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黄色いハンカチ  作者: グッディ
2/7

1 ハンカチ


 学校帰りの長いガタガタ道が、私は好き。


 細くて小石がガタガタしてて歩きにくいけど、春になるといろんな色のきれいなお花が道の周りにいっぱい咲いて、とってもステキなの。


 そんな春の暖かい日に、いつものように赤いランドセルを背負って友だちのミキちゃんと、黄色いタンポポやアオムラサキ色のワスレナグサを摘みながら、ガタガタ道をいっしょにお家まで帰っていくと、ミキちゃんが何かを見つけて、道から少し離れたところを指差して言った。


「ねえハルちゃんアレ、大きなタンポポが咲いてるよ」


「どこどこ」私はミキちゃんの指差す方を一生懸命に見るけど、一面タンポポで黄色く染まって、まるで大きなタンポポの花のようになっていて、どれが一つの花なのか、なかなかわからなかった。


「ほらあれ、ヤブニンジンの手前」


「にんじん?」


「向こうの白っぽいムラサキ色のいっぱい咲いてる小さな花」


 ミキちゃんは花先生だから、花のことならいっぱい知っていて、いつも教えてもらっているの。

 そんなミキちゃんのいう所をなんとか見つけてみると、たしかに周りのタンポポよりも大きな丸い花が咲いている。


「あった!見つけた!すごーい」


「ね、大きいでしょ」


「うん、わたし取ってくる」


 背負っていたランドセルを道端に下ろして、私は探検に行くようなワクワクする気持ちで、ひざの高さまで生い茂る草花をかき分けながら、止めようとするミキちゃんを残してドンドンと草むらの中へと入っていった。


「ハルちゃん危ないよ、戻っておいでよぉ」


「大丈夫、あと少しだから」


 そう言って大きなタンポポに近づいてみたけど、でもそれはタンポポではなかった。


「うっそぉタンポポとちがう~」


「え、なになに、ハルちゃんミキにも見せて」


 ミキちゃんも気になるらしい。少し離れたミキちゃんからは分からないようだから、右手にハンカチを持って振り回した。


「ハンカチだよ、黄色いハンカチ!」


「なんだぁ、ハルちゃん早く戻ってきて」


 心配そうに言うミキちゃんに、私は大きな声で「ダイジョウブー」と言いながら、ハンカチを持った右手を上にあげたまま、大股で草花をよけてガタガタ道へと戻った。でも、あと一歩のところで足がすべって草の上に大きく尻もちを付いちゃった。


「きゃぅいったーい」


「ハルちゃん!」ミキちゃんがビックリして草むらの中に入って、私が起き上がるのを助けてくれた。


「ありがとう、ミキちゃん」


「だいじょうぶ?オシリ痛くない?」


「うん大丈夫だよ、ほらこれハンカチ」


「ほんとうだね、タンポポの黄色にそっくりできれい」


 そのハンカチはきれいな黄色で、よく見ると花の柄がプリントされている。


「ねえこれ、名前かなぁ」


 そういって見せてくれた場所には水色の糸で「郁」と刺しゅうされていた。


「これってなんて読むの」


「ミキわかんない」


「でもきれいなハンカチだね、これじゃあタンポポと間違えちゃうよね」


「うん、でも汚れちゃってる・・・」


 私が転んだときに、汚れてしまったみたいで泥がついていた。


「これ私がもって帰って洗ってくる」


「え、うん、はい」


 ミキちゃんは、ちょっと手放したくないみたいで、残念そうにわたしにハンカチを差し出した。私は受け取ったハンカチをクルクルっと丸めて、制服の上着のポケットに押し込んだ。


「ハルちゃんハンカチ、クシャクシャになっちゃうよぉ」


「どうせ洗うんだから大丈夫だって」


「もうぅ」何が大丈夫なのかわからない、といった顔でミキちゃんが怒ってるけど、気にしないでヒラヒラと舞うモンシロチョウを見つけた私はミキちゃんを置いて駆け出していた。


「モンシロチョウが逃げちゃう」


「ちょっとハルちゃんランドセル」


「ミキちゃん持ってきて」


「もう、ハールゥーッ!」







「ただいまー」


「おかえり、今日は遅かったわね」


 お家に帰るとお母さんが心配して、私の帰りを待っていた。


「ごめーん、ガタガタ道にモンシロチョウがいっぱいいたの」


「モンシロチョウがいても帰れるでしょ」


「だって、みんな逃げちゃうんだもん」


「モンシロチョウも早く帰りなさいって言ってるんだよ、お母さんハルミのことが心配だから、これからはちゃんと帰ってきてね」


「はーい、ごめんなさい」


 お母さんは心配しすぎるんだ。私は洗面所で手を洗いうがいをすませると、2階の勉強部屋へと着替えに上がった。


 ジーパンと薄手のあわいピンクの長袖に着替えると、制服のポケットから黄色いハンカチをつかみ出して、音を立てないようにソッと階段を下り、お母さんを探してみたけどいないみたいだから、洗面所に行って黄色いハンカチを洗おうと広げてみた。


