その後の彼女
あーもう!
さっきのショックから立ち直れない。
電車を下りて学校まで来たのだけれど、ショックが大きくて私は呆然としてしまったようで。正直どうやって学校まで歩いてきたのかさえ記憶が無いくらい。
自分の席に着いて力が抜けたのか、どさーっと座ったまま動けなかった。
「郁、おはよっ」
声を掛けてきたのは高校からの親友、桜。
「おはよう」
テンションの低い私に気がついたのか
「何? 今日は眼鏡君に会えなかったんだぁ」
と私の顔を覗きこんだ。
「ごめん、今は話したくないんだ。後で話すからそっとしといて」
と言う私に
「了解!」
と言って私の肩にポンと手を置くと嫌味の一つ覚悟していた私の想像と違いあっさりと桜は自分の席へと戻っていった。
ごめんね桜と心の中で謝りつつまた大きなため息をついた。
そんなこんなで授業なんて頭に入るわけも無く、ただ時間だけが過ぎていく感じだった。
よりによって彼にあんな姿を見られるなんて。
何度追い払っても、そればっかり考えてしまう。
私は授業中なのも忘れて、雑念を払おうと首を大きく横に何度も振ってしまった。
「お前大丈夫か?」
隣の席の大山が声をかけてきた。
「うん、駄目かも」
あっ私ったら。
大丈夫って言うつもりが思わず心の叫びを言ってしまうなんて。
「先生! 郁が具合悪いみたいなんですけど」
大山が気を利かせて先生を呼んでくれた。
体調の方はすこぶる元気なんですけど、心の方がなんていえるわけもなくて。
折角気に掛けてくれた大山にも悪いかなと思い。
「すみません。保健室に行ってきます。」
と席を立ってしまった。
元気でも保健室って行っても大丈夫なんだろうか?
と思ったりもしたんだけど、皆の前で言ってしまったからには行くしか無い訳で。
仕方が無く私は保健室のドアをノックした。
保健室の先生は私の顔をみると、直ぐに大した事はないと見抜いたのだろう、事務的に
「そこの用紙にクラスと名前書いて」
と一言。
「はい」
といわれた通りに書き終えると、先生は座っている椅子をくるっと回し私の正面を向いてきて思わず身構えてしまう。
「どうした?見たところ顔色の良さそうだし、大丈夫そうに見えるのは気のせいか?」
やっぱり。
さすが保健の先生、ちゃんとわかってらっしゃる。
何と言っていいのか解らず
「はぁ。あのぉ」
と口を濁してしまい怒られるかなと思ったのだけど先生は
「まあいいや、折角来たんだ、ちょっとサボっていけば」
と。
サボっていけばって。
いいんでしょうか?
私は勧められて、置いてあるパイプ椅子に腰掛けた。
そして、さすがといか何と言うか、いつも生徒の話を聞くことが多いのかいつの間にやら誘導尋問にひっかかり、私の恥ずかしい恋の話を話してしまったではないですか。
そう、桜よりも前に普段面識もない保健の先生に。
私の話を聞き終えたら
「青春だね」
なんてのん気な事を言われた。
その言葉と同時にチャイムが鳴り、ここが逃げ時とばかりに勢いよく椅子から立ち上がった。
失礼しました。
と保健室を出ようとすると
「そこまで話したんだ、ちゃんと経過を聞かせてね」
というと先生は私が着たとき同様、椅子をくるっと回して机に向かった。
先生は気楽でいいよ。
そこまで話したなんて言うけれど、話させたのは先生の癖に。
経過なんかあるわけない無いじゃん。
と思いながら教室へ続く廊下を踏みしめるように進んだ。
すると直ぐに桜がよってきた。
「郁、大丈夫? 調子悪かった?」
心配そうに言ってくれる桜に悪い気がした。
さっき保健の先生に話してしまったことで少し軽くなったようで、思い切って桜に話す事に。
桜は、思いっきり笑ってくれた。
だから話すのいやだったのに。
「ごめんごめん」
と謝りながらまだ桜は笑っていた。
桜は落ち着くと
「でもさぁ考えようによったら、良かったのかもよ。印象ばっちりじゃん。もしどこかで偶然あったとしても、覚えててくれるかもよ」
桜も先生と同じ、気楽でいいよ。
本当に私の気持ちを察してっていうの。
印象ばっちりってそれ最悪なんだから。
もっと、自然な感じで知り合うっていうか。
ドラマはドラマでしかないんだね。
今更ながらそう思った。
「もういいよ。真剣に落ち込んでるのに」
やっと笑いが止まった桜が必死に謝っていたけど、もう知らないと私は意地を張ってしまった。
本当に散々な1日だった。