可愛い過ぎる私の婚約者 婚約者と平民の受難
ただでさえ居心地が悪い平民生徒。
生命の危機に陥ります。
子息を令息に直しました。
僕は、キャスター・ユインスキー。
レオンクラウド殿下と同じ教室に通う富裕層の平民だ。
隣の席のヤツのせいで、朝から心臓が止まる思いばかりしていた。
隣に座るのは、スデケヌマ子爵令息、貴族様。
こいつが、空気読めないバカ野郎だった。
元ラーシナカ公爵令嬢に惹かれているのは、本人の勝手だ。
それを自分の心の中だけにしてほしかった。
殿下の機嫌は、無茶苦茶悪い。
夏の長い休みの終盤に殿下と婚約者のイハヤタカ侯爵令嬢が襲われた。
殿下とイハヤタカ侯爵令嬢には、怪我は無かったらしいが、犯人が高位貴族だったため大騒ぎになっていた。
犯人に隣のスデケヌマ子爵令息が心酔している(現在進行形)元ラーシナカ公爵令嬢が含まれ、刑罰を受けることになった。
バカ令息は猛烈に怒ったね、殿下の婚約者に対して。
人気のあった元ラーシナカ公爵令嬢の処罰に、人気のないイハヤタカ侯爵令嬢の学園での立場は最悪なモノになっていた。
僕はどちらかというと、元ラーシナカ公爵令嬢は好きじゃなかった。
挨拶をしても返してくれないし、平民と見下している態度がアリアリだったからだ。
僕が触った物は触ろうとしないし、ぶつかろうもろなら回りの者に何をされるか分かったもんじゃなかった。
まあ、ほとんどの貴族が平民を見下しているんだけどね。
隣に座っているバカ令息も。
殿下の婚約者、イハヤタカ侯爵令嬢はそうじゃないらしい。
二歳下の従姉妹がイハヤタカ侯爵令嬢と同じ教室だが、イハヤタカ侯爵令嬢に挨拶すると会釈を返してくれるし、冷たい目で見られたことは一度もないらしい。ぶつかってしまっても反対に大丈夫?と気遣ってもらえたと言っていた。
イハヤタカ侯爵令嬢は、その見た目からも冷たい令嬢といわれているが、元ラーシナカ公爵令嬢のほうがよっぽどその言葉が合う気がする。
で、隣のバカ令息、殿下が登校されると、真っ先に元ラーシナカ公爵令嬢の無罪を訴えた。
やっぱりバカは、バカだった。
議会という場所で議論に議論を重ね、決められた決定は王であってもなかなか覆せない。
殿下は、まだ王じゃない。
発言力は強いが、決定を覆せるほどの力はまだ持ってみえない。
無罪というなら無罪の証拠を示せと言われて、それても引き下がらないバカ令息。
バカ令息みたいなヤツが殿下のところに来て、余計に調子にのる。
殿下の機嫌が急降下で、ほとんどの者が身を小さくしているのに。
おまけに婚約者のイハヤタカ侯爵令嬢が、陥れただの、騙しただの、真犯人だの、騒ぎ出す始末。
本当にいつ殿下がキレるか、ドキドキしていた。
イハヤタカ侯爵令嬢だぞ、子爵より上位貴族だぞ。
それに殿下の婚約者、不敬罪になるんじゃないかな?
「マリークライス様は、悪くない。悪いのは、イハヤタカ令嬢だ!」
げっ!!
僕は、急いでバカ令息の口を手で封じた。
これ以上、バカなことを言わないように。
殿下のほうから、強烈な冷気がきている。
死ぬ?巻添えになって、死んでしまう?
「おい!」
肩を力強く叩かれ、バカ令息の顔を見ると真っ青になって震えていた。
ゼイゼイと掠れた呼吸音。
僕の手には、引っ掛かれた跡。
もしかして殺しかけた?
「きさま!」
まわりの貴族様たちが立ちあがり声をあげた。
トン、トン、トン
机を叩く音。
殿下の方をみた貴族様たちは顔色を悪くして、椅子に座り直している。
殿下の不機嫌は、最大になっている。
僕は怖くて、殿下のほうを見れなかった。
気が付くと、バカ令息は隣の席にいなかった。
保健室に連れていかれたようだ。
僕は、どうなるのだろう?
不敬罪で処刑されるのかな?
憂鬱な気分で授業を受けた。
やっぱり先生から呼び出しを受けて、三日間の自宅謹慎になってしまった。
謹慎が解けて学園に登校すると、バカ令息は居なくなっていた。
家の不正がバレたということで、一家で夜逃げをしたらしい。
貴族様が夜逃げして、その先、生きられるのかが疑問だけど。
人にしてもらわないと着替えさえ出来ない人たちだからね。
ちらほら、学園から人が消えている。
それも元ラーシナカ公爵令嬢に心酔していた人たちが。
魔道具をイハヤタカ製以外に替えられた家は盗賊に襲われ、ある家は事業に失敗し、ある家はバカ令息のように不正が見つかったりして、弟一家に爵位を譲渡した家もあった・・・。
たった三日間だよ。学園に来なかったのは・・・。
僕は、謹慎以外の罰は受けなかったが、殿下には絶対近づかないようにしようと思った。
もちろん、イハヤタカ侯爵令嬢の悪口には参加しない。
「で、でんか!」
私は、立ち止まった。
本当は、こいつらの顔など見たくないのだが。
「何故、謹慎処分だけなのですか!」
顔の回りを真っ青にしたスデケヌマ子爵令息もいる。
「学園内のことだ。」
「平民が貴族に手をあげたのですよ。」
どの口が、それを言う?
「ここに侯爵家以上の爵位の者はいるか?」
この言葉の意味が分かった者は、いない。
「私が伯爵家の者でこの中で一番高位です。」
一人が手をあげた。
その通りだ、こいつの家が一番爵位が高い。
「私の婚約者は、イハヤタカ侯爵家の令嬢だ。」
何人かが、一瞬で顔が青くなった。
「でも、マリークライス様は!」
スデケヌマ子爵令息が、顔をしかめながら進言する。
で、それが何故関係する?
「父親は、今は、子爵だ。爵位は別にしても私の婚約者を侮辱したことをどう説明する?」
陥れただの、騙しただの、真犯人だの、散々言っていたが。
残りも全員、顔色を無くした。
私の婚約者を侮辱するということは、私を侮辱したことになる。
それにやっと気がついた感じだね。
「私は、学園内だから、不問にした。」
けれど、スデケヌマ子爵令息は、やっぱりバカだった。
「私は、殺されかけたのですよ!」
「私の代わりに婚約者を侮辱した君を罰してくれただけだ。」
回りの者が止めて、やっとスデケヌマ子爵令息は、大人しくなった。
うん、真っ先に消えてもらおう。
これだけバカな家臣は、いらない。
で、一番惨めな最後を。
平民くんが真面目なので、小話も真面目です。
スデケヌマは、マヌケデス。
名前を考えられなくて、こうやって考えたらいいのか。
あ!バカデスでスデカバにしなくちゃいけなかった!!
マヌケがもう一人、うん、いつもいるマヌケです。