2.コボルト退治依頼_1
「さて、まずはA子御一行にこなしてもらう依頼だな」
結界の類の魔法も解かれ、酒場然とした騒々しさの中に四人も戻ってきた。
同時に、少女——A子達は先程までとは異なり、冒険者としてこの宿屋に所属することとなった。依頼の斡旋者として、マスターはぺらぺらと乾いた音を立てながら紙の束を捲り出す。マースの、「本当にそのチーム名でいくのか」と言いたげな視線などは気にも留めない。
「ふむ。最初は物探しやペット探しなんかから名を売っていくものだが。……」
「……」
「……」
「?」
目が合おうとも、ともすれば不機嫌としか見られない無表情を崩さない二人と、首を傾げながらもとりあえず笑みを浮かべてみせるコウにマスターは深くため息をつく。しかし正直に「コウはともかくお前さんら二人には不向きだな」などと言ったところで反感を買うだけなので、黙って猫や犬、アクセサリーのイラストが添えられた依頼用紙たちは捲るだけにした。
「となると、魔物退治か。あまり最初から無茶はさせたくないんだが」
「……その魔物退治って、どういうのが相手なの?」
「依頼によりけり、だが、例えば今ある依頼だと、ゴブリンやコボルトなんかがいるな」
「具体的には?」
「ふむ。具体的に、か」
A子の質問内容を汲み取り損ねかけたが、間もなく察したマスターは言葉を続ける。
「ゴブリンの中のこの個体、なんていうのはなかなか無いな。洞窟に住み着いてる奴らだの、畑を荒らしに来る奴らだの」
「そいつらを全滅させろ、って依頼?」
「物騒だがまあ、そういうことになる」
「ふーん」
「ふむ。今挙げたコボルト退治はどうだ? この街の中の話だから、遠出の必要もない」
言いながら、依頼の束から一枚の紙を一番表に持ってくる。勿論、まだA子達には見えないように。
「守秘義務なんだから、もう少し良い紙を使ったらどうだ」
「お前さんらがでかい依頼をこなしてくれるようになれば考えるさ」
マースの皮肉げな声に、マスターもまた負けじと笑ってみせた。