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「正解。聞いていたんだな」

「そりゃね。ついていけてるかは、自信ないけど」

「……そんな無尽蔵の魔力の持ち主であれば、大掛かりな禁呪で呪われるのも頷ける」


「………………勝手に納得してるし」


納得した様子で話を進めている三人の様子に、少女は呆れたように呟いて、氷が溶けて薄まったりんごジュースを飲み干した。




「ともかく! これで晴れて、嬢ちゃんもうちの冒険者だな」

「は? まだ身元も割れていないが」

「名前を失っている子にそれを求めるのは無茶じゃない?」

「そうだそうだ」

「調子に乗るなよ不審者」

「そっちこそ突っかかってこないでくれる? 私、いま名前がないことは証明したし」

「それに、これからは一緒に冒険するんだしさ。仲良くしようよ」

「は????」


変わらず一触即発、とも取れる様子で煽り合う二人を止めるコウの言葉に、マースが声を荒げる。ここまで散々言い合いをしてきた少女は、しかし声を荒げることはなかった彼が初めて見せた声色に、誰にも気が付かれない程度に少し興味深げに反応を示した。


「誰と誰と誰が一緒に冒険者業に勤しむって?」

「三人だって分かってるじゃないか。……マース、言っとくが、他に選択肢はないぞ」

「ただの従業員如きいつでも——ああ、コウか……」


感情的に言い返しかけるも、冷静さを捨てきれない脳がその答えを察して一気にクールダウンする。


「え、俺?」

「マスターがこいつを冒険者として登録したとして、どうせ一人にさせられないとかでついていくだろう、お前」

「いやあ……まあ、ほっとけないだろ。俺だってひよっこだから頼りないけどさ」

「そうだな。私も崖から落ちようとしているひよっこ×2を見捨てるほど薄情じゃない」


マースの言葉に「いや薄情ではあるだろう」「お前さんはコウを放っておけないだけでは」などと思いながらも、マスターは見守るに留めた。


「……余計な荷物はいらないんだけど」

「世間知らずのお嬢様丸出しのお前だけで依頼が舞い込むとでも?」

「あんたたちがいて変わるわけ?」

「こいつらも浮いてるっちゃあ浮いてるが、流石に嬢ちゃん一人で、よりはマシだろうな」

「マシ、ね」


マスターの口添えが加わり、少女は考える素振りを見せた。数秒もたたない程度の沈黙ののち、


「……じゃあ、よろしく」


出てきたのは意外なほどに殊勝な台詞にマークは動揺の沈黙で答え、


「! ああ、よろしくな」


コウは同じく驚いたものの嬉しそうに手を差し伸べ、そして当然のようにその手は無視をされるのだった。






「さて丸くおさまったところで、お前さんらのチーム名を決めないとな」

「チーム名?」

「あった方が依頼を受けるときに何かと便利なんだ。それに名も売れやすい」

「何でも良いんじゃないか。妙なもんじゃなければ」

「A様御一行」

「妙な案を出さないでもらえるか」

「は? どこが?」

「正気か貴様」

「本名じゃないとはいえ私の名前を冠することができるんだから光栄でしょ」

「……そもそもだが、Aというのが若干呼びづらいというのはあるな」

「そうかな。Aちゃん、とか。あ、」

「なんだ」

「前どっかで聞いたんだけど、女の子の名前に()がよくつく文化? があるって」

「…………A子ということか?」

「そうそう。可愛いし呼びやすいし、どうかな」

「……無理やり寄越された名前よりはそれこそマシ。じゃあA子様御一行、で」

「まだ諦めてなかったのか」

「他に案があるなら聞いても良いけど」

「……」

「俺は特にないよ」

「ないのか……。なら、A子様御一行で登録するぞ。おすすめはせんが、一応変更はいつでも効くからな」

「しないし」

「せんのか……」




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