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厳酷のロザリア  作者: 河崎湊
聖王都防衛戦
2/6

1話:意味がわからないよ!?

授業参観という、いつもと少し変わっただけの日常にちょっとした緊張感を持って挑み、さもこれが普段の自分だと親に背中で主張する生徒達に、教科担当の教師は普段よりも化粧濃いめで、保護者の前で緊張しているせいなのか、口調が少しおかしい。そして、授業は進み、普段よりも静かな時がゆっくりと流れる。

そんな教室で、須藤 彰(スドウアキラ)は普段通りに窓の外に目をやりながら、適当に黒板の内容をノートに纏めていく。


......世界がゆっくり動いているようだ。

どこまでも静かで、そして広い。

実際に教師が喋っているので静かなわけがないのに、それすらも静かだと思えてしまえる、そんな気がした。

唐突に眠気が襲ってくる。理由は授業がつまらないからか、それとも単に日差しが程好く気持ち良かったからか。どちらにせよ、彼はそれに抗う気を持たなかった。

......そして、彼は眠りに就く。


           ※


彼が目を覚ました時、知らない場所で横になっていた。

一瞬、夢かと思い頬をつねってみるが痛みを感じたので、その思考を捨てる。(夢でも痛みを感じるような時があるが、感覚がリアルだった)

とにかく、状況が読めないので彰は周りを見渡すことにした。

何かの部屋?のような形をしており、部屋を造っている材質はおそらく何かの石。現代日本の一般的な家には中々見られない立派な柱があり、それが無数に並んでいる。また、部屋に照明は無く、代わりに蝋燭と蝋台が部屋の中を明かるくしていた。


(蝋燭!? それに蝋台ってなんだよ!! いくらなんでもそれは流石に有り得なくないか!?)


部屋の状況を把握する度に彰は困惑が強くなっていく。状況を理解しようとする度に更に困惑が強くなるのは、彰にとっては"初めて"のことではないのだが、それでも今までの理解不能な出来事に比べて、これはダントツだった。

彰が状況を把握することを一旦諦めようとしたその時だった、カツカツと部屋に誰かが近づく音がしたのだ。


(誰かが来る!! どうする、隠れるべきか?)


判断に迷っていると、予想よりも早く誰かが中に入ってきた。

彰は緊張感を高め、いつでも行動が起こせるように心の準備をしておく。


「初めまして、異界の勇者様。私はセイリア=アット=フラメスティーと申します。異界から勇者召喚を行う際の"召喚師"としての役目や勇者様にこの世界の知識をある程度お教えする"案内役"など、勇者様とのファーストコンタクトにおける大半の役目を担っております。今後とも宜しくお願いします」


セイリアと名乗る女性は、およそ現代日本人では着ないような豪華できらびやかなドレスを着ていた。

どうにも現代日本人が想像する中世の貴族女性が着そうなドレスを、現代日本人好みにアレンジというか、ほぼ改造されたような品よりもエロスを追求したそれは、『大丈夫か?この人頭がおかしいんじゃなかろうか?それともそういう文化なのか?』などと疑問を懐かせた。

彰がそんなことを考えていることなどお構い無しに、セイリアは一歩前に出てドレスの裾をつまむと、華麗にお辞儀をした。(このお辞儀も中世貴族っぽいものだった)


とりあえず、良くわからないので服については置いておくとして、彰も名乗る。


「こちらこそ、初めまして。須藤彰といいます。

宜しくするかどうかは分かりませんが、とりあえず何が起こったのかを説明してほしいです」


なるべく丁寧に名乗るつもりだった彰だが、訳がわからない状況に苛立ちが溜まっていたのか、少々当たりの強い自己紹介となってしまった。

しかし、セイリアは特にそれを気にすることなく......。


「はい。勇者様に至ってはここがどこで何なのか、大変理解不能な状態に陥っているのは理解しているつもりなので、この場で直ぐにお答えできることならなるべく答えるつもりですので、なんなりと質問なさってください」


と、丁寧に返されてしまう。

調子が狂うなと思いながら、一先ず質問タイムに移行する彰。


「なら、まずここはどこですか?」


「ここは、貴方様がいた世界とは異なる世界。名はありませんが、私はここをガルシアと呼んでおります」


理解不能!

いきなりの展開すぎて彰の顔は引きつっていた。


(だって、いきなり目が覚めて見知らぬ部屋にいたと思ったら異世界でしたって!! どこのネット小説だよ!?)


想像してたより思いっきり斜め上を通り越して、真っ直ぐ上に話がぶっ飛んでて、彰は軽く泣きそうになりなった。

彰の反応を見てもこんなの慣れっこですみたいな顔で、顔色一つ変えないセイリアはなんか大物だなと思った。


「つ、次に俺の他にもこっちに来た奴はいるんですか?いるのなら、その人達はどこにいますか?」


とりあえず、全部自分なりの理屈に当て嵌めようとはせずに、理解不能な部分は彼女が答えたことがそのままなんだと押し込めばいいと考える。

頭の中で色々と整理をつけていき、次第に冷静な判断能力を取り戻していく。


(伊達に"理解不能"な現象な事象になれてねぇっつうの!!)


