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九章・1

 後日。


 警察署でいろいろと話をして、この事件は一応解決ということになりました。

 事件の、いったい何が解決したのでしょうか。

 何も、解決してはいない気もしますが。


 そしてその後、お母さんの葬儀をとり行いました。本当に簡単なものですが、それでもやろうと思ったのです。


 そこにわたしは、沙耶と、そして父親を呼びました。


 わたしたち、元家族だけで行おうと思ったのです。吉野家の方々も、よかったらと言ってくださいましたが、わたしはその気持ちだけを受け取りました。


 これは、わたしの問題なのですから。


 沙耶と父親は、ちゃんと来てくれました。


 沙耶にこのことを伝えるのは、とても辛かったです。


 沙耶にとっても、たった一人のお母さんでしたから。


 事の顛末を伝えたとき、沙耶はまずわたしのことを心配しました。


 「お、お姉ちゃん大丈夫なの!? 怪我とかしていない?」


 「ううん、大丈夫。わたしは何も怪我していないよ」


 「そう、よかった……」


 沙耶はほっと胸を撫でおろしました。


 「でも、まさかお母さんが……」


 沙耶はそう言って目に涙を浮かべていました。


 「お母さんがお姉ちゃんにしていたことは、吉野さんから聞いてる。けど、それでも、殺されたって聞いたときは本当に、ショックだった」


 「そうだね。ショック、だよね」


 普通はそうです。肉親が死ぬということが、それも誰かに殺されて死ぬということが、ショックじゃないはずないのです。


 だけれど、わたしが呼んだもう一人の方は、まるで表情に変化が見られませんでした。乾いた瞳で、すかしていました。


 「……久しぶりだね」


 「ああ、そうだな」


 わたしの父親は、抑揚のない声で言いました。


 「来てくれないと思ったよ。仕事が忙しいだろうからさ」


 「ああ。沙耶に言われなければ、来なかった」


 「お父さん!」


 沙耶がたしなめるように言いました。そんなこと言ったって、こいつは何も感じないでしょうけど。


 「とりあえず、三十分ほどで終わるみたいだから」


 わたしたちはそれから、お母さんの葬儀をしました。お坊さんがお母さんの棺を前にして、お経を上げてくださいました。低料金でもちゃんとしたお経を上げてくださる、良心的なお坊さんでした。


 わたしはその間、お母さんに謝っていました。


 ごめんなさい。普通の子に生まれられなくて、ごめんなさい。


 次、お母さんが誰かを産むときは、ちゃんとした子が生まれますように。


 わたしは右手と左ひじをくっつけて、不格好ながらも合掌をしました。


 お母さんの遺影は、用意できませんでした。どれだけ家を探しても、写真はありませんでした。処分、してしまったのでしょうか。


 どこからどこまでを葬儀と呼ぶのか知りませんが、火葬やお骨拾いといったものも終わり、全部終わりました。


 「南の墓に入れはしないぞ」


 父親が冷たくそう言いました。


 「お母さんだって、そっちに入るくらいなら無縁墓地に入りたいだろうよ」


 お母さんは結局、近くのお寺の供養塔に入ることになりました。流石にわたしは、お墓を作るほどのお金を用意できません。幡宮のお墓は、幡宮家の連絡先を知らないので、無理でした。

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