一章
*この作品は私の前作「彼女のくれたしゅうまつ」の続きのお話となっています。
もしよろしければ、そちらの方にも目を通してからこちらの作品を読んでいただけると幸いです。
どうも、みなさん。
はじめまして。
ああ、どうもどうも、拍手なんかいただいちゃって、ありがとうございます。
わたしの名前は、幡宮 千紗と言います。十七歳の高校三年生です。女の子です。彼氏はいません。友達は一人います。男の子の友達が一人います。
突然ですが、わたしには、左腕がありません。左腕の肘から先がありません。刀でスパッと切られたみたいに、きれいにありません。ああ、いや、別に本当に刀で切られたから腕がないってわけではないんですけれど。
生まれつきですね。
どう思いますか?
可哀想だと思います? こんなわたしを、可哀想だと思いますか?
ふざけんな。
まあ顔は確かに可愛いとは思いますけれど、わたしは可哀想な人間ではありません。
愛すべきではありますが、哀れに想うべきではありません。
わたしはこんなんだけれど、腕がこんなんだけれど、不自由ではありません。障害があるからといって、わたしが不自由な人間だとは、思っていません。障害があるということと不自由であるということはイコールではないと、わたしは思っています。
体のことに関して、わたしは不自由ではありません。
わたしは普通の人たちと同じです。
普通の人ができることは、わたしにもできます。
同じなのです。
まあ同じと言っても少し違うとは思いますけれど。
学校ではいじめられていますし。
わたしの家庭は少しアレですし。
それにわたし自身、変わっているとは、言われますけれど。
友達に。君は変わっていると、よく言われます。変なやつだと言われたりします。
彼も彼で、十分変わり者だとは思うんですけれどねえ。
変わり者と言いますか、馬鹿者と言いますか。
彼、というのは同じクラスの吉野 翔太郎くんのことです。
『彼』って言うのも他人行儀なので、わたしは吉野くんのことは吉野くんと呼ぶことにします。
友達、なので。
○
吉野くんのことを、少しお話しましょう。
わたしの友達のことを、お話いたしましょう。
初めてできたお友達のことを。
吉野くんと初めて話したのは、三年生に上がったすぐのことです。四月の半ばころだから、だいたい、半年くらい前かなあ。
吉野くんの名誉、というか約束だから言わないけれど、取引だから言わないけれど、会った場所が場所だったから、わたしは吉野くんの弱みを握りました。今となってはそれはもう、弱みではなくなっているような気もしますが。
まあともかく。
わたしはその弱みを利用して、吉野くんに取引を持ちかけました。吉野くんは脅迫だって言ってきましたけどねえ。失礼しちゃいますねえ。
その取引があって、わたしと吉野くんは毎週、土日のどちらかに一緒に出掛けました。
目的は、決まっていたりいなかったり。とにかく、一緒に遊んで、同じ時間を過ごしました。
楽しかったなあ。
他人と遊ぶことがあんなに楽しいことだなんて、わたしは知りませんでした。
週末のために、わたしは日々を過ごしていたと言っても過言ではないかもしれません。
それを繰り返していって、週末を繰り返していって、わたしと吉野くんの距離が少しずつ近づいていって、そうしてわたしたちは友達になったのです。
それで、そのまま続いて行くのならよかったんですけれど、そうは問屋がなんちゃらら。
わたしたちの週末は、わたしへのいじめが始まったことをきっかけに、終わってしまいました。
終わらせたのは、わたしなんですけれどねえ。
わたしは吉野くんと連絡を取るのを一方的にやめました。週末に会う約束もしませんでした。
何通も吉野くんからメールが届いたのですけれど、わたしは返信しませんでした。少しでも接触をなくそうと思って。
なぜかと言いますと、吉野くんをいじめに巻き込むのが嫌だったからです。
いじめられている人と仲良くしている人は、いじめられます。
誰でもわかることです。
誰でもわかることのはず、なんですけれど、吉野くんはどうやら馬鹿だったみたいで、わたしの気づかいを無視して、ある行動を起こしました。
ある日、わたしのリュックが盗られて、それでもって川に投げ捨てられるということが起こりました。
そのリュックは、生き別れの双子の妹にもらった大事なものだったので、捨てられるところを見た時は……まあまあ傷つきました。
でもしょうがない。と、わたしはその時諦めていたのですけれど、偶然居合わせた吉野くんが、なんと川に入って、流れていくリュックを拾おうとしたのです。
それを見たわたしは、吉野くんがわたしと同じようにいじめられる立場になってしまうと思って、やめてほしいと思いました。
リュックを捨てた彼らも吉野くんの行動を見ていましたから。
そんな中でわたしのリュックを拾ったりなんかしたら、どうなるかは火を見るよりも明らかです。いやまあ、火っていうか水なんですけれど。川ですし。
わたしはそんな吉野くんにメールを何通も送って、やめてほしいとお願いしました。
わたしと一緒になってしまうから、やめてほしいと。
だけれど吉野くんはわたしにメールで、『君と一緒がいいな』なんてことを言って、わたしのいうことなんか聞かず、川に入っていってリュックを拾ってしまったのです。
川から上がってきた吉野くんにわたしは、どうしてそんなことをしたのかを聞きました。
いえ、聞いたというよりは、理解不能であることを伝えただけかもしれません。
取り乱していたわたしに、吉野くんは落ち着いた様子で答えました。
吉野くんは、わたしと妹のことを想って、拾ってくれたのでした。
それでわたしは、そんなことをさせてしまってごめんと謝りました。
それと、出会ってしまってごめんと謝りました。
わたしと出会ってしまったばっかりに、吉野くんの平穏は終わってしまったのですから。
申し訳なさで、わたしの心の中はいっぱいでした。
でも吉野くんは自分が勝手にやったことだと言い、むしろ感謝しているとまで言ってきました。
出会ってくれてありがとう、と言ってきました。
わたしはそれを聞いたとき、恥ずかしくて、恥ずかしくて、だけど嬉しくなりました。
そしてさらに吉野くんは、わたしに、ずっと一緒にいようと、また二人で週末を過ごそうと言ってきました。
わたしは本当に、顔から火が出るかと思いました。少し出ていたかもしれません。今まで感じたことがないほど顔が熱かったので。
そういうわけで、吉野君はわたしと一緒になりました。
あっ、一緒になったっていうのはそういう意味ではないですよ。そんなロマンチックで遠回しな表現ではありません。
一緒にいじめられるようになりました。ロマンチックのかけらもないですね。
二人揃って、いじめられっ子です。
だけれど、前よりは辛くありません。
一人でいじめられていた頃よりは。
友達が、吉野くんが一緒にいてくれるから。
学校では、わたしはもう大丈夫です。