第一章
家の門をくぐって、中を覗くと小さな畑とその奥に赤い屋根の家が見えた。
三人家族には少々広すぎると感じたが、田舎だとこれが普通なのだろうか。
「おい響、荷物を運ぶのを手伝ってくれ。」
後方から父親の声が聞こえたので、急いで車に戻って荷物運びを手伝った。
家族との話し合いで、自分の部屋は二階の一番端っこに決まった。
夕方頃にはなんとか荷ほどきが終わったので、家の近所を散策しようと思い、僕は外に出た。
車からは気がつかなかったが、どうやら家は山に囲まれており、裏手には深い森が続いていた。
「庭から森まで結構近いんだな。」
都会に暮らしていた頃には触れることのできなかった大自然の風景に好奇心をそそられ、
僕はそのまま深い森の中に入っていった。
森の中は思った以上に静かだった。
日没が近づいているからか、何か異様な雰囲気すら感じる。
まるで現実世界からかけ離れたようだ。
どこか見晴らしの良い場所はあるか探していると、突然誰かからの視線を感じた。
地元の子供が森で遊んでいるのかと思い辺りを見渡してみるが誰もいない。
視線を気にしつつも、とりあえず先へ進むことにした。
10分ほど藪を掻き分けながら歩き続けた時、再び視線を感じた。
とっさに振り返ると、藪の間に少女の姿を見た。
謎の少女は黙ってこちらの様子を伺っている。
よく見ると、毛皮のような物を体に纏っている。
コスプレでもしているのか?
そんなことを考えつつ、少女に話しかけてみた。
「そこで何をしているの?」
少女は何も答えない。
そのまま数分の時間がたった時、少女は急に藪の中に消えていった。
あの子はいったい何者なんだろう。
突然起こった出来事に茫然としていたら、急に携帯電話が鳴った。
電話に出ると、母からだった。
「響、何しているの?そろそろ夕飯だから帰ってきなさい。まだ荷ほどきも終わってないでしょう。」
「ごめん、すぐ帰るよ。」
一気に現実世界に戻された気分になり、足早に来た道をだどり家へと向かった。
今日は疲れたから、早めに寝よう。