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すれ違い?

超ダッシュで走ったのに、下駄箱で上履きに履き替えた瞬間に無情にも始まりのチャイムが鳴ってしまった。

最悪だよ〜。

無駄に広いこの高校。今から廊下を走ったところで間に合うはずもなくて、仕方なくとぼとぼと教室へ向かい始めた。

教室のドアに手をかけると、やっぱり出欠を取り始めていて担任の声が響いていた。

なるべく音をたてないようにドアを引いたけれどそれは気やすめにもならなくて、顔を出した途端に教室の皆が振り返った。

恥ずかしいったらない。

おまけに私の席は窓際の前から2番めときたもんだ。


「すみません」

と小声で言いながら席の間を縫うように教室を横切る私。


「佐伯。珍しいなお前が遅刻なんて」

担任、だからそんな遅刻って強調しなくたって。

無駄に走ったからか、額から汗が噴き出している。

恥ずかしさも手伝っているかもしれない。

ようやく席に辿り着いて腰を下ろすと、桜からの視線を感じた。

振り向くと、やっぱり。あのニヤリとした顔で後ろ髪を指先でピンとつまんでいる。

もしかして! 自分の髪に手をやると跳ねてしまった私の髪。

いかにも遅刻しそうで走ってきました、って感じだ。

顔の火照りを鎮めるように下敷きで顔をあおいだ。

担任は近くにいるというのに、その声はまるで遠くの方から聞こえるような聞こえ方。


ホームルームが終わって、1限の授業が始まるまでのちょとした時間、桜が私の席へとやってきた。

「気になって眠れなかったとか?」

核心をついた桜の言葉。昨日の光景を思い出してしまった。


「ほんと、郁ってば顔に出るんだから。気にしすぎだよ、大丈夫だから眼鏡君は。あんたの事しか目に入ってないって」

そうは言ってくれるけれど、どうしたってそこまでの自信なんてないわけで。


「そうだったら、いいんだけど」

何処までいっても弱気な自分がいた。


「いつもの時間に郁がこなかったから、思わず休みかと思ってメールしちゃったんだぞ」


「へっメール?」

全然気がつかなかった。

慌ててポケットに手を突っ込んでみるも、携帯どころかハンカチさえ入ってなくて。

机の脇に掛けてある鞄を手に取り、探ってみるも携帯は何処にもなくて……


昨日の夜、ベットに寝転んで携帯と睨めっこしてたまでは記憶にあるんだけど、その後どうしたっけ?

朝は焦ってたからな、そう言えば部屋を出る時に持たなかったかもしれない。


「忘れた」

ここに無いって事はそう言う事だよね。


「よっぽど焦って家を出てきたんだろうね、何だかあたふたしている郁が目に浮かぶよ」

桜は呆れたような顔で、まぁ郁らしいけど、笑われてしまった。


携帯が無いと気がつかない時は、気にしなかった癖に気がついてしまったら気になるものでって当たり前か。

そう言えば、圭吾君に返事をしてなかったなとか、おはようのメールもしてないやとか。

そればっかりが頭の中を巡ってしまう。

よっぽど、ボケているのか昼休みなんかは携帯を忘れているにも関わらず、廊下で私と同じ着信音が聞こえてくると、ポケットに手を突っ込んでしまったり。

そんな私の行動が桜にはツボだったようで、わざわざ大山に報告にしにいったりするんだなこれが。

私の身にもなってくれ! って感じだよ。


お母さんの時代には携帯なんて無かったって言ってたけれど、私達にはそんな事考えられないからな。

半日手元にないだけで、こんなにも不安になったりして。

近所でもなく、高校も違う圭吾君と私。

携帯で繋がっているって考えてもおかしくはないと思う。

実際、私達が初めて話すきっかけを貰ったのも携帯だったりするからね。


今から家に帰って取りに行きたい気分だよ。

教室のあちらこちらで、携帯を手に取るクラスメートを羨ましい目で見てしまう。

今日に限って委員会があるんだよ。まさに、なんてこったいって感じだった。

ふーっと、今日何度目になるか分からないため息をついた時、目の前に大きな影が出来た。

大山だった。

「遅刻のうえに、携帯忘れたって?」

低く響くその声は、桜みたいにからかうものでなく、同情してくれているようなそんな声。


「ほんと、厄日かも」

とまたため息が出た。


大山は一瞬間をあけて

「厄日は言いすぎだろ、なくしたわけじゃないんだから」


そりゃそうだけど、頭に浮かんだその言葉を呑みこんだ。


「まぁあれだ、お前の相手、メールの返信しないくらいで何か言うような奴じゃないんだろ? 携帯忘れたって言えば済むことだと思うぞ俺は」


大山ってばエスパーみたいだ、っていうか桜みたい?

