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「貴様の勝ち、のようだな」

「当然」

「しかしどうなっている? ライジルの炎の玉は確かに直撃していたし、最後もいくら貴様の全体重を勢い付けてかけたとて、あの巨体をあそこまで投げ飛ばすのはまず不可能だろう」


最後の瞬間。

少女は肩越しに跳び越えながらライジルの後ろ襟を片手で掴み、そのまま己の体重を掛けながらその身体を投げ飛ばしたのだ。

しかしマースの言葉通り、成長途中の子どもが、しかも片腕でどうにか出来る相手ではない。仮に浮かせることができたとしても、遥か高く、加えて遠くへまで吹き飛ばすなど、並大抵のことでは不可能だ。


「説明するギリないよね」

「おう二回戦開幕といくか?」


冷めた目で一瞥し、こともなげに言い捨てた少女にマースのこめかみがピクリと動く。少女が応えようとする前に、遠くから近づく足音と、おういと呼びかけるような声に気づいた二人が揃って顔を上げる。


「いたいた。倉庫掃除終わって帰ったら、店は閉まってるし誰もいないし何か起きたのかと」


駆け寄ってきたのはマースと同じ年頃と思われる青年であった。


「すまない。声をかけるのを忘れていた」

「いや、何事もないなら良かったよ。ところで、こちらは?」

「新規冒険者」

「おい」

「そうなのか! 俺はコウ。よろしくな」

「おい」

「君は?」


気難しげな顔をするマースの制止の声には気がつかない様子で、コウ、と名乗った青年は少女に問いかける。

真っ直ぐに向けられた視線に目を合わせた少女は口を開くそぶりを見せ、そして閉ざす。そして憎々しげに舌打ちをした後、


「……A」


呟くような声量で、告げた。


「……えー?」

「そうだけど。Aだけど」

「そっか、よろしくな」

「……見知らぬ他人に本名を明かさない知恵は認めるが、ファーストネームは譲れ」

「は?」


マースの言葉に、Aと名乗った少女は眉を顰める。


「他所は知らんが少なくともここはそういうルールだ」

「なんで?」

「貴様が名乗らない理由と同じに決まっているだろう」


呆れたように告げるマースに、少女は小さく首を傾げる。


「……? 意味が分からないんだけど。」

「はあ? 貴様——」

「おーい。お、コウも来ていたか」

「マスター」


噛み合わない会話に二人の視線が険悪げに歪んだところで、会話は遮られる。


「ライジルの奴も回復して、他の連中も落ち着いてきたからな。そろそろお前さんらも戻ったらどうだ」


くい、とマスターが親指で示した先では、大男が複数人に支えられてゆるゆると立ち上がっている。その様を見て、顛末を知らないコウは首をかしげる。


「ライジル? 何かあったのか?」

「コウは知らなくて良」

「私が倒した」

「な、なんでまた」

「まあ端的に言うと、奴との決闘で嬢ちゃんの実力を見せてくれれば冒険者として登録してもらうという話になってな」

「待て、マスター」

「? どうした、マース」

「……こいつはファーストネームを明かす気は無いとのことだ。宿に置くには危険だろう」




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