に入っちゃダメって言われてるし」


「えぇぇぇ、じゃあどうするんだよぉ」


 マー君そんな言い方したらミキちゃんが可愛そうじゃん、そうだ良いこと思いついた!


「ねえねえ、コンビニでお弁当買わない?」


「えぇぇぇコンビニィ」


「それでね、海に行って砂浜で食べるの」


「ステキ!ミキも海を見ながらがいい」


「どうかなぁ、お弁当の食べられる砂浜ってあるかな?」私は香久山くんに向かって聞いてみる。


「それだったら学校の近くにあるから、お弁当を買ってバスで行こう」


「えぇぇぇまだ食べないのかよぉ」


「マー君もう少しがまんしてよぉ、ミキとお弁当買いにいこ?」


「はぁ、はらへったぁ」


 マー君は、いかにもお腹がへって力が出ないって感じでフラフラとミキちゃんの後を追いながら、みんなと一緒にコンビニへと向かった。


 コンビニでお弁当を買うと、私たちはバスに乗って海へと向かい、20分ほどで海の見えるバス停で降りると、すぐに砂浜の座れる場所を探し、みんなで砂浜の見渡せる防波堤の上でお昼ご飯を食べた。


「んごぉんごぅんぐっ」


「マー君そんなに急いで食べなくても、お行儀わるいよぉ」


 ミキちゃんがたしなめるが、マー君は我慢の限界だったようで、お弁当を食べるというより、口の中へ流し込むように詰め込んだ。


 サクサクトンカツ弁当にホットドックにお茶と、一番量が多いのに一番最初に食べ終えたマー君は「腹いっぱいで動けねぇ」と言ってその場に寝っ転がる。


「もうマー君たら、クスクスッ」


「ふふふ」


 私とミキちゃんは思わず笑っちゃった。


「マー君さあ、そんな食べ方したら身体によくないよ」


 そういう香久山くんはというと、とても上手なおはしの持ち方で、びっくりするくらいお行儀良くゆっくり食べている。なんか香久山くんのキャラのイメージがわからないや。




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