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デッド・ラインズ・プライマー  作者: ポモドーロ


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日常回帰 

 女性陣が姉さんの側近に招かれ、中に通された。

「ようこそ。ジュディッタ王女殿下」

 壁にラーラが貼り付いていた。

 王女?

「顔見知り?」

「何度か、会合で。ヘモジに名前を聞いたとき、もしかしてと思って」

 ラーラはジュディッタをしたり顔で見た。

「偽名を使わなかったのは良心の呵責?」

「死んでもいいと思いました。でもあの子がいたので」

「カテリーナ。妹さんね」

 あの惨劇を見た今となっては彼女が誰かなんてどうでもいいことだ。

 僕の仕事は終りだ。

 姉さんに手を振り、僕は話し合いの場から退散して、食事を取ることにした。

 時間が時間なので食堂はもぬけの殻だった。

 テーブルの燭台に置かれた光の魔石が僕の魔力に反応してやんわりと、やがてしっかりと光を放ち始めた。

 天井から吊されたシャンデリアも淡く光り出した。

 ヘモジがワインの小樽を転がしてきた。

「ナーナ」

 保管庫を漁り、パンにチーズとサラダとミートボールをテーブルの上に並べた。

「ミートボール!」

 オリエッタの好物である。というよりオリエッタのためのミートボールである。

 オリエッタは皿を目の前にして感動しきりだった。

 ボール一杯のサラダはヘモジに。

 僕はチーズをパンの上に載せ魔法で温め溶かした。それをワインで流し込む。

「うまい!」

「ナーナ!」

「おいしい。おいしい」

 日頃どれだけ贅沢していたのかと思い知る。婦人の存在に感謝してもしきれない。でもたまには質素な食事もいいものだ。あんなものを見てきた後では特に。


 しばらくするとラーラも戻って来て、彼女たちの身の振り方が決まったと教えてくれた。

 アールヴヘイムには戻らず、ここに留まり、身分も放棄して粉骨砕身するそうだ。

 当ギルドは『ミズガルズ解放自由戦線』と敵対する間柄だが、王国がああなった以上、彼女たちも姉さんもどうこう言う気はないそうだ。

 散々王家を食い物にしておいて、計画の再考を促した途端、クーデターを目論むような外閥が後ろ盾をしている連中など、むしろ彼女たちにとっても(かたき)同然。お好きなようにということだろう。

 幼子を抱えた状況で暴挙には出ないだろうとラーラも楽観的だ。むしろ幼子が眠りから覚めた後の暴れっぷりが心配であるらしい。

 落ち着くまでなるべく関わらないでおこう。

 と思った矢先、居住区に彼女たちの家の建築を頼まれた。今日のところは休憩所を利用して貰うそうだ。

「はぁあ、明日も忙しくなるな」

「楽しい」

「ナーナ」

 自分で『ワルキューレ』を修理してる時間はなさそうだ。モナさんに頼まないと。

 寝ようと自室に戻りかけたところで、今度は姉さんに捕まった。

「ちょっと」

 姉さんの何もない部屋に通された。

 僕の部屋なら取り敢えず絨毯とテーブルはあるのだが。この部屋、船から持ち込んだ簡易ベッドしかない。

「それで回収班には何が必要だ」

「物資運搬用の船。でかいのがいる。生き物以外は大旨無事だから建築資材や生活物資の調達も可能だ。それに果樹園もまだ生きているからできればこちらで再現したい。あと第二形態のサンプル。頭はないけど一応、確保しておいた。後タロス兵の評価部位も。雑魚ばかりだったけど。急げば間に合うかな。あと――」

「住人のことは聞いた。そちらもこちらで対処する」

「そうだ」

 僕はポケットのなかのメモを取り出して渡した。廃墟までの道程を示したものだ。

「お前のガーディアンで半日か…… 意外に近かったな。で、ポータルは健在だったか?」

「あ」

 僕は固まった。

 姉さんが呆れた。

「真っ先に調べるものだろうが!」

「たぶんなかったかと…… あれば気付いたかなと……」

「確認はしてないんだな?」

「後でヘモジたちにも聞いてみるよ」

「まあ、戦慣れしていないお前にはつらい現場だったようだしな」

「慣れてても見るに堪えない現場だよ」

「ご苦労だった。応援はもう手配したから、お前もゆっくり休め」



「大変だーッ!」

 目を瞑ったらトーニオに叩き起こされた。

 朝になっていた。

「師匠! 大変だよ!」

「何? どうした?」

「ドラゴンが増えた!」

「は?」

「襲撃か?」

「ドラゴンが増えたんだよ! 早く起きてよ!」

「ドラゴンが増えた?」

「倉庫のなかに。ドラゴンが一体増えたんだよ!」

 ヘモジもオリエッタも畑の世話にもう出ていた。僕はトーニオに手を引かれ、朝食を横目に倉庫に向かった。


 きれいに並んだドラゴンの骸の上に無造作に一体の屍が放り込まれていた。しかもどうやって倉庫の扉を潜り抜けたのか、羽も切り落とされていなかった。

「な」

 トーニオが同意を求めた。

 子供たちが岩登りを楽しむかのようにドラゴンの骸に登って固い表皮をつついていた。

「保管庫で遊ぶなよ」

「だって、これ!」

 並んだドラゴンの骸の間を進み、風の魔法でひょいとその内の一体の背中に飛び移る。

 一回り大きなこれは…… どこかで……

 頭の方に回り込んでよくよく見てみると、見たことのある傷が眉間にあった。

「……」

 ヘモジが与えた致命傷だ……

「まさか、こんな所に……」

 僕がやったのか?

 異空間に放り込んだんじゃなくて、長距離を転移させただけだったのか?

「ごめん、忘れてた。ヘモジが夜中に狩ってきたんだった。羽を切り落としておいてくれるか」

「これどうやって中に入れたの?」

「どうやってって――」

 マリーとヴィートが興味津々聞いてきた。

「転移以外ないだろ? 夜中だったから放り込んでおいたんだ」

 すっとぼけていると「だから船の魔石減ってなかったのか」と、ニコロがささやいた。

「なんだ徹夜か?」

「師匠と同じ頃寝ましたよ。今何時だと思ってるんですか」

「ガーディアンを使ったままにしてたから、今朝ついでに船の魔石の交換もしておこうと思って」

 ミケーレが言った。

 子供たちがにやついている。

「師匠」

「自重してください!」

 一斉に突っ込まれた。

「折れたブレードとこの眉間の傷見れば想像つくんですからね」

 ニコレッタが言った。

「師匠にはまだ他人に言えない必殺技があるんだよ」

 ジョバンニがどの角度で羽を切り落とすか立ち位置を決めながら関心なさげに言った。

「わたしたちには言って欲しかったわよね」

 フィオリーナがニコレッタに同意を求めた。

「そうよ。弟子なんだから」

「昨日行って来た場所ってここから近いの?」

 ヴィートがドラゴンの頭の上から見下ろしながら言った。

「だったらわたしも行ってみたい!」

 マリーが声を上げた。

「悪かった! 実験だよ、実験。向こうで実験してたんだ」

「成功したの?」

「それって遠くから転移させる技?」

「すげー」

「失敗したんだよ」

「……」

「失敗したのに、ここにあるの?」

「だから他のみんなには内緒だからな! ヘモジが取ってきたことにしておいてくれよ」

「しょうがない。武人の情けだ」

 誰が武人だよ。

「それよりみんな、時間はいいのか? 授業の時間じゃないのか?」

「あーッ、もうこんな時間!」

「やべ、ラーラに怒られるぞ!」

「今日はラーラが先生だったんだ! 急げーっ!」

「ちょっと下りらんないよ! 誰か」

「しっぽの方から下りろよ!」

「誰か先に行け!」

「任せろ!」

「戸締まりお願いしまーす」

 子