③雪ふる夜に
③雪ふる夜に
うすぐらくなった森の中には、さまざまな光の粒が散りばめられていました。
大きな光、小さな光、青白い光、赤くかがやく光。
すべての光の粒は、木立にとまったりはなれたり、チョウのように、森じゅうを自由自在にひらひらとまいおどっているのです。
「ボクの仲間だ。みんながボクに、がんばれっておうえんしてくれてる」
クックの胸の中から、顔を出したカブトはひと言だけつぶやくと目をとじました。
クックは思ったのでした。
限られた時間だけしか生きることのできないカブトの仲間たち。
与えられたその時間を、精いっぱいに生きたからこそ、今こんなにもかがやけるのかもしれないと……。
そのときです。音もなく、空からまいおりてきた白い羽が、カブトの黒い背中をふわりとおおったのです。ひとつ、またひとつと……。
クックは、思わずカブトをゆすりおこしました。
「雪! 雪だよ。カブト、ほら見てごらん」
そっと目を開いたカブトは、生まれてはじめての光景を、食い入るように見つめました。
「これが雪なの?……」
しんとしずまりかえった木立の中を、ひとひらひとひら、雪はしずかに落ちてきます。
光の粒たちは、雪たちとたわむれるように、いっそうまばゆい光をまき散らしながら、おどり続けていました。
「なんてきれいなんだろう。それに雪って冷たいんだね……」
木々の枝が、地面が、だんだん白くなっていくのを見つめながら、カブトは、うっとりと、そうつぶやきました。
森の中が、すっかり白くそまったころ、カブトはゆっくりと顔を上げて言いました。
「クックおばさん、ほら、聞こえてくるよ。仲間の声が……。そろそろ、みんなと行かなくちゃ……。ボクのこと、待ってくれてたみたい。今までずっとありがとう。クックおばさん」
そして、カブトの体はすべるように地面へと落ちていきました。
「ああっ! カブト―っ!」
クックがさけんだのと同時でした。
カブトの体が、淡く小さな光へと変わったのです。
それだけではありません。
まいおどっていた光の粒たちは、みるみるうちに、大きな光の輪となり、小さな仲間の光を守るかのように、ぐるりととりまいて、空に向かってゆっくりとのぼりはじめたのです。
いつかしら……。
森の中は、命を終えたセミやスズムシ、コオロギたちの声であふれかえっていました。
まるで、カブトが帰って来るのを、みんなで待ち望んでいたかのように……。
夕方の鐘の音が、おごそかに森じゅうにひびきわたっています。
(よかったね。カブト……)
クックは、ゆっくりと天に帰っていく光の輪を見送りながら、いつまでも雪のふる空を見上げていました。