三章・3
わたしは本棚の端から、一冊ずつ、注意しながら見ていきました。一つも見逃さないように。
目を皿にして、わたしは本棚を注視し続けました。探し続けました。
しっかし、どれだけ探しても見つかりません。隅から隅まで探しましたけれど、見つかりません。まじでどこにいったのでしょうか。足でも生えて、どこかに歩いて行ってしまったのではないでしょうか。とか、思ったりもします。いや、関西出身ではないのですが。
もう、無理じゃね? とか思い始めました。
時間だってもうないのでは。そう思ってまたわたしは時計を見てみました。
しかし、時計はさっき見たときと同じ顔をしています。…………うーん? んんん?
いったい、どういうこと?
まあ考えたってわからないことです。
そう言えば、あの子はどこを探しているのでしょう?
「ねー、見つけたの?」
わたしがどこへともなく呼びかけると、あの子は本棚の奥から顔だけをのぞかせて首を横に振りました。
うーん、まいった。
その仕草はかわいいのですが、しかし見つかっていないのではいけません。
それからわたしは、もう一度、さっき探してみたところを、もう一度探してみました。
端から端まで、さっきよりもさらに注意深く。
だけれど、それでも本は見つかりません。
本当に図書室にその本はあるのでしょうか? わたしはそんな疑問を持ち始めました。
あの子の勘違いなのではないでしょうか? もしかしたら、彼女の家か、はたまた教室か、とにかくここではない、別の場所でなくしたのではないのでしょうか?
わたしはあの子を呼んで、それを伝えました。
だけれど彼女は首を横に振ります。「……絶対、ここに、あります」と。
その声には、確信めいたものがありました。
「なんの根拠があってだよお……」
わたしは正直集中力がこれ以上続きません。疲れちゃいました。探し物というのは、割と重労働です。わたしはさっきまで座っていた席にもう一度座って一休みすることにしました。
わたしは椅子に座って前の机に体を預けて、全身の力を抜きました。
「はあ、朝っぱらから何してんだあ、わたしい……」
全力で脱力をしているわたしの視線が、さっきまで読んでいた本を捉えました。ああ、そう言えば置きっぱだったなあ。
わたしは指の先を使ってその本をたぐり寄せました。休憩がてらにちょっと読みましょう。なぜか時計も全然進んでいないから、時間的な余裕もありますし。
わたしはその本の、さっきまで読んでいたところあたりをめくりました。なんとなく、この辺かなあって。
ですが、わたしの頭の中に残っている物語と、書いてある物語が繋がりません。ああ、ページ行き過ぎたなあ。わたしは少しページを戻りました。
しかし、さっきまで読んでいた文字列が全然見つかりません。なぜ本の中でも目的のものが見つからないのでしょうか。……イライラしてきました。
そして、わたしは違和感を覚えました。
これ、さっきまで読んでいた本じゃない?
わたしはその本の表紙を見ました。
「あ…………あああああ! あったあああああ!!」
なんと、それはわたしたちが探していた本でした。
でも、なんでこんなところに? なんで、わたしが読んでいたものがこれに入れ変わっているのでしょうか?
うーん、摩訶不思議なことですが、この世界、よくわからないことも起こるのでしょう。
「ねえ! あったよお!」
わたしは図書室にあるまじき大声であの子に伝えました。まあ、わたしたち以外に人を見ていないからかまわないでしょう。
「…………ありがとう」
「うお、びっくりした!」
その子はいつの間にかわたしの近くに来ていました。気配さえ気づきませんでした。この子は忍びか幽霊なのでしょうか? まあ、普通の生徒なのでしょうが。
「はい、どうぞ」
わたしはその子に本を渡しました。
「これでやっと返せるね。よかったねえ」
「うん、本当に…………見つけてくれて、ありがとう……」
その子は、その本をぎゅうっと抱いてそう言いました。図書室の本なのに、抱くほど大事なものだったのかあ。これは見つけたかいがありますなあ。
あ、でも、そう言えば図書室のカウンターには、委員の人も先生もいません。どうやって返却すればいいのでしょうか? わたしはそのやり方を知りません。
「どうやって返却しようか? まあ、後でもいいんだろうけれど」
そうわたしは言葉に出そうとしたのですが、なぜだか声が出ません。あれ、おかしいな、わたしってどうやって言葉を出していたっけ?
そんなことを考えていると、視界がぼやけていきました。おお? 変なクスリを飲んだ覚えはないのですが?
変な子に、会った覚えはあるのですが。
「ありがとう、ありがとう、見つけてくれて……本当に、ありがとう」
その声は、すぐそこにいるあの子の声のはずなのに、とっても遠くから聞こえてくるようです。
それからわたしは、とんでもない眠気に襲われたように、意識が遠のいていきました。




