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姉と共に災い来たる

「リオネッロ・ヴィオネッティー…… ヴィオネッティー?」

 どんなに見比べても書いてある文字は変化しないと思うけど。

 隊長の視線は何度も証と僕の顔との間を往復した。

「止められるのか!」

「要は航路を塞いでいる外の難破船を処理すればいいんですよね?」

「ああ。でも見ての通り、でかい上にボロボロだ。おまけにまだトラップが仕掛けられている可能性もある。どうにも動かせん。大型シップで牽引するにも肝心の船がここから出せんことにはな。それに大きな声では言えんが船のなかには『太陽石』が積まれている」

「え?」

「船を外部から破壊させないためだろう。報告では五十カトーラ、木箱五十個分は超えるそうだ。金のことで躊躇はしたくないが、さすがにわたしの一存ではな……」


『太陽石』とはこの世界特有の石で、日の光で魔力を蓄えることができる画期的な石のことである。

 説にはいろいろあるが、初期のタロスが魔力のないこの世界に魔力を満たすために持ち込んだ物だとか、魔力が充実していた頃の彼等の骸が石化した物だとかいう説が有力である。

 兎に角、稀にこの世界には榛色(はしばみいろ)に輝く『太陽石』が取れる鉱脈が見つかるのである。それらの石は光を当てるだけで微量ではあるが魔力を生み出せるため、驚くほどの高値で取引されている。鉱脈の周囲には様々な鉱物も取れると言われていて、この世界にはその鉱脈に群がる者たちによって幾つもの村が作られていた。

 マリーたちの村も恐らくその一つだったと考えられる。過去形なのは鉱脈自体、決して大きな物ではなく、十年も掘れば掘り尽くされるのが常であるからだ。アールヴヘイムへの玄関口であるビフレストからここメインガーデンまでのルートはほぼ掘り尽くされたと言われている。そして現在、危険を顧みず山師たちは新しい鉱脈を求めて更なる辺境を目指すのである。

 冒険者から言わせると「面倒見きれん」という話になるらしいのだが、その『太陽石』がどっさり積まれた船が妨害工作に利用されたとなると、頭を抱える状況ができ上がる。

 そもそもどこから運ばれてきたのか? なぜランカーの船に積まれているのか?

 一見、ランキング絡みの犯行に見えるが、新しい鉱脈を巡っての利権争いが隠れていたりするのではないか?

 なるほど、証拠を破壊するわけにもいかないか。

「上に判断を仰ぐ必要がありそうですね」

「裏方は祭りだけでも忙しいというのに、頭の痛い話だ」

「取り敢えず通れるようにしますよ。姉が迷惑掛けないうちに」


 僕たちは外に出て船の周囲を見渡した。

 問題なさそうだ。地盤までの砂の積層も充分にある。

「これなら埋められそうだな」

 地面を掘って残骸を地中に埋めることにした。

 ホバーシップは浮いているわけだから、上を素通りして貰おうというのだ。

 リリアーナ姉さんの『箱船』とそれに連なる船団が容赦なく接近してくる。

「ナーナ」

 小さな船から入港させるようだ。隊列を走りながら組み替えている。

「なるべく遠巻きに入場させてください。これから穴を掘るんで」

 僕はお手製の『万能薬』を口に銜えながら砂地に手を突いた。

 目の前の座礁船が蟻地獄に嵌まったかのように砂を掻き分け、砂地に沈んでいく。

 アールヴヘイムにいた頃と違って魔力が激減していく。何でもないことなのに『万能薬』をチビチビ舐めていたら、小瓶を一瓶、飲み干す結果となった。

『ワルキューレ』の魔力切れもそうだが、ミズガルズにおける魔力の消耗具合は噂以上に厳しいと実感する。充填用にこっちが『太陽石』が欲しいくらいだ。

 持ち込んだ魔石はすべて使い捨てではなく、充填用に加工が施された最高級品である。余った魔力で寝る前に補充すればいいだろうと考えていたが、なかなかどうして。足が出る。


 そうこうしている間に充分な深さまで掘り下げることに成功した。周囲の壁を崩れないように固めれば終わりだ。自然にできた勾配のままなので人の上り下りも問題ない。砂が流れ込まないようにおまけ程度の防砂壁を築くことも忘れない。

 先陣の小型船が次々頭上を通り過ぎる。

「間に合ったか……」

 邪魔にならないように退避していた隊長が戻ってきた。

「これなら港への出入りも邪魔せずに、調査や解体もできるでしょう」

「助かった。城門を破壊されずにすんだ」

 本気で感謝されると複雑な気持ちになる。姉さんってそんなに物騒な人ではないはずなんだが。

 砲声が轟いた。

「なんだ!」

 僕たちは慌てて着弾した方角を見た。

「もう痺れを切らしたのか?」

「違う! タロス、いっぱいいる!」

 オリエッタが僕の頭に飛び乗り叫んだ!

「ナーナ?」

 ヘモジも僕の肩によじ登って同じ目線で遠くを見遣った。

「大所帯だ。大変だ! 十体はいるぞ!」

 隊長も叫んだ。

 ここにランキング二位がいたら大騒ぎになるだろうが、差が報道通りなら、姉さんには若干手が届かない。などと僕は暢気に思ってしまった。

 一団のなかに精鋭は一体だけ、残りは雑兵だ。

 一体だけ上等な装備に重厚な盾を持っている。

「いつ見ても精鋭は迫力が違うな」

「リリアーナの船が前に出たぞ!」

 出るしかないだろう。入港待ちの小型船が列を作って渋滞しているのだ。

 遠距離攻撃だけで仕留められればいいが…… 案の定、敵は散開して、近付いてくる。

 こうなるともうしっちゃかだ。

「敵の動きが速いな」

 町の砲撃も頑張っているが、砂丘の影に入られる度に敵影を見失っていては攻撃もおぼつかない。

「オリエッタ!」

「もう来るよ」

「気が利くな」

「使い魔だから」

 フフンと鼻を高くした。

 僕のガーディアンが城門から飛んできて、僕たちの前に滑るように着地した。

「ガーディアン?」

「参加してきますね」

「わかった。ここは任せておけ」

 僕は『ワルキューレ』に飛び乗ると魔力の残量チェックを行なった。屋敷の連中が魔石の交換を済ませておいてくれたようだ。

「ガーディアンは味方だ、当てるなよ!」

 城壁の上にいる兵士に隊長が叫んだ。

 念のために背中も注意しておこう。

 発進!

「まずは砂丘に隠れているあいつからだ!」

 地上スレスレをホバーしながら砂丘の裏側に回り込む。

 突撃してくる一体と鉢合わせしたところで急旋回、ブレードで一撃、首を刎ねた。

「次!」

 姉さんの船の砲撃が足止めしている一体がいた!

 横から接近!

 ライフルを撃ち込んだ! 結果を見ずに次の目標を探す。

「ナーナ!」

 ヘモジが次の獲物を指差した。

「撃破確認!」

 オリエッタが先程の敵が倒れたことを確認した。

 砂丘に隠れた一体がこちらに気付いて矢を放った。

 ガーディアンの大きさに負けないくらいでかい鏃が、バリスタ並の大弓に弾かれ、飛んでくる!

 風圧だけで壊されそうな威力だ。が、ギリギリ回避して、そのまま体当たり、したらこちらが傷付くので、ここでも急ブレーキ、急旋回、後ろを取る!

 至近距離から一撃だ!

 頭を吹き飛ばした弾丸が貫通して砂柱を巻き上げた。

 砂丘の上から斧を振り上げた別の一体が飛び掛かってくる!

「しまったッ!」

 後退ったが大木のような太い腕が伸びてくる!

「ナーナッ!」

 ヘモジが飛び出すと斧の刃先をすり抜け、巨人の兜目掛けてミョルニルを叩き込んだ。

 斧の刃先がこちらのガードに触れるすんでのところで弾け飛んだ。

 撃ち込んだ反動で宙を一回転して戻って来たヘモジを回収する。

「ナイスキャッチ」

 オリエッタが尻尾で僕の肩を叩いた。

「ナイスだ、ヘモジ」

「ナーナ!」

 ヘモジはガーディアンの手のなかで踏ん反り返った。

 次の一体は砲撃で倒れた。

「残りはいくつだ? いてっ」

 戻ってきたヘモジに蹴られた。

「二体!」

 一体はすぐにわかった。姉さんの船目掛けて盾をかざしながら勇猛果敢に駆けていく精鋭だ。

 で、もう一体はどこだ?

「あっち!」

 こちらからは砂丘の裏側だ。

 艦砲射撃とどっちが早く仕留められるか。取り敢えず回り込む!

 が、こちらが射程に入ったときには既に崩れ落ちるところだった。

 残るは精鋭のみ。奴には結界がある。通常弾では倒せない。

「姉さんのことだ。残り一体だし、特殊弾頭節約して自分でやるだろう」

 そう思っていたら、光通信がこちらに向けられた。

「『面倒だからお前がやれ』だって」

「はぁあ?」

 自分の出陣すらけちる気か?

 いくら何でも距離があり過ぎるだろ! 砲撃が続いているが、敵の結界を貫通する様子はない。牽制に終始する気か。

「まったくもう! 『魔弾』撃つぞ」

「『プライマー』?」

「そんなコトしたら姉さんの船がなくなっちゃうよ。普通のやつ」

『魔弾』とは我が一族に伝来するユニークスキルである。効果は人それぞれ、アンドレア様のように山をも穿つ大砲タイプもいれば、エルマン爺ちゃんのようなとんでも身体強化型もいる。

 僕の『魔弾』はちょっと特殊なので普段はエルネスト爺ちゃんの真似をしてライフル銃から撃ち出す形を取っている。理由は被害を限定できることと、なんとなく格好いいから。

「つまんない」

「ナーナ」

 ふたりは集中力をさっさと捨てて通常モードに移行した。

「姿勢固定!」

 着地して姿勢を低くした。そして狙いを定める。

 接触まで時間がない!

 随行している『箱船』からも砲弾の雨が降り注ぐが、盾を構える精鋭の勢いは留まることはなかった。着弾の衝撃が砂塵を巻き上げ空を覆うが、敵の結界が砂塵を散らしてくれる。

「照準……」

 手前の砂丘に視界を阻まれた! が、行動予測をするまでもなく、魔力の光跡は見えている。

「『一撃必殺』!」

 捉えたッ!

 兜が空高く舞い上がった。

 頭を失った巨体が、蹴散らされた砂塵の影から出てきて、盾を持ったまま数歩進んだところで力尽きて転がった。

「おー」

「ナー」

 ふたりが感心して小さな口を開けた。

「障壁、薄かったな」

 あれだけ弾幕を受けていたら魔力も尽きるか。

 隊列から離れる船が見えた。恐らく回収班だろう。

 町の方で歓声が沸き上がった。

 屋敷にガーディアンを戻すのも面倒なので姉さんの船に積んでおいて貰おうか。

「着艦していいって」

「あいよ」

 僕たちは姉さんの船を目指して飛んだ。



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