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まだ納得のいかない様子の者もいたが、ジョフとモトが認めているのを見て、渋々散会していく。


「ありがとう、ジョフさん。モトさんも。頼りないと思うけど、依頼はしっかりやり遂げるよ」

「頼りにしてるよ、冒険者さん。な、ジョフ」

「まあ、背に腹は変えられねえ」

「は?」

「……しかし、本当にこの小娘も行くのか」


じろりと鋭い視線を向けるA子に、ジョフは疑わしげな表情を見せる。


「へえ。まだ疑うの」

「そんな細腕で何が振るえるんだ。武器だって何も持ってねぇだろ」

「マースだって持ってないでしょ」

「私を巻き込むな」

「お前もヒョロっちいな」

「……」


巻き込まれた上についでのように貶されたマースは小さく眉間に皺を寄せた。


「ジョフ。この子らは冒険者なんだ。武器は剣や弓に限らんだろうし、魔法だってお手の物だろうよ。育ちも良さそうだし」

「そんなものか?」

「……まあ、そんなものと思ってもらえれば」


実際、マース自身は魔法を使用するものの、A子の戦闘スタイルは把握していない。チームとしていかがなものかとは思うものの、聞いたところで素直に答えるとも思えず、すぐに知ることになるだろうし、広場での模擬戦闘を見ているので大体想像はつく。

しかしわざわざ依頼人に開示する情報でもない。適当に流すに留めることとした。


「……で、リーダー」

「何」

「出発しないのか。日が暮れるぞ」

「山の中で夜を越すのは避けたいね」

「……コボルトって、畑にしか来ないの? 家襲ったりとか」

「ああ、畑だけだね。血気盛んな奴らが追いかけた時も、襲ってこないでそのまま山に逃げてったって」

「そう」


土に刻まれた獣の足跡をじっと見たかと思えば、すたすたと歩き出す。着いてくることを疑わず振り向きすらしない様子に、コウが慌ててその背を追う。


「案内役、よろしく頼む」

「…….なあ、本気であの小娘がリーダーなのか?」

「ええ。A子御一行をどうぞよろしく」


マースも肩をすくめて、ジョフと共にその後を追った。



*



「本当にその格好で山登るのか」

「文句ある?」

「……俺は怪我しても知らんからな」

「しないから」

「足痛くなったら言ってくれよ、薬草はあるから」

「汚れたからと文句を言うなよ」

「あんた達こそコボルトごと倒しても文句言わないでね」


純白のロングブーツが、湿った土の上を歩く。汚すことを恐れる価値があるのは誰の目から見ても明らかだが、A子は全く気にする素振りも見せず、木々の生い茂る湿った空気の中を進んでいく。

山の傾斜は緩やかだが、地面はぬかるんでいて油断して歩けば足を取られそうだ。その分、街と山を往復したコボルトの群れの足跡はしっかりと残っている。


「ここを左に進むと山小屋がある。ボロいが休憩くらいはできる。その更に奥が川だ。俺はヤバくなったら山小屋にでも逃げる」


足跡を追いながら、街から山までの道のりで話した討伐の流れを再度確認する。


「何か作戦は考えてるのか?」

「倒すのに作戦とかいるの」

「……コボルトは臆病だ、普通に出くわせばまず逃げられる」

「追いつくでしょ」

「山、結構ぬかるんでそうだからきついかもしれないね。コボルトにとっては慣れた住処でも、ジョフさんがいるとは言え俺たちは初めて行く場所だし」

「面倒だし山ごと崩せば?」

「災害を起こすな馬鹿者。……巣に手を出すのが早いだろうな」

「逃げるんじゃないの」

「普通に出くわせば、だ。巣にちょっかいを出されれば、大体襲ってくるんじゃないか」

「そういうコボルトなの?」

「……会ったこともないからな、知らん。知性の低い魔物の傾向としてある、という話だ」

「ふうん。どうでもいいけど」


倒せば良いんだし、と話すA子の表情は至って平然としている。

巣にいれば突撃して討伐。留守でも、コボルトは耳も鼻も良い魔物だ、侵入者にはすぐに気がつくだろう。戻ってきたところを迎え撃つ。

作戦とは言い難いが、初心者冒険者にできることは少ない。

話し合いは、「とりあえず巣に向かう」で手早く完結した。

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