私の思っている事を見透かされているみたいだった。


「そう思う?」


「そう思うってそうなんじゃねえの? 1週間も連絡とれなきゃわからねぇけど1日だろ? 充電し忘れたとか、携帯忘れたとか良くある話なんじゃねえの」

大山の言葉を聞いてちょっとだけほっとした自分がいた。


「あんがと」

そう返した私に


「おう」

と返した大山。

良い奴なんだよね、大山って。桜は人を見る目があるよな。そう考える余裕ができた。


放課後になり、委員会に出た。

毎度同じ清掃場所の確認や日程の報告。

何でも今日は担当の先生が会議があるとかで、いつもよりだいぶ早くに終わってくれた。

終わりの挨拶の後、一番で会議室を出て家に向かった。一分でも早く家に帰りたくて。


駅に着いてからも、猛ダッシュで自転車を漕いだ。

そう言えば今朝もそうだったかも。

行きも帰りも自転車選手のように街を走り抜けるなんて、滅多にないって。

知り合いに会うかもしれないけれどそんな事お構いなしに髪を振り乱しながらペダルを漕いだ。おかげで、家に着いたのは今までの最高記録もしれない。

ただいまの声もそこそこに、靴を脱ぐのももどかしい。

鞄を放りだして、片手で靴の踵を持ってポイと投げる。

階段を駆け上がり、部屋のドアを開けると予想通り、枕の隣にちょこんとある携帯。

赤いランプが点滅していた。


メールの着信1件アリ。


圭吾君から? 心臓が大きく動き出す。

おはようのメールかもしれない。

目を瞑って親指を押しあてた。

少しずつ目を開け画面をみると……


――調子悪い? それとも寝坊? ――


桜からのメールだった。

そう言えば、朝メールくれたって言ってたっけ……


圭吾君からのメールは昨日のおやすみメールからきていなかった。



さてと、何て返そうか。

メールがきていないっていうことは私が携帯を忘れた事は気がついていないはずだから、余計な事は黙っておいた方がいいのかな、はて何て書けばいいんだ?


付き合い初めてから、メールの返信をしなかった事はお互い一度も無かったっていうのに圭吾君は気にしていなかったのだろうか?

そんな不安が一瞬よぎった。

昨日の晩のようにまた携帯と睨めっこをしてしまう。


時計を見て時間を確認する。確か今日もバイトだったはず。

今から行けば、バイト上がりの圭吾君に会えるだろうか。

よくよく考えてみたら、駅を降りて圭吾君の所に行けば良かったのかもしれない。

そう考えてから、頭を振る。

また昨日みたいに、圭吾君が誰かと話すところをみて嫉妬するかもしれないんだよなと。


う〜ん。どうしよう。

そう考えるうちにも時間は過ぎていってしまう。

やぱり今日のところは、メールかなぁ。


携帯の画面に名前を見ただけで、トクンと跳ねる鼓動。

好きすぎるでしょ私。


何度も文字を綴り、そして消していく。

大山の言う通り、今日は携帯を忘れちゃってと書けばいいだけなのに。

自分の馬鹿さ加減を披露するのもどうなのだろう。

ましてや、遅刻しちゃったなんて。

みじめな姿を見せてばっかりかも。

呆れられちゃうかもな。


何度も、ため息をついてしまう。

真剣に悩んでいたら、時間の過ぎるのが早い事、早い事。


えいっ。

今更だな。

私のかっこいいところなんて、初めっからないんだからしょうがない。

と、朝の経緯から今日の反省文のような長いメールを書き終えた。


最後にちょっと、いや違う。

ものすごーく、恥ずかしい言葉を添えてみた。

面と向かってはぜったい言えないその言葉。



2日も圭吾君に会えないなんて、淋しいよ


一番最後には、ハートマークの絵文字まで添えてしまった。

私にとっては1歩前進かな?




















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