8
まだ納得のいかない様子の者もいたが、ジョフとモトが認めているのを見て、渋々散会していく。
「ありがとう、ジョフさん。モトさんも。頼りないと思うけど、依頼はしっかりやり遂げるよ」
「頼りにしてるよ、冒険者さん。な、ジョフ」
「まあ、背に腹は変えられねえ」
「は?」
「……しかし、本当にこの小娘も行くのか」
じろりと鋭い視線を向けるA子に、ジョフは疑わしげな表情を見せる。
「へえ。まだ疑うの」
「そんな細腕で何が振るえるんだ。武器だって何も持ってねぇだろ」
「マースだって持ってないでしょ」
「私を巻き込むな」
「お前もヒョロっちいな」
「……」
巻き込まれた上についでのように貶されたマースは小さく眉間に皺を寄せた。
「ジョフ。この子らは冒険者なんだ。武器は剣や弓に限らんだろうし、魔法だってお手の物だろうよ。育ちも良さそうだし」
「そんなものか?」
「……まあ、そんなものと思ってもらえれば」
実際、マース自身は魔法を使用するものの、A子の戦闘スタイルは把握していない。チームとしていかがなものかとは思うものの、聞いたところで素直に答えるとも思えず、すぐに知ることになるだろうし、広場での模擬戦闘を見ているので大体想像はつく。
しかしわざわざ依頼人に開示する情報でもない。適当に流すに留めることとした。
「……で、リーダー」
「何」
「出発しないのか。日が暮れるぞ」
「山の中で夜を越すのは避けたいね」
「……コボルトって、畑にしか来ないの? 家襲ったりとか」
「ああ、畑だけだね。血気盛んな奴らが追いかけた時も、襲ってこないでそのまま山に逃げてったって」
「そう」
土に刻まれた獣の足跡をじっと見たかと思えば、すたすたと歩き出す。着いてくることを疑わず振り向きすらしない様子に、コウが慌ててその背を追う。
「案内役、よろしく頼む」
「…….なあ、本気であの小娘がリーダーなのか?」
「ええ。A子御一行をどうぞよろしく」
マースも肩をすくめて、ジョフと共にその後を追った。
*
「本当にその格好で山登るのか」
「文句ある?」
「……俺は怪我しても知らんからな」
「しないから」
「足痛くなったら言ってくれよ、薬草はあるから」
「汚れたからと文句を言うなよ」
「あんた達こそコボルトごと倒しても文句言わないでね」
純白のロングブーツが、湿った土の上を歩く。汚すことを恐れる価値があるのは誰の目から見ても明らかだが、A子は全く気にする素振りも見せず、木々の生い茂る湿った空気の中を進んでいく。
山の傾斜は緩やかだが、地面はぬかるんでいて油断して歩けば足を取られそうだ。その分、街と山を往復したコボルトの群れの足跡はしっかりと残っている。
「ここを左に進むと山小屋がある。ボロいが休憩くらいはできる。その更に奥が川だ。俺はヤバくなったら山小屋にでも逃げる」
足跡を追いながら、街から山までの道のりで話した討伐の流れを再度確認する。
「何か作戦は考えてるのか?」
「倒すのに作戦とかいるの」
「……コボルトは臆病だ、普通に出くわせばまず逃げられる」
「追いつくでしょ」
「山、結構ぬかるんでそうだからきついかもしれないね。コボルトにとっては慣れた住処でも、ジョフさんがいるとは言え俺たちは初めて行く場所だし」
「面倒だし山ごと崩せば?」
「災害を起こすな馬鹿者。……巣に手を出すのが早いだろうな」
「逃げるんじゃないの」
「普通に出くわせば、だ。巣にちょっかいを出されれば、大体襲ってくるんじゃないか」
「そういうコボルトなの?」
「……会ったこともないからな、知らん。知性の低い魔物の傾向としてある、という話だ」
「ふうん。どうでもいいけど」
倒せば良いんだし、と話すA子の表情は至って平然としている。
巣にいれば突撃して討伐。留守でも、コボルトは耳も鼻も良い魔物だ、侵入者にはすぐに気がつくだろう。戻ってきたところを迎え撃つ。
作戦とは言い難いが、初心者冒険者にできることは少ない。
話し合いは、「とりあえず巣に向かう」で手早く完結した。




