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わかってる?

「お疲れ様」


満面の笑みで俺のバイト上がりを出迎えてくれた郁。

ここに誰もいなかったら、こうなんて言うか、そう、ぎゅーっとしてしまうかもしれない衝動。ぐっと堪えて、郁の隣に並んだんだ。

立ちっぱなしのバイトもさることながら、お客に対して笑顔で接さなくてはいけないのがちょっと堪えるのも事実だったりするが、こうやって郁に会えるだけで、そんな事はぶっ飛んでしまう、俺って幸せだよな。

2人並んで歩く商店街。もう夕方だというのに、まだ蒸し暑くって、今さっきまで冷房の効いた本屋にいたから尚更のかもしれない。自然と額に汗がにじんだ。

でもそれは郁も同じで。


「もう9月だっていうのに、まだまだ暑いね」

ふーっと息を吐きながら郁が呟いた。


「そうだな、もう9月なんだよな」

そう言いながら、目に入ったのはアイス屋の行列だった。何気なく郁を見ると、やっぱり視線はアイス屋で。


「並ぼう」

そう言いながら、どさくさに紛れて郁の手を取った。未だに手を繋ぐのも緊張してしまうなんて、相当やられてると思う。

行列に並んだ時に、一瞬郁の手が緩んだのだけど、俺はその手を離すのが惜しくってぎゅっとまた握り直してしまった。すると郁も少しだけ握り返してくれた。

願う事なら、ずっと並んでんでいたいかもなんて考えてしまった俺。まるで、中坊みたいだ。

だけど、願い虚しく、段々と列は減って言っていく訳で、とうとう俺達の注文の番がきてしまった。


さすが地元だけあって、郁は何を食べるのか決まっていて、俺の方が迷ってしまった。お金を払うその瞬間まで、手を離せなかったのは言うまでもない。


あわよくば、また手を……なんて考えていたにも関わらず、郁はご機嫌で両手でしっかりとアイスを握っている。

これだから。俺ばっかりなんだろうな、とちょっとアイス相手に嫉妬してしまったり。でも、本当に嬉しそうにアイスを頬張る郁をみるのも好きだったりするから仕方がないか。そんな事を考えていた俺に


「どうしたの圭吾君? 早く食べないとアイス融けちゃうよ」

なんて言う郁。右の口元に少しだけアイスをくっつけてるよ。あーこんな時安っぽいドラマだったら、男の唇で掠めっとったりすんだろうな。なんてまた要らぬ妄想をしてしまったじゃないか。俺、怪しくないか? 誤魔化すように今にも融けそうなアイスに口を付け


「美味しい」

なんて、言ってみる。郁は俺の言葉を聞いてにこりと笑うとまた、アイスを頬張った。今度は口元にべっとりのアイス、それを器用に舐め取っていた。そんな仕草にもグッときてしまうだなんて、マジやばいよな。


バイトをしている時は中々時間が進まないっていうのに、郁といる時間はあっという間に過ぎていってしまう。これといった話をしているわけではないが、郁といると飽きないって言うかなんて言うか。学生の俺達はそんなに遅くまで一緒にいれるはずもなくて、今日もまた、別れる時間が近づいてしまう。一日がもっと長ければいいのに。

そして、いつもの公園に。別れるまでのその時間を名残惜しげにベンチに座る。


「そういえば、文化祭の準備進んでる?」

何の気なしに話しかけたその言葉。


「ん〜、今はちょっと中断で、体育祭の方かなぁ。 圭吾君のところは体育祭の準備とかないの?」

意外な答えが返ってきた。体育祭か、郁は何に出るのだろう。頭の中でまだ見た事の無い郁の体育着姿が……いかんいかんと頭を振った。


「うちは春だったから。郁は何に出る?」

そう、そんな軽い気持ちで聞いたその問いに


「そっかぁ、圭吾君のところは終わっちゃんだね。私はパン食い競争と障害物だよ。だけど、それより大変なのは、クジで当った応援団の方。女子が学生服来て、男子がチアリーダーの格好で応援合戦するのにね――」


隣で、笑いながら話している郁。だけど、俺は途中から全く話が頭に入ってこなくって。

郁が、学ランを着るって? 何処のどいつの学ランを着るつもりなんだ? どうしようも無い程の嫉妬の固まりがこう身体の中から沸いてきて、呑気に話している郁にもちょっとムッとしてしまうほど。


郁〜、自分が何を言っているのか、分かっているのか?

小さくため息をついた俺に


「でもこの応援合戦が結構盛り上がるんだよね」

なんて、また。


俺にとってはちっとも面白くないって言うの。

目の前に転がっていた小石をつま先で蹴っ飛ばしていた。












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