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嫉妬かな2

「それでね、凄かったんだよ、桜って」


甘味処に入って座った途端に、意識しちゃってどうしようもなかった。

だって、このちゃぶ台小さすぎるんだもん。

気にしてないと、圭吾君の口元に目がいっちゃいそうになる。

そのせいで、体育祭の話しをしているのだけど、緊張しているのか、自分でも早口なのが良く解る。

だけど、テンパればテンパるほど、私の口はどんどんと動いてしまって。

気が付けば、圭吾君、天井を見てるみたいだった。


「圭吾君聞いてる?」

気がついたらそんな事まで言いだしてしまった。

そんな自分に驚いて、ぴったり止まった私のお口。

圭吾君は天井からゆっくり顔を下ろすと私の眼を見て


――聞いてるよ――

って極上の笑みだ。

もうね、ドキっとして思わず息をのみこんでしまい、どうしようかと思った時。

『おまたせしました』

と救いの声。

顔見知りのバイトさんがあんみつとわらび餅を運んできてくれた。

ほっとして、小さく息を吸い込むと喉の渇きに気が付いて、ぬるくなった日本茶に手を伸ばした。相当渇いていたのか、一口二口じゃ、ちっとも喉はちっとも潤わなくて結局全部飲み干しちゃったよ。


落ち着いたところで、今日の本題をと、膝の上に置いていた圭吾君の学生服を手に取った。

この数日間、部屋にあるだけなのに凄い存在感だった圭吾君の学生服。

こういうのを名残惜しいというのだろうか? そんな変な事を考えてしまう私って怪しい奴なのだろうか。

それより、何よりこのまま渡すのに凄い申し訳なく思っちゃうんだよね。

折角クリーニングに出したのに、体育祭で着てそのまま返すだなんて。

昨日の晩、シュッシュと消臭剤を掛けて、汗臭くないかチェックはしたけど、やっぱり不安だ。

汗臭いなんて、思われちゃったらちょっと悲しいんだけど……

袋を差し出しつつも、ちょっと抵抗してみたけど、圭吾君は頑として譲らない。

ちょっとの押し問答の後圭吾君の手が袋に伸びてきた。

少しだけ掠った指先に、嬉しくなる私はやっぱり怪しい奴なのじゃないだろうか。

圭吾君は学生服が返ってきた事にほっとしているのか、何なのか解らないけど、少し目を細めてにっこりしている。

圭吾君それは目の毒ってやつです。


それにしても、これからこの学生服はいつも圭吾君と一緒にいるわけだ。

洋服相手にというのもどうかと思うけど、ちょっと嫉妬してしまいそう。


『でもその学生服に袖を通したんだよな』


思いだしたら私のドキドキセンサーはまたもや上昇して、堪らずスプーンを手に取った。

あんみつ、あんみつ。

もっと怪しい妄想に入りそうな気配を感じ取り、脳内の隙間にあんみつをインプット。

だけど、こんなに近くにいるんだからそう簡単には消えてくれない私のドキドキ。

圭吾君って、綺麗に食べるんだよな。

わらび餅のきなこって美味しいけど、私が食べたら机の上はきなこ天国になってそう。

ほら、上手に掬い取って口の中に吸い込まれていくよう……

って私また圭吾君の口元を見てしまった。

怪しすぎるよ、私。


何か他の事でも考えた方がいいのかも。

来る途中で見上げた空を思いだした。

ありきたりだけど、そんな天気の話しをしてみたり。

よし、普通に会話出来てるなんて思っていた私は、自分で爆弾を落とした事に

気が付いていなかった。

自然と出てきた去年の今頃の話。

楽しかったピクニックの話だったけど。


あれ、私おにぎり作る事になってる?

圭吾君とピクニックですと!

それはそれで凄く嬉しいのだけど、おにぎり作る? 私が圭吾君に?


何度か聞き返してみたけど、圭吾君はすっかりおにぎりモードらしい。

あの笑顔を向けられたら、私が断れるはずなんてないわけでして。


頭の中では、既におにぎりがいっぱいだ。

心配すぎる、只握るだけだけど……


おにぎりにはやっぱりシャケ外せないよね――

本当におにぎりだけでいいのかな?

卵焼きくらい作った方がいいのかな……

仕方ない、お姉ちゃんに指南して貰わなくちゃかな。


私の気持ちとは裏腹に、凄く楽しそうな顔をしてるんですけど、圭吾君。


頼むから期待なんてしないでね。

ピクニックの日が待ち遠しいような、そうでないような。

今更幻滅するものが増えても、変わらないような気もするけれど、やっぱり料理って重要ポイントだったりするんだろうな。


今まで食べるの専門だったからな……

せめて形の良いおにぎりを握らなくちゃ。

明日から特訓だ。


やっぱりシャケだよね。


そんな事を考えていたせか、最後の一口だったあんみつは何となく、シャケの味がしたような。

微妙な味わいだったよ。

















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