六章・4
楽しい時間はあっという間に過ぎて、わたしたちは帰らないといけない時間を迎えました。
駅の前で、わたしたちは最後に別れを惜しみます。
「今日はお姉ちゃんに会えて、本当によかった。楽しかった」
「うん、わたしも沙耶に会えて良かった」
「また、会おうね」
「うん、また。……あ、そうだ」
わたしは背負っていたリュックをいったん下ろして前に抱えました。
「これ、ありがとう」
「うん。私も、使ってくれてありがとう。でもだいぶんくたびれてない? 新しいの、また買ってあげようか?」
「ううん、これでいい。これがいい」
「そう? わかった」
わたしはリュックを担ぎ直しました。うん、しっくりきます。大事にします。
「吉野さん、今日はありがとうございました。お姉ちゃんに会わせてくれて」
「いや、僕は何も。でも、二人が会えて嬉しそうなのを見られたのはよかったかな」
「わたしもありがとう。まさか沙耶ともう一度会えるとは、思えなかったからさあ」
吉野くんは照れたのか顔を少し赤くしました。吉野くんはわたしが素直になると照れる傾向にあります。最初のほうにわたしがひねくれすぎていたのが原因かもしれません。
「…………お姉ちゃん」
お別れをする前に、最後に沙耶はわたしに抱きついてきました。
「まったく、甘えん坊さんだねえ、沙耶は」
わたしは沙耶の頭を撫でてあげました。
「いいもん、別に」
沙耶はそう言ってわたしの胸に顔をうずめてきます。ああ、かわいいなあ。
この子と一緒に過ごす生活って、どんなだったんでしょうか。わたしは今さら無意味なことを考えてしまいます。
「ほら、そろそろ行かないと父さん心配するよ?」
「……うん、わかった」
「吉野くんはいいの? 沙耶を抱きしめてあげなくて」
わたしは意地悪で吉野くんに聞いてみました。
「ぼ、僕はいいよ! ……僕には、彼女いるし」
「そ、そう? そう、だよね……」
下手な意地悪は自分にもダメージを与えるということを、このときわたしは学びました。
「あはは、二人とも本当に仲良しなんだね。末永くお幸せにって感じ」
沙耶は目の端に涙を浮かべて笑いながら言いました。
「それじゃあ、また。二人とも、勉強がんばって」
「うん。気をつけて帰ってね、沙耶」
「さようなら、沙耶さん」
「うん、お姉ちゃん、吉野さん、またね」
沙耶は手を振りながら駅の中に入っていきました。最後まで最後まで、見えなくなるまで沙耶はわたしたちに向かって手を振ってきました。
「僕たちも帰ろうか」
「……うん」
「きっとまた会えるよ。意外と近くに住んでるんだから」
「…………ぐすっ…………うん」
○
沙耶と会った日の夜、夢を見ました。
わたしの家族が全員仲良く暮らしている夢でした。
目が覚めた時、わたしは一人で泣きました。




