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14

帰路。

同じ道を辿っているはずなのに、来た時とは様相が随分と異なる。地面に隙間なく茂っていた緑は、大きな足で掘り返された痕跡を残して転々と存在を失っていた。小さな山を作る土を、たまに避けながら一行は進む。


「何の足跡だろうね、これ」


時折よろけるマースを気遣いながら、コウが首を傾げる。


「コボルトでしょ」

「……こんなに巨大な足は持ってないだろう」

「雑魚じゃなくて私が倒したやつ」

「は?」

「確かにこれくらいだったような」

「……突然変異種か?」


A子のみならずジョフも同意を示すので、マースも信用することとした。依頼人側が、わざわざ報酬上乗せに繋がりかねない嘘をつく道理もない。

通常のコボルトが人間とさほど変わらぬ大きさであるのに対し、足跡から察するにこの個体の大きさは異常であった。


「でかい熊くらいありそうだね」

「ああ。……魔物の数が増えているのとも、関連があるのかも、」

「A子!!」


マースの言葉が途切れ、コウが少女の名を叫ぶ。前を歩くその背中が、突如地面に沈んだように見えたからだ。咄嗟に伸ばしたその手が、消えゆきそうであったA子の腕を掴む。

ぱらぱらと滑り落ちる土と小石が、落ちる音は聞こえない。

A子が落ちかけたのは、掘り返された土に隠された古井戸だった。深い底は視認もできず、普通に落ちればタダでは済まないことは明らかだ。


「……っ」


怪我に失血、疲労の蓄積したコウの腕が悲鳴をあげる。小柄で華奢な体躯とはいえ、全体重が片腕のみにかかればその負担も大きい。柔らかな土に、足も滑りかける。数テンポ遅れて、マースがコウの身体を支えた。

井戸の口の中で顔を上げたA子が、数瞬間を置いたのち、


「離して」

「そんなこと、できるわけ、」

「落ちたところで怪我とかしないし」

「分からないだろ! 底が見えないほど深いんだ」

「……ずるずる滑るせいで、土降ってくるんだけど」

「大丈夫、だから」

「……」


細かく降ってくる土にA子は目を伏せる。コウの後ろにはマースもいる。踏ん張れるような足元であれば引き上げられるだろうが、このままでは3人とも落ちるのも時間の問題だ。

と、不意にA子が眉を顰める。そして、


「うるっさいな……()()()()!!」


怒りの込められた声色が、反響する。

A子の蒼く靡く髪の上で存在感を示していた、赤い花を象った髪飾りが強く瞬いた。


「ったく、おせーんだわ」

「……」

「オニーサン、見ての通りだから。手、離してだいじょぶだぜ」


A子の身体を抱えながら、突如現れた少年が笑ってみせる。

呆然としながらも手を離さないコウを見つつ、


「お人好しだねえ」


背を飾る宝石のような硬質の羽根を羽ばたかせ、少年はA子と共に井戸を脱出した。二人が地上に着地したところで漸く、力が抜けたらしいコウの手が離れる。


「さっさと呼べばいーのに」

「名前知らないし」

「教わってただろ! 聞いてなかったん?」

「……。いつまで座ってるの」


少年の言葉をスルーして、A子はコウとマースに声をかける。ゆるゆると立ち上がって、


「誰だ、そいつは」


マースが尋ねるのに対し、


「A子様の護衛? 任されてます。……エルフのルミナス。よろしくどーぞ」


ルミナス、と名乗ったエルフの少年が、態とらしい恭しさでお辞儀をしてみせた。

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