I’m in love ~Charlotte’s Case ~ 2
「エリザベートは王太子のことをどう思っているの?」
庭園に用意されたお茶会の席に着くと、私はずっと気になっていたことを訊いた。
エリザベートが2回、目をパチパチと瞬かせた。
「好きとか嫌いとか考えたことはないわ」
「そうなの?」
数ヶ月前まで私は王太子の虚像に憧れていた。
結果として、王太子が思ったような人ではなかったわけだけれども。
「顔やスタイルはとっても、カッコいいでしょう」
私が言うと、エリザベートはお茶を一口含んで、宙に視線を投げた。
「そうね。造作は整っていると思うけれど、王太子の中身は非常に問題があるから」
さらりと不敬とも取られかねないことを口にするエリザベートに、私は苦笑した。
エリザベートは、王太子の本質をしっかりと捉えるようだった。
〝エリザベートは私の愛情に希望もなくて、政略結婚であることを十分に理解している。あれは丁度よい〟
私がうっかり、猫だったとき、オスカー王太子が言った言葉。
もちろん、彼の言葉をエリザベートに伝えたことはないけれど、彼女は最初からオスカー王太子の内面に気がついているようだった。
「もちろん、為政者としては正しい人だけれども、惹かれる要素がないわ」
「そうよね」
しみじみと頷くと、エリザベートは首を傾げた。
「シャルはどうして、ノア王子を好きになったの? 王太子のことを好きだと思っていたのに」
「そ、そうね」
私はどうやって説明したらよいのか、言いよどんだ。
まさか、猫になったときにノアの優しさに触れて、彼に恋をしたとはいえない。
「ノア様は国のために女性に近づいて多くの情報を得ようと努力されて、兄弟想いですし、国想いの方ですわ。それに、とっても優しい目と、暖かい手を持った人ですから」
私が【ミルク】については一切、触れないように彼のよさを語ると、エリザベートは目を見開いて、驚いた。
「シャルは、ノア王子の本質をよくご存知なのね。私はてっきり―――」
「わかっていないと思っていた?」
エリザベートが口を閉ざした瞬間、気まずい空気が流れる前に、私はウインクした。
「大丈夫。わかっているわ。以前の私は、何も見えていなかった。オスカー王太子はとてもかっこよくて、人当たりが良い完璧な王子に見えた。だけれども、あんなに腹黒だったなんて何も気づかなかったもの」
「シャルはとても、見る目があるのね」
あたしがハッとして顔を上げると、エリザベートの表情が、少しだけ和らいで見えた。
「ノア王子は、きっと素敵な男性だわ。シャルにきっとお似合いの男性よ。シャルも素敵な女性だから、すぐにふたりは結ばれるわね」
「そうなるといいんだけれど」
「大丈夫」
エリザベートは大きく頷くと、「私が保証するわ」と穏やかに口にした。




