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終結?


 港湾区は殺伐としていた。

 迎撃に向かうガーディアンとドラゴンタイプの回収品を船から運び出すガーディアンが入り乱れていた。

 ドック船に積んであった船も、我が家の船も甲板はドラゴンのブロック肉で満載だ。

「ある程度の解体は北の防壁でやってるのか」

 ドラゴンを丸ごと積める船はドック船しかないから止むを得ない選択だ。そのドック船も港に影を落とす間もなく、現場で積み込みと解体作業に当たっている。

 賑やかな港湾区にあって冒険者ギルドと解体屋の一角だけは閑散としていた。冒険者ギルドは言わずもがなだが、解体屋の方は既に倉庫が満杯で扉が閉じられていたからだ。

 砦用の備蓄倉庫は白亜の転移ゲートを挟んで解体屋の倉庫とは反対側にあった。今はそちらにコロが並べられている。回収品の列は目下、あちらに続いていた。いずれ『ビアンコ商会』と共有することになる地下空間だ。

 溢れかえらないことを祈るばかりである。

「こうなるとあまり厄介ごとを解体屋に回したくなくなるな」

 どこもかしこも人手不足だ。

「まずは冒険者ギルドいく」

「ナーナ」


 子供たちがいた。

「師匠!」

「これ見て!」

 子供たちが全員手を上げた。その手のひらには――

 冒険者見習い用のギルド証が握られていた。

 僕は付き添いのジュディッタに「どういうことだ?」と視線を向けた。

「長い道のりには道標が必要でしょう? 漫然とした努力には限界がありますから、明確な見返りを」

 下りるはずがない許可をどうやって取り付けたのか。

「ラーラさんが、保管してある魔石の一部をギルドに売却なさいまして」

 僕の耳に囁いた。

 このタイミングでか! 需要が増え、在庫不足で不安が募るこの時期を狙って?

「王家の血筋か……」

 ついこの間まで王族だったジュディッタを見詰めた。

 あんたの入れ知恵じゃないだろうな?

「特大魔石の回収、いいタイミングでしたわね」

 補充の目処が立ったから売り払ったとでも言う気か。

「今日の分、もう振り込まれたんだよ」

 髪を踊らせながらマリーとカテリーナが手をつないでやって来た。

「師匠は何しに来たの?」

「ああ、そうだった!」

 窓口で報告用の書類を受け取って、誰もいない談話スペースの一角を占有した。

 持ち帰った記録を清書しないと。

「これが八層なの?」

 子供たちがぞろぞろやってきて地図を覗き込んだ。

「全部じゃないけどね」

「今は深く潜ることが先決」

「ナーナ」

 カウンターの奥では一時の盛況のために職員たちが書類整理に励んでいた。裏口から解体屋と連絡を取りに一人出て行った。


「お待たせしました」

 カウンター越しに職員が声を掛けてきた。

 新種を解体屋送りにするための下準備をする用意が調った。

 これから『ハンマーテイル』を我が家の倉庫から解体屋に移す。本来であれば解体屋の転移結晶で簡単に済ませられるところだが、そんな物がないことはドラゴンの骸を手作業で搬入してる段階で明らかだ。自力でやらなければならない。

 そのためには事前に転移先を確認しておく必要がある。下準備とは先方がドラゴンの骸の間にスペースを用意することであり、その現場を僕自身が確かめに行くことである。


 解体屋の倉庫はやはりドラゴンの骸でいっぱいだった。日々解体作業を続けているというのに、僕たちがここを売り払ったときの状況とあまり変わっていなかった。

「回収用の運搬船、到着するまで後一週間も掛かるんですよ」

 疲労の色が見て取れる作業員が溜め息をつく。

「この辺りでどうでしょう?」

 通路として使っていた細長いスペースを両側に押し込んで広げたようだ。

「ちょうどよさそうですね」

 ほんと申し訳ない。

 僕はその場からゲートを開いた。


 我が家の倉庫に先回りしていた子供たちが『ハンマーテイル』を見上げながら「蛇だ」「でかい」「変なの」「きもッ」と素っ気ない感想を列挙しながら騒いでいた。

「これ魔法でも倒せる?」

「火以外の属性がいいだろうな」

 僕は『ハンマーテイル』の近くに寄ると子供たちを遠ざけた。

『ハンマーテイル』の骸がきれいに消え去った。

 続いて生きている人間を送り出すためのゲートを開くと、職員共々、子供たちをまとめて解体屋の倉庫にいざなった。

 職員は転移結晶を使わない転送や人を転移させる僕の能力を見て絶句していたが、僕が大叔母やハイエルフの弟子であることは周知の事実なので、然もありなんと抵抗なく受け止められた。


『ハンマーテイル』が無事転送されたことを確認する。

「今度は完全な頭部をお持ち下さい。頭だけでいいですから」と念を押されながら、受取書にサインした。

 周りがドラゴンだらけで小さく見えた。

「いよいよ置き場がなくなりましたね」

 作業員たちは笑うしかなかった。


「いやー、危なかったわよ。事前に投下する高度を知らされてなかったら、巻き込まれてたわ」

「まさかあんなに凄い物だったなんて」

 ラーラとイザベルが未だ興奮冷めやらず、食堂で美酒に酔いながら僕たちを出迎えた。

「どんな感じだった?」

「ミズガルズだから、ちょっと控えめだったけど」

 あれだけ散らばっていた巨人の群れを三発で半減させられたのは大きかった。

 爺ちゃんに連れられて、特殊弾頭を初めて実戦投入した対ベヒモス戦場跡地を訪れたことがある。魔石(大)を四十個使用した弾頭の爪痕は五十年経った今も残っている。が。

「アールヴヘイムだったら一発で壊滅させられたんじゃないか」

「そりゃそうだけど」

 魔石(特大)が二個もあれば同等の物がまた造れるだろうが、造れるのは『鉱石精製』が使える者だけだ。製造方法は魔法の塔の管理下にあって誰でも造れるという物でもないが、爺ちゃんちの書庫に行けば、情報は揃っている。

 今回使用した物は要するに僕が造った模造品だ。好奇心に任せて造ったまではよかったが、実際に試すわけにも行かず、今日まで僕の歴代ガーディアンの収納庫の奥で眠っていた物である。

「第二形態は寄って来なかったのか?」

「しばらく待ってたけど来なかったわね。『無双』でぶった切ってやろうと思って待ち構えてたんだけど」

 それどころか、事態は急を告げた。



 三日後、東から連絡が届いた。


『敵タロス撤収せり。通常体制に移行。部隊再編に備えよ』

『損害船艇の回収準備されたし』

『作戦終了。ギルド船、これより帰還する』


 姉さんと大叔母から戦闘が呆気なく終了した旨を知らせる報がギルド事務所に届いた。

 僕たちは茫然自失。

「なんで?」と全員が首を傾げ、何かの罠かと却って疑心暗鬼に陥った。


 その頃、東の『天使の剣』本隊と渓谷の防衛部隊、それとギルド船の代表者が中間地点の砂漠のど真ん中で臨時会合を開いていた。

 敵の転進がどうにも腑に落ちない首脳陣は「お前たち、何かしなかったか?」とギルドマスター専用のホットラインを使って、事務所に知らせてきたのである。

「北から一万規模の大軍が来たから虎の子を使って追い返したけど何か?」と返信したら、得心がいったようで、事態の推移を数日見守った後、警戒レベルを下げる旨と大叔母たちが帰還する旨が通達されたのである。

 この日のことは『今日のミズガルズ最前線日録』ではこう記されている。


『お昼ご飯の用意をしていたら、前線から戦闘終了の知らせがきた。誤報かと思ったけどそうじゃないみたい。まさかこんなに早く終わるなんて。でも、こうなると倉庫不足が心配ね。みんなが戻って来る前に一度、きれいにして貰わなきゃ。もう港の倉庫はどこも満杯。ドラゴンの回収品で溢れかえっていて、まるで地下墓地(カタコンベ)のよう。解体屋さんも大変よね』

 世紀の一瞬はなんの感動もなく、いつもの日常に埋もれていた。それでいて回収船の増便を暗に要請する形になっていた。


 そのせいもあってか、回収船が新たな増員と補給と共に数日を待たずして姿を現した。

 本命『ビアンコ商会』の大型船三隻と護衛船団である。

 時をほぼ同じくして大叔母たちが乗っていたギルド船も東から戻ってきた。

 大型船四隻が港に並んだ姿は壮観だが、あっという間に手狭になった。

 やはり発着場をもう少し埋め立てるべきか。せめて大型船を今の倍、係留できるぐらいしないと。中海を越えてきた船ばかりだから、着水できないということはないだろうが。

 今後の運用を考えるなら、両方あってしかるべきだろう。

 桟橋を延ばすだけでは心許ない。



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