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迎撃、侵入、大爆発。

 警鐘の音と守備隊の取り乱した呼号に僕は一足先に凍り付いた。

 立ち止まった僕の背中にオリヴィアが頭突きを食らわした。

「痛っ!」

 オリヴィアが二の句を告げる前に、開けようとしていた扉が叩かれた。

 僕は急いでノブを回した。

「あ、お、お忙しいところ失礼いたします!」

 タイミングが良すぎて驚かせてしまった。一瞬の間があいた。

 伝令が獣人族なら何も語らずとも頷くだけでことが済むのだが、生憎、人族の青年だった。

「リオネッロ様に出動要請です! 北に――」

「今、聞いた」

「…… あっ! はい」

 伝令は一瞬、なんのことか言葉に詰まったが、オリエッタが僕の肩に乗ってくれたことでうまく誤解してくれた。

 彼は安堵の笑みを浮かべた。

「第二形態が二体出現しました。うち一体は疲弊していますが、もう一体が結界で守っていて突破できません。転移ゲートから精鋭タロス兵十二体の出現を確認。現在も増加中です」

 それだけ言うと次の伝令先に彼は向かった。

「聞いたか?」

 振り向くと全員がこちらを見上げていた。

「ヘモジ、行くぞ」

「早くする」

 オリエッタもヘモジを呼んだ。

「第二形態か。一度拝みたいと思っていたところだ」

 大伯母も立ち上がった。

「俺たちも行く!」

 ジョヴァンニが声を上げた。

「湖岸の手前までならな。結界は常時展開。手は出すなよ」

「連れて行くの?」

 オリヴィアは驚き尋ねた。そりゃそうだ。十歳にも満たない子供の集団だ。

「見学だよ」

「ガーディアン準備!」

 トーニオが年下連中に号令を掛けた。

「おーっ!」

 子供たちがわらわらと動き出した。

「オリヴィア、悪いな。積もる話は後だ」

「わたしが案内するわ。工房も動かさなきゃならなそうだし」

 モナさんが案内役を買って出てくれた。

 ラーラとイザベルは指揮所に向かうべく、ベルトを腰に巻き帯剣する。

 僕たちは一足先に扉を抜けた。



「溢れてはいないな」

 上空より敵を目視する。

 敵の群れは解体作業で出た大量のごみの上に出現していた。戦う前から足元は血だらけだ。

 味方のガーディアンは作業員の待避を援護しながら敵を一定範囲にとどめていた。

 が、通常弾では決め手に欠けていた。

 敵は密集し、結界を重ね合わせることで被害を免れていた。

 おまけに第二形態が多重結界を展開させているせいで、戦況はあっという間に膠着状態。

 砦の守備隊はそもそも前衛部隊ではないから、この手の対応がいまいちわかっていなかった。

 ドラゴン相手には対多重結界用の特殊弾頭の使用が無条件で許可されるが、精鋭程度では通常、許可は下りない。連射モードのごり押しで突破できるからだ。第二形態も生態未詳ということで現在はまだ無条件使用は保留になっているが、ここは臨機応変に守備隊員の技量も加味して裁量を下すべきだ。

 物資不足で使用許可が出しにくい状況であることはわかるが、機体と要員を失う方が遙かに痛手だ。

「特殊弾頭に切り替えを!」とリーダーたちが下から突き上げられていた。

「銃の型が古い?」

 オリエッタが覗き込んだ。

 原因はある。が、連射速度の問題ではない。

「あの精鋭たち、密集しながら互いに結界を重ねることで被弾を防いでいるんだ」

「つまり」

「ナーナ!」

「その通り、奴らはただの精鋭じゃない」

「ナーナンナンーナーッ!」

「ああああッ、こら、ヘモジ!」

『ワルキューレ』が敵陣めがけて降下する!

「ああもう。今はあいつが先だろ!」

「ナーナナ」

 回廊を早々に消さないと敵が増えるばかりだ。

 せっかく壁が完成したのに、壊されたら直さなきゃならないんだからな! 

「ナーナ」

 僕は元気な方の第二形態を狙う。

「『魔弾』 エテルノ式発動術式! 『一撃必殺』ッ!」

「危ない!」

 弱っていた第二形態の長い手がそこまで来ていた!

「ナーナンナ!」

 ヘモジは機体を回避させながら銃弾を浴びせた。が、こちらの連射ライフルにも通常弾しか入っていない。結界の庇護のない腕には命中はするが、硬い表皮で止まっている。

「第二形態はもうドラゴン扱いでいいだろ!」

「特殊弾頭の使用を許可する!」

 ようやくリーダーたちも決心が付いたようだ。ガーディアン部隊は一旦上昇し、距離を取って弾倉を入れ替えると反転した。

 形勢はすぐに逆転した。

 第二形態の前に立ちはだかる精鋭部隊は次々倒れていった。

 精鋭たちは後ずさり、第二形態の庇護下に入ろうとする。が、第二形態の多重結界も効果なく、均衡を保っていた陣形は大きく後退し始めた。

 こちらも早く奴を仕留めないと。

 第二形態の巨大な腕が他のガーディアン諸共こちらを蹴散らした。

『ワルキューレ』は鋭い爪をかいくぐり、ブレードで腕を斬り裂いた。

「まだあれがあった」

 長い頑強な腕の先に付いたブレード並みの鋭い爪。

 弱ってるなら休んでいればいいものを!

 魔力が残っている第二形態は回廊を維持することに専念していて、結界を張る以外、戦闘には参加していなかった。

 おかげで、味方が四本の腕に翻弄されることなく済んでいるが。

「あの回廊の先……」

 ふと、飛び込んだらどこに行き着くのだろうかと考えた。いくら奴らでも戻ってこられない距離から跳んできたわけじゃあるまい。

「ヘモジ! 飛び込め!」

「ナァ?」

「『魔弾』を撃ち込むのと同時にゲートに飛び込むんだ!」

 僕は銃口を第二形態に向けた。

 するとちょうど軸線上に第二形態の頭が二つ、きれいに並んだ。

「ナーナ」

 いいぞ、ヘモジ!

「今だ!」

 威力高めでお見舞いした。

 二つの頭の消滅と共に、こちらの接近を拒んでいた結界は消えた。

「ナーナーッ!」

 ヘモジは『ワルキューレ』を突っ込ませた。

「ちょっと行ってくるからぁ」

 最寄りの獣人に言い終わる前に、目の前の景色が消えた!


 次の瞬間、僕たちはタロス兵の大軍勢の頭上にいた。

 一瞬の静寂。

 状況を理解するために情報が脳を巡る時間。

「死ぬ! 死ぬ!」

 オリエッタが僕をぶん殴りながら叫んだ。

「痛い、痛い!」

「ナーナッ!」

 ヘモジは『浮遊魔方陣』を最大限に稼働させて、全速力で上空に脱出した。

 巨大な矢が次々足元から放たれ、結界に接触する!

「うわぁあぁわわわわ……」

 首を揺さぶられる。

 多重結界を機体の結界の外側に追加した。

「三分の一になった!」

 オリエッタが騒いだ。

「危なかったぁ」

「ナーナ?」

「予備は満タンだ。今、入れ替えるからな」

 攻撃がぱたりと止んだとき、僕たちは矢の届かぬ場所にいた。

 振り向くと、芋洗い状態のタロス兵のなかに転移ゲートの残滓が見えた。

 僕たちは順番待ちをしていただろう兵士たちのなかに第二形態を探した。

「いないな。プライマーをぶち込んでやれたのに」

「いたら今頃、引っかかれてる」

「そうだな。叩き落とされてたな」

「ナーナンナ!」

『よけていた』とヘモジは反論した。

 あれだけ矢を食らっておいて。

 敵の慌て振りは尋常ではなかった。が、もはや何かできるというわけでもなかった。

「さすがに攻め込まれることは想定していなかったようだな」

「こっちも攻める予定なかった」

「思わず飛び込んじゃったけど、帰れなかったら最悪だな」

「早く帰らないと心配する」

「ナーナ」

 とは言え、このチャンスを逃すわけにはいかない。なるべく多くの情報を持ち帰りたいところである。

「それにしても霧が濃いな。なんなんだ」

 昼間だというのに。

 それに蒸し暑い。

「暗い……」

「ナーナ」

 頭の上から降り注ぐ光だけが世界をかろうじて目視できる環境にとどめていた。

 まるで深い谷底にいるようだ。

「谷底にしても周囲の壁が見えないというのは」

 高度を上げる程に霧は晴れていき、周囲が段々見えてくる。

「塔だ!」

 大戦時に異界から降り注いだという巨大な柱が薄らいだ霧のなかから現れた。

 無数の柱が神殿を形成するかのように規則正しく並んで大地に突き刺さっていた。

 塔に魔力反応!

 敵の遠距離攻撃か?

 ちょっと。この魔力量!

 大戦時、飛空挺を苦しめた敵の魔道具だ。

「ヘモジ!」

 敵にとっても希少な魔力を消耗する虎の子兵器だったのだろうが、僕たちを撃ち落とす術のない彼らは使うしかなかった。

 だが侵攻先が魔力に溢れていればこそ、魔道具は真価を発揮する。ここミズガルズでは期待できるほどの出力はなかったようだ。

 僕の多重結界を二枚剥がしただけで、威力は消失してしまった。

 そして一度スピードに乗ってしまったヘモジにはもはや当たるはずもなく、いいように弄ばれ、同士討ちを繰り返して味方の塔を傷付けるばかりだった。

 魔石の減りを気に掛けていたそのときだった。

 頭上に猛烈なプレッシャーを感じた。

「ドラゴン! いっぱい!」

 見上げると、無数のドラゴンタイプが翼に風をはらみながら空から降ってきていた!

 背後に見えるのは浮島か?

 いや、あれは人工の何かだ。島がいくつも空に浮いていた。

 翼を羽ばたかせ、島々からドラゴンが次々ダイブしてくる。

 あれは! ドラゴンの巣か!

「ここはドラゴンの巣窟だ!」

 上空には大地に突き刺さっている塔とさして形状の変わらぬ無数の梁が、天につっかえ棒を架けるかのように縦横無尽に伸びていた。その梁の上に、まるで木の枝の股に作られた鳥の巣のように、立木の間に架けられたハンモックのように無数にドラゴンの巣が点在していた。  縦横無尽に伸びる梁の両端は霧のなかに消えていて、この場の広さがまるでわからない。既に雲の上なのか、巨大な洞窟のなかなのかも。

 ただわかっていることは、この数を野放しにはできないということだ!

「付いてこい!」

 ヘモジと目配せをした。

 僕たちは急反転、無数のドラゴンタイプを引き連れ、奈落に突っ込んだ。

「ナーナンナッ!」

 ヘモジは興奮して金色に輝きだした。

 今スーパーモードになる意味あるのか?

 僕は結界を最大限に張った。目の前からも無数の矢が飛んでくる。

「殲滅だぁ!」

 オリエッタが叫んだ!

「ゼロ距離からの…… 全方位! 全力解放ッ! 『魔弾・プライマー』ッ!」

『ワルキューレ』が急制動を掛けると一体のドラゴンが、僕たちの横を猛烈な勢いですれ違った。

 タロス兵の矢の雨のなかにドラゴンはブレスを吐き出した。

 僕はプライマーを勇んだそいつの背中に叩き込んだ。

 魔力が一気に吸い取られる。

 ドラゴンが次々迫ってくる!

「ナーナッ!」

 ヘモジは滑るように機体を旋回させると爆心から全速力で遠ざかった。

 ドラゴンの群れを振り切った途端、ヘモジのスーパーモードが切れた。

 ヘモジ、何してる? このままじゃ誘爆に巻き込まれる!

「薬飲む! 早く!」

 オリエッタが僕の胸を強く押した。

 僕の魔力切れか!

 薬瓶を一気に飲み干した。『万能薬』が全身に染み渡る。

 危なかった。無気力になり掛けてた。

「ごめん、ヘモジ」

 念のためにもう一瓶。

「ナーァナアアアナーッ!」

 再び輝きだしたヘモジはさらに光を増し、後方から迫る爆風を振り切りに掛かった。が、距離は広がるどころか、狭まるばかりだった。

「目視できる一番遠い場所は?」

 ドラゴンの巣の向こう側に薄ら見える空があった。

「転移するぞ!」

「ナーナ!」

 僕たちは跳んだ。



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