心の中で自分を褒め称え、セイリアの言葉を慎重な面持ちで聞く。


「はい。貴方様以外にも五十四名の勇者様をお迎えしております。服が似ている方が多いので、もしかしたら須藤様のお知り合いではないかと。他の勇者様方はここより別の場所、食堂にてお食事を取っていただいております」


どうやら、ここに連れてこられたのは自分だけではないらしい。

それがわかると、彰は一瞬だけ緊張を解いた。


(俺だけこのおかしな場所?世界?に連れてこられたわけじゃないのか、服に関してセイリアが言っていたことが本当なら、教室にいた生徒全員が巻き込まれた?いや、人数からして先生方や保護者も巻き込まれた可能性があるな)


色々な可能性を考慮して思考に没頭していると、セイリアがこちらを覗き込むような形で見つめている。

彰は少し驚いて体を一歩引く。


「申し訳ありません。本来ならば、はしたない行為ですので、するべきことではないと存じておりますが、須藤様が急に黙ってしまったので、何か問題が生じたのかと失礼を承知でこのような行動を起こさせて貰いました」


「いえ、構いません。少し考え事をしていただけですので....それより、先程から"勇者"だのと仰っていますが、それはどういう?」


身近なことを一通り聞き終えた彰は、本題に挑むように、今度は地球ではアニメやラノベ、マンガ、ゲーム以外では聞かないようなワードに関して触れていく。


この世界においての勇者とは何か、どういう役割を持つのか、それをなぜ彰や他の生徒のようにただのしがない高校生や教師、保護者に使うのか...それをセイリアに真剣な眼差しで問う。


彰は彼女がどう答えるのか予想出来ている。

勇者という単語が持つ意味や、役割、そしてそれがなぜただのしがない高校生がそう呼ばれるのかも予想は出来ている。しかし、それはあくまでも予想。予想は予想でしかない。彰がどれだけ予想を立てようと、どれだけ正解に近い予想を立てようと、それはセイリアと呼ばれる女性が答えたことにしか意味がない。


(聞いておいてなんだけど、聞きたくねえなぁ)


「勇者とは、我々の世界において世界の危機を救い、人々を導く存在にございます。勿論この世界にもそうした勇者としての気質を持つ者は多くおります。しかし、力が足りないものが多い。そのため遥か昔、神々がまだ世界を蔓延っていた頃より上質な勇者の気質と力を持つ者を召喚する魔術が誕生したのでございます。そして、異界から召喚されたその気質を持つ者を我々は"異界の勇者"と、そう呼んでおります」


......。

溜め息すら出なかった。予想通りすぎて、逆に気味が悪いくらいだ。しかし、怒鳴るや泣く、不快感などの感情はほとんどない。それは、単にお人好しとか争いを好まないとかそういう思想や主義を持っているからではなく、そういった感情出すための理解が完全に越えてしまっているからだった。

人間理解出来ないものに対して最初に起こすアクションは大抵呆然とすることだ。呆然してそして、なにかしら理解しようとそれを自分なりに自己完結してようやく、起こったことに対して感情が働く。

彰は今理解しようとしている最中だった。理解して、自己完結してようやく口を動かした。


「無駄だと思うけど、直ぐに俺らを元に戻すことは可能ですかね?」


諦め。

彰が出した感情はそれだった。

諦めるのはまだ早いような気もするが、こういうベターな展開だと恐らく還すためには魔王を倒さないと駄目だとか、神でも倒さなければ帰れないのがお約束だ。そこにどんな意味付けがされようと、されなかろうと、恐らく何かを倒さなければ帰れない。そんな雰囲気を彰は感じ取っていた。


「今すぐに貴方方を返すことは可能です。しかし、それは我々側が認めません」


彰は少しだけ驚く。そして、直ぐに一般的な発言をセイリアに言う。


「直ぐに返してくれよ。俺は伝説の勇者みたいに戦えるわけじゃないし、録にケンカすらしたことないような弱い奴だぞ?」


「不可能です。貴殿方が勝手に召喚されたことに対して怒りを覚え、帰還を要求するのも理解してはおります。しかし、我々にも貴殿方を召喚した理由があります。それは、簡単に退くわけにもいかない重大な理由です。

どうかお願いします勇者様、我々のお話だけでも聞いてはいただけないでしょうか?」


セイリアは深々と頭を下げる。

年齢の程はわからないが恐らく二十代前半、服装や所作、言葉遣いからしてかなりの身分にあるようにも伺える。そんな人が年下で自らを卑下するような情けない奴に頭を下げてでも、話でも聞いて貰えるように説得する。

既に諦めていたからか、思考が客観的にそれを想像してしまい、彰は何か罪悪感のようなものが芽生えてきていた。

彰はなにも悪いことはしていない。なのに、そこに罪悪感が芽生えてしまった気がしたのだ。


「分かりましたよ。話を聞けばいいんですよね?」


半ば自棄糞気味に言うと、セイリアは深々と下げた頭を上げ、もう一度無言で頭を下げる。そして、彼女は入ってきた扉へと向かって、歩き始める。


「詳しいお話はお食事をしながらでも、致しましょう。お腹は空いておられますか?」


彼女はこちらに一度振り向き、彰へと訊ねる。


「あまり空いてはいないけど、軽いものなら頂くよ」


そう答え、彰も彼女の後に続く。


(もしこれが、この展開を彼女が意図的に作り出していたとしたら、彼女はとんでもない策士だな)


心の中で彰は彼女を警戒する。

今までの弱音やひよった言動は、半分本音で半分嘘。

特殊な現象や出来事に対して少しばかり慣れている彰は、こういう自体における一般的な反応はあまりしない。

異世界に来た時点で混乱が少なかった彰は、彼女らが召喚直後に彰達を騙すつもりかそうでないか信用できるのかそうでないのかを試すために演技をしてみたのだ。


(さて、これが吉と出なければいいんだけど...)


演技をしているという緊張感とさして良くもない頭でこれから"重大な話"とやらをキチンと整理しなければならないという不安や、本当に地球に帰還出来るのかといった疑念やらを押し込めて、彰は陰鬱とした気分で部屋を出るのだった。

展開が普通ですが、しばらくはこんな感じで進んでいきます。

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