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友情

「ただいま」

どうにか家まで辿り着いた。


「どうしたの」

怪訝そうな顔で私の顔を覗き込むお母さん。


「電車で香水のきついおばさんにやられて……ちょっと横になるね。」

それだけ言って自分の部屋へ。

嘘はついてないからね


引き出しから缶コーヒーを取り出した

彼からもらった缶コーヒー

これを貰ったのはそんな遠い日でもないのにね。


ポケットから携帯を取り出しそっと開いた。

見ないようにしていた履歴と電話帳。

消してしまおう、ボタンを押せばたったそれだけで消去完了なのだから


「眼鏡君」


そう名前を入れていた

何回か間違い電話を装ってかけてみようかな,なんて考えたこともあるけど、やっぱり出来なくて。


ボタンを押して、コーヒーを飲んで彼との繋がりを絶ってしまおう。

そうは思うのだけど、指が言う事をきかなくて。


その時急に携帯が震えた

桜からのメールだった


「どうした?」


一言だけそう書かれていた。

私は携帯に向かって


「いろいろあったよ」

って呟いた。


けいごって呼ばれていたな

この期に及んで彼の事考えてしまうなんて


携帯と睨めっこしながら桜への返信をどうしようか迷っていた。

結局

「気分が悪くて」

とだけ送った。

理由は書かなかった、というか書けなかった。

言葉にすると何だか残酷だから。


お母さんは何か察してくれたのか私に何も言わずそっとしておいてくれた。

お姉ちゃんは部屋に来ておばさんの香水について熱く語っていったけどね。


お姉ちゃんが笑わせてくれたお陰でほんのちょっぴりだけど元気が出てきたのだけど、その晩は目を瞑ると彼と彼女の顔が浮かんでしまって中々寝付けなかった。


ベットに入る頃は蒸し暑かったので窓を開けていたのだけど、私が寝付いた頃から冷たい空気になってきたようで、翌朝起きると声が全く出なかった。

どうやら風邪を引いてしまったらしく、微熱だけど熱もあった。


ちょうど良かったのかもしれない。

まだ電車には乗りたくなかったから。


「学校休んだのだから、病院行ってこよう。じゃないと明日、今より酷くなってるかもよ」

とお母さんは言ったのだけど、できればこのまま週末になって欲しいと願う私はお母さんの話に首を振った。


「しょうがないわね、じゃあおとなしくしてなさい。」

そういうお母さんに今度は縦に首を振った。


結局私は始めのサボりを加えると3日も休んでしまった。

後1日で週末だ。

その頃になると私の願いも虚しく風邪もすっかり良くなってしまって、ほんのちょっぴりの掠れた声だけになっていた。


その日の夕方、桜が家にやってきた。


「どう?良くなった?」

そういって3日分のノートをコピーしたものを手渡してくれた。


「ありがと」

そういうとにこっと桜は微笑んだ。


暫く私が休んでいた間のクラスの様子などを話していたのだけど


「大丈夫そうだね。それより休んだ理由風邪だけじゃないんでしょ。」

突然話題が違う方向へ。


「風邪だよ」

動揺して小さくなってしまった私の声。


突然桜が立ち上がり机の前に。

そして、出しっぱなしにしてあったあの缶コーヒーを手に取った。


「丁度良かった、喉渇いてたんだよね。これ貰っていい?」

そういってプルタブに指を引っ掛けようとした。


「駄目―!」


大きな声を出して桜から奪い返し、ぎゅっと缶コーヒーを胸に抱きしめた。

飲んで捨ててしまおうって思っていたのに、やっぱりそんなことは出来なくて、思わず必死になって奪い返した自分にはっとする。


「そんなに大事?」


桜が私を真っ直ぐにみつめていた。


「大事だよ。」

桜の問いに答えながら不覚にもうるうるっときてしまった。


「溜まっている事言ってごらん。苦しいんでしょ。」

そういって私にハンカチを渡す桜。


この3日部屋に閉じこもりながらずっと考えていた。

目を瞑れば浮かんでくる彼と彼女の姿。

でも最後に浮かんでくるのは、あの駅でみた零れんばかりの彼の笑顔だった。

桜に聞いてもらって慰めてもらって。

そう思って桜に駅での事を話して聞かせた。

黙って聞いていた桜は私の話が終わると、大きなため息をつき


「あんた馬鹿?」


と言った。

私は優しい言葉をかけてくれるとばっかり思っていたので正直面食らった。

馬鹿って。

そりゃあ馬鹿かもしれないけど……

思わず唇を噛んで下を向いてしまった。


「話かけてくれたんでしょ、話があるって言ったんでしょ。どうして聞かないかなぁ。それにまだ彼女って決まったわけじゃないでしょ。逃げてどうすんのよ。」


言葉とは裏腹に桜は私の背中を撫でながら、私の顔を覗きこむ。


「だって、さっきもいったじゃない。あんな可愛い彼女の前で私の事知らない奴呼ばわれされたら私、私立ち直れないって……」

堰をきったように溢れてくる涙。


「だから、馬鹿だっていうの。知らない奴にわざわざホームを駆け上げてまで話掛けないでしょ。彼の言う通りあんたに話があるから追いかけてくれたんじゃないの?どうしてそう考えられないかなぁ。それにこのまま忘れられるの?もしもう会わないって思ってるんだったら最後くらい頑張って告ればいいじゃん。それで駄目だったら電車を変えるなり車両をずらすなりできるでしょ。」


桜の言う事は尤もだよ。

でもそれをして彼に振られてしまう事を考えるとどうしても出来ない。

決定打をだされたくないから。


「今の郁は慰めてあげない。だって逃げてるだけで何にもしてないから。でも、ちゃんと彼と話が出来たらいくらでも慰めるし、付き合ってあげる。中途半端な気持ちのままじゃ前に進めないよ。」


自分がこんないじいじしてる奴だと初めて思い知らされた。

その後も桜はしつこく私に攻め寄る。


「出来ない」


「するの」


私と桜の攻防が続いた。

私はやけになってきて


「解ったよ、すればいいんでしょ。」

と思わず言ってしまった。


すると出たよ、あの桜のニヤケ顔。

またやっちゃった?!どうも桜には勝てないらしい。


大きな声を出して桜と言い合ったおかげなのか少しだけ前向きになった自分がいた。











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