「あぁあ、こんなに汚れちゃってる」


 黄色いハンカチの真ん中あたりが、茶色い土と緑色の草の汁で汚れてしまっている。このハンカチの持ち主は、きっとこのハンカチを探しているかもしれない。


 こんなふうに名前を刺しゅうしてあるなんて、よっぽど大切なハンカチに違いない。きれいに洗って、明日に学校で探してみよう。そう思ってハンカチを洗面台の横の棚に置いて、水を勢いよく出して石鹸を手にとりゴシゴシと泡立てた。


「あらハルミなにしてるの」


 突然後から声をかけられて私は思わずビクンと飛び上がった。


「あ、えっと、ちょと・・」


 振り返ると後にはお母さんが立っていて、その手には棚の上に置いておいたはずの黄色いハンカチが、いつの間にか握られている。


「あらま、ステキなハンカチ」


「うん・・・」


「ハルミのハンカチじゃあないわよね、どうしたの?」


「そのね・・・」私は、ガタガタ道の近くで拾ったこと、私が転んだせいで汚しちゃったこと、私が洗ってキレイにして明日学校で持ち主を探そうと思っていることを、お母さんに話した。


「そっか、自分でやろうとしてたのね、えらいなぁハルミ」


「えへへ」


「でも、ちゃんとお母さんにも相談してほしかったなぁ」


「ごめんなさい」自分で何とかしたかったとは言えずに、でも、お母さんの優しい眼差しが柔らかく心に染みてきた。


「それにね、ハルミ」


「うん」


「石鹸で洗ったりしたら、汚れが取れなくなっちゃうよ」


「えっうそぉ」


「お母さんにかしてごらん、キレイにしてあげるから」


「わたし、自分でやりたかったなぁ」


「それより、ハルミ宿題は?」


「・・・あ」


「先にやりなさい」


「えぇーっ、じゃあじゃあお母さんの隣で宿題やっていい?」


「しょうがないわね、宿題持っておいで」


「はい!」


「ついでに制服のスカートも持っておいで」


「なんでぇー」


「転んだなら、オシリ汚れてるでしょ、いっしょにキレイにしてあげる」


「うん、わかった」


 ダイニングテーブルに向かい合うように座って、お母さんが汚れを落とすのを見ながら、算数のプリントをやった。


 テーブルの上にひいたタオルのその上にハンカチを広げて、汚れたところを魔法のクスリを付けた別のタオルでポンポンとやさしく叩くと、黄色いハンカチはみるみるうちにキレイになっていった。すごい、お母さんの魔法だ。




「はいこれ、失くしちゃだめよ」


 次の日の朝、学校へ行こうと準備していたら、お母さんがそう言って右手を差し出してきた。そこにはアイロンまでされてキレイにたたまれ、透明のビニール袋に入れられた黄色いハンカチがあった。


「お母さんありがとう」


「気を付けていってらっしゃい」


「うん」


 赤いランドセルに、ていねいにハンカチを入れると、飛び出すように玄関を出て学校へ向かった。

 黄色いハンカチの持ち主は誰だろう、きっとこのハンカチの似合う可愛い子なんだろうな。

 ミキちゃんといっしょに探しにいこう。








「はーい、朝会をはじめますよー」


 いつものようにエリコ先生が黒板の前に立つと、今日のクラス当番の子が大きな声でいつものように「おはようございます」と号令をかけた。


 いつもと違うのは、先生の横に見たことのない青い制服を着た子が立っていることだった。


「今日はみんなに新しい友だちを紹介します、お家の都合でしばらくの間こちらの学校に通うことになった香久山くんです、さあみんなにあいさつしようね」


「かぐやま かおるです・・・」だれかがイケメンだと小さな声で言っている、でも私はなんだか香久山くんがイヤイヤそうにしているように見えて、ぜんぜんカッコウ良く見えなかった。


「はい、えーみなさんも香久山くんと仲良くしてあげてくださいね」


 そう言うと先生は、いちばん後ろの窓ぎわにいつのまにか置いてある、だれもすわっていない机に座るように、香久山くんへ言った。


 休み時間になると、私はミキちゃんとハンカチの持ち主について話し合った。


「きっと学校の子が落としたにちがいないと思う」


「うん」


「どうしたら見つかるかなぁ、ミキちゃん」


「うん」


「学校って言っても、いっぱいいるし」


「うん」


「学年もわからないし」


「・・・」


「ミキちゃん?」


「え?」


 ミキちゃんは、私の話よりも香久山くんのことが気になるみたいで、さっきから香久山くんの机の方ばかり見ている。といっても、当の香久山くんは他のクラスの子に囲まれて、ここからじゃ見えないけど。


「えっと、なんだったっけ、えへへ」


「ったくもう」


「ごめぇん」


「そんなに香久山くんのこと、気になるの」


「べっべつにそういうんじゃなくて」ミキちゃん、耳が真っ赤だよ。


「ただちょっと気になるだけで・・・」


 その時、教室の後ろがうるさくなったから、振り向いて見ると、香久山くんが教室から早足で出て行くところだった。


「ねえねえ、あの子ちょっとイヤな子よ」


 香久山くんにむらがっていた、おしゃべり大好きキヨちゃんが、私とミキちゃんのところに来たかと思うと、なにも聞いてないのにしゃべりだした。


「だってね、私たちがせっかく仲良くしようと思って話しかけてるのに、ぜんぜん話ししてくれないし」


「・・・」「・・・」


「カナッチが「わからないことがあったら何でも聞いてね」って言ってるのに、「別に」とか言うし」


カナッチとは、うちのクラスの学級委員で、カナッチ自身は雑用係だよって言っている、世話好きカナッチ。


「何を言っても聞いても適当に返事して完全無視するし、最後なんてひどいのよ」


「・・・」「・・・」


「「おまえらうるさい」とか言って、教室出て行っちゃうんだもん!どう思う?カナッチすごく悲しそうな顔してるし、もう香久山くんサイテーよ」


「はぁ」


「ちょっとカッコウ良いからって、あんなやつ皆で無視してやればいいのよ!ねえ」


「・・・」「・・・」


 おしゃべり大好きキヨちゃんは、ガガガガッと言いたい事を言うと、ぼうぜんとしている私とミキちゃんを置いて、別の子のところへ言ってまた同じ話しをし出していた。キヨちゃん、いつもの事だけどあいかわらずだなぁ。


「行っちゃったね・・・」


「・・・うん」


 ミキちゃんは、香久山くんのそんな話を聞いたせいか、ちょっとさびしそうにうつむいている。私は大切な休み時間がおわってしまったことの方がショックだけど。




「おい!おまえ!」


 授業が終わって掃除の時間、突然大きな声でマー君が言った。私も教室の掃除当番だったから、ビックリしてマー君の方を見ると、香久山くんと向かいあっている。


「俺の話を聞けっていってんだよ!」


「うるせーよ」


 やっぱり香久山くんが原因みたい。マー君の顔が赤くなる、なんかヤバイ感じ。


「おまえいいかげんにしろよぉ」


「はいはい」


 あぁ香久山くん、そんな言い方したら・・・。


 あっと言う間だった、マー君が香久山くんのシャツをつかんだと思ったら、香久山くんがつかみ返して床に転がって大ゲンカ。マー君はクラスじゃみんな怖がってるいじめっ子だ、だれもマー君を止められないよ。


「やめなさいよ」


「マー君やれ!」


「やめてよぉ」


 女の子達がやめさせとうとするけど、男の子たちが声をあげてマー君をせき立てる。


「コッラァー!!」


 教室にひびくような先生の声で、やっとマー君と香久山くんが手を止めた。


「あ ん た た ち 何をしてるの!」


 そう言ったかと思うと、エリコ先生は二人のえりもとをつかんで、マー君と香久山くんを引きずるようにして教室から出て行った。後で聞いた話では、2人は職員室でものすごく叱られたらしい。



 その後のクラスはと言うと、みんな掃除もしないで香久山くんとマー君の話でもり上がってしまい、終わりのチャイムが鳴っても掃除が終わらずに、見回りの先生が教室にくるまで掃除が続いた。結局香久山くんもマー君も、みんなが帰っても教室には戻ってこなかった。


 私は、黄色いハンカチの持ち主を探す事もできずに帰らないといけないことがショックで、明日こそはなんとか探しださないと、きっと持ち主も探しているかもしれないと、ミキちゃんと話しながら下校した。




次話をどこから投稿すればいいか、ちょっと悩みました(汗)

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