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閑話 終わりの旅1

 新年明けましておめでとうございます。

 今年もよろしくお願いします。


 年始早々、閑話からです(汗


 二、三話続きます(すいません><


 狼顔の傷物で、見るからに悪辣極まりない威圧顔。生まれてこの方、安住の地というものを知らぬ。定住しようにも、そうはさせじと羊の皮を被った先住者らに言いがかりを付けられては追い出されるばかりであった。

 だから俺としてはこのまま獣人族に優しい、理解のあるスプレコーンでおとなしく余生を過ごせたらいいのにと思い始めていた。

 何せ、ここじゃ俺は無害な人間として生きることができた。母ちゃんから逃げまくっているガキでさえ、俺を見た目で怖がったりはしない。人族のガキでさえ、俺の尻尾に気安く触れてくる。まあ、尻尾は俺の唯一と言っていい自慢だけどな。

 この町でなら俺は普通でいられる。特別にならずに済む。根拠のない偏見で見下してくる相手に反発して肩を怒らせ、誰より率先して悪者を演じることもない。

 なのにッ!

 過去をほじくり返されてもいいのかと、強引に依頼をねじ込んでくる糞野郎がいた。

 依頼主は昔、世話になった異国の領主。

 目の前にいるのはその使い。希望を胸に、わずかな駄賃で走り回っていた昔の俺だった。

 世間から見放され、荒れていた俺がかろうじて手にしたまともな仕事。傭兵まがいの仕事から抜擢され、領主に雇われたのだ。今思えば、どっちが悪党だったのか疑わしい。投獄した連中の必死の叫びが今も耳から離れない。一生懸命という言葉は免罪符にはならない。

 がむしゃらに衛兵役を努めていた時代。誰かに認められたい、必要とされたいと真に願っていた時代。そうしていれば俺の目を臆することなくまっすぐ見てくれる、そんな誰かが必ず現れると信じていた時代。

 俺の顔が武器になっていた時代の残滓が今になって、どうでもいいところからやって来やがった。

 所詮、俺の一生はこの程度のものなのだと、ハンマーで頭をかち割られる程はっきりと思い知らされた。

 

 俺の名前はバンドゥーニ。生まれは知らない。アールヴヘイムのどこかだ。きっと捨て犬のように、どこか草むらにでも捨てられていたに違いない。物心ついた頃には街外れの貧乏人の巣窟で当たり前に盗みを生業にしていた。

 そんな俺がミズガルズ最前線への派遣要員として潜り込めたのはやはりどこかで大貴族様の力が働いたからか? それとも何かの罠か?


 そもそもなんでターゲットがミズガルズの、しかも中海を越えた死地にいるのか?


 男が金輪際一切関わらないと言うから頷いた。

 そんな口約束、なんの役にも立たないことは誰より知っていたが、次を探す気はさらさらないように思えた。

 古今東西、依頼というものは報酬に比例して難易度が上がるということを、至極まっとうな常識という名の法則が適用されているということを、使いの者がこちらの提示をあっさり飲んだ時点で気付くべきだった。

 いや、それ以前に、あまたいる悪党のなかで中途半端な俺にお鉢が回ってきたことに疑念を抱くべきだった。

 恐らく、俺が嫌がらせにふっかけた提示額など奴らにとっては想定内だったのだろう。誰も引き受けない依頼だから出費は覚悟していた、そういうことだろう。今頃、却って安く済んだと場末の酒場のカウンターであいつは舌を出して笑っているかもしれない。昔の俺のように。

「あるいは払う気がそもそもないか……」


 英雄エルネスト・ヴィオネッティーの孫の暗殺。


 本当の狙いは別にあるようだが、言わぬのだから聞かずにおいた。恐らく、英雄か、孫本人に恨みのあるどこぞの御仁にいい格好でもしたいのだろう。昔から薄っぺらな理由で人の運命を弄ぶのが趣味の小悪党だった。

 聞けば、その孫はまだ成人して間もないという。依頼自体は鼻毛を抜くより簡単に終わるだろうと思われた。

 親が偉大だと大抵二世、三世は能なしと相場は決まっている。こいつの場合、親の七光りならぬ、祖父の七光りだが。人生の出来事をすべてまとめても報告書数枚に収まりそうな底の浅いただのボンボンだろうと俺は勝手に決め付けていた。

 どうせ何か悪さでもしたんだろうさ。罰として自己鍛錬でも強要されたのだろう。でなければあんな僻地まで大貴族のお世継ぎが行くはずがない。護衛をたんまり付けて、修行と称し観光旅行でも楽しんでいるのだろう。付き合わされる下々は大変だ。



「あー、今日も二日酔いだ」

 派遣部隊の同輩連中は皆、俺より若い獣人たちだったが、生粋のスプレコーン子だった。(ちまた)の噂じゃ、スプレコーン生まれは聖獣の加護のおかげでむちゃくちゃ強靱だという。

 実際、俺の知り合った連中は化け物ばかりだった。現、獣人村の長のピノとかいう間抜けな名前の野郎も、なんとか村のワカバとかいう熊族の女頭領もけろっとした顔でドラゴンを倒しやがる。

 腕に覚えがあるのなら、町に本部がある『銀花の紋章団』の入団試験を受けてみてはどうかと、スプレコーンに住むなら特典も多いからと言われて、連れて行かれたエルーダ迷宮の最深部で見た光景は今でも忘れられない。その後、行われた町を挙げての『恒例肉祭り』という壮絶な馬鹿騒ぎも。

 世の中にはこんなに楽しい日常があったのかと、もっと早くこの町に来るべきだったと、ドラゴンの肉を片手に後悔したものだった。

 祭りの主催者の孫を殺したら、俺はもうあそこには戻れない。依頼を反故にしても帰る場所はない。

「俺は何も求めてはいけなかったのか……」

 何も変わらぬなら、なぜ俺は死地を目指すのか? 犠牲をただ一人増やすだけではないのか?


 出立(しゅったつ)前、そこまで深刻に考えていたかは、旅路の憂鬱さを抱えた今とは別にして、貰った金子(きんす)分の仕事をしないのも阿漕(アコギ)だろうとは考えていた。

 だからやれることは気が乗らない分をさっ引いてもそれなりに誠実に、しっかりそれとなくこなした。

 事前情報としてわかったことは、当人(ターゲット)のことよりヴィオネッティー家のことが多かった。

 他領ではなぜか田舎者と揶揄されるこの一族が、俺もそう思っていたが、実はこの国の経済と軍事の両面で王家と深く絡み合っているという事実が真っ先に飛び込んできた。現当主の妻が前国王の妹である点など枚挙に暇がない。

 王国有数の技術と観光という表の顔に隠された裏の顔。世界最大のリゾート地パフラを含めた『銀団』の支配領域において、英雄を排出したヴィオネッティー家の影響力は王宮を遙かに凌駕していた。そもそもパフラが自治区であり、ミコーレ公国にも認められた準独立国家であると、俺は調べていて初めて知った。

 そしてその影響下にある連中の強さも尋常ではないということも。村の連中、いや、人族を含めた町全体が上級冒険者に匹敵する強さを持っていた。

 どいつもこいつもエルーダ迷宮を遊び場ぐらいにしか考えていない奴らだった。子供の頃から最深部を目指しているような連中ばかりで。

 そんな彼らは口々にこう言った。

「いつか俺たちも若様や姫様のように」

 強者はあのふざけた村長たちだけじゃなかったってことだ。

 なのに、俺のターゲットときたら、調べれば調べる程本流から逸脱していくのである。

 幼い頃は英雄のパーティーと一緒に行動を共にし、冒険者として英才教育を受けていたようだが、つい最近はあっさり冒険者家業を捨て、()の『ロメオ工房』にて、おとなしくマイスターをしていたようだ。今はその職も休業してミズガルズへ。そしてなぜか最前線(デッドライン)の向こうへ。

 俺の希望を通り過ぎていく破天荒振りだ。

 嫌な臭いがする。


 両親は健在だが多忙につき、養母はハイエルフの長老の一人が務めたと聞いた。彼の『魔法の塔』の筆頭を一時務めていた『ヴァンデルフの魔女』もまた育ての親の一人であり、魔法の腕は天下一品。剣の腕も『武闘大会』優勝者の英雄夫妻直伝であるらしく、抜かりがない。なのにそいつは表舞台に出てこない。

 趣味人の典型か?

 住人たちには貴族扱いすらされていなかった。伯爵の息子がだ。

「坊ちゃん」はいい方で「坊主」「小僧」「リオの野郎」「リオリン」「リオッち」「あいつ」なんて気安く呼ばれていた。

 住人には舐められっぱなしであった。

 にもかかわらず今回の選抜には希望者が殺到した。

 百人の定員に町中の者がこぞって参加を希望したのには驚いた。

 当初、年寄り連中をという話だったが、結果はターゲットと同世代の連中ばかりが選ばれた。

 例外は指揮を執る熟練の猛者と、俺ぐらいなものだった。

 だからつい考えてしまう。なぜ俺が選ばれたんだろうと。

 暑いだけで何もないこの旅の途中で、俺はそのことばかりを考えていた。

 厄介払い……

 嫌な言葉が浮かんでは消えた。


「襲撃! タロス兵だ!」

「バンドゥーニ、行くか?」

「行くって?」

「中古のガーディアンが一機メンテナンスから上がってきてる。乗っていいぞ」

「いいのか?」

「砂漠じゃ、ガーディアンに乗れないといろいろ不便だからな。この際、操縦を覚えておくといい」

「でもいきなり実戦というのは」

「動かすだけならそんなに難しくないぞ。俺の三歳の息子だって基本動作ぐらいできるんだからな。無理に前に出なくていいから試してみろよ。銃で後ろから牽制するだけでいい。それとも後で年下連中に見られながら一人で練習するか?」

「どちらも気が進まん」

「騙されたと思って行ってこいよ」


 俺より年下のチームリーダーに言われるまま格納庫に行くと空いてる一機にすぐさま放り込まれた。

「よっぽど退屈そうな顔してたんじゃないですか?」

 若い作業員が言った。

「そりゃ、みんな一緒だろ?」

「リーダーもあれでいろいろ考えてるんですよ。特に長期の船旅っていうのは人間関係が赤裸々になりますからね。今のうちに溶け込んでおけってことじゃないですか?」

「俺だけ、よそ者だからな。俺だけが英雄の孫に会ったことがないんだ」

「だから選ばれたんじゃないですか?」

「どんな理屈だ」

「獣人の未来はあの人に掛かってますからね。スプレコーンに定住する気なら会っておいて損はないって話です」

「あの人ね……」



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