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「……!?」


現場は悲惨な有様だった。

細い木々は薙ぎ倒され、散った枝葉が散乱している。生い茂っていた雑草は焼け焦げ、その上にコボルトが転がっていた。A子が立ち去った時より、その数は増えている。

コウは地に突き立てた剣に身体を預けて肩で息をしている。ボロボロの衣服にははっきりと血が染み出しているが、派手に流血している様子はない。転がっている空き瓶に満たされていた傷薬の賜物だろう。

新しい傷の刻まれた大木に背を預けて俯くマースもまた、似たような有様であった。大きい傷は塞いだようで、肩口に穴が空いた衣服の向こうにはきちんと皮膚がある。細かい擦り傷や切り傷には手が回っておらず、生白い顔は更に色を失っている。魔力切れを起こしていることが、息を呑んだ素人目にもよく分かった。


「依頼達成ね」

「……へ、は?」

「だから、依頼。街に来てた6匹、ここので倒しきったから」


そんな2人に目もくらずに転がるコボルトを観察していたA子の言葉に、ぴくりと投げ出されていたマースの手が動いた。


「……貴様、今までどこに」

「あ、生きてたんだ」

「…………ッ」

「待って、マース」


憤りを目に宿すマースを、ふらつきながら立ち上がったコウが制する。


「……なに」

「ジョフさん、助けに行ってたんだよね。ありがとう」

「は?」

「ち、違うのか!?」


首を傾げるA子にジョフが驚愕する。

仲間を置いてまで山小屋に来たのだ。巨大なコボルトの襲撃から救うためでなければ、何だったのか。


「…………。そうかも。A子様のご慈悲に感謝の念に耐えないらしいし」

「んなことは、」

「命の恩人なわけだし」

「……まあ、感謝はしてるが、」


正直なところ、巨大なコボルトに襲われかけたという割にジョフは見合った恐怖を感じていなかった。感じなかった、ということは勿論無い。腰を抜かして怯えたが、それまでだ。それよりも、こんな惨状になっているコウとマースの方がよっぽど恐ろしい化け物に遭遇したのではないか、などと考えてしまう程度。


「……お陰でこちらは死にかけたがな」

「弱いのが悪いんじゃない」

「金にならん相手を助けて治療費を増やすとは恐れ入るな」

「マース」

「別に私もこいつに用はなかったけど。嫌な気配がするってうるさいせい」

「え、助けに行ったんじゃ、」


戦闘の名残か、未だ静けさを取り戻せない山のざわめきの中、A子とマースの口論が淡々と響く。


「コボルトの足跡も、貴様が判断してたわけではないだろう。いったい誰と話している」

「答える義務あるの」

「誰かがいることは確実なようだな」

「見えてないならどうでも良いでしょ」

「……なあおい、そんな悠長に話していて良いのか」


不安げに辺りを見渡すジョフの言葉に、


「まあ、依頼は達成したし。……いつまで座ってるの」

「……」

「マース、立てる?」

「……問題ない」


ふらつきながら、背後の木を頼りにマースが立ち上がる。二人の険悪な空気は紛れそうにもないが、ともかく一行は下山を始めるのだった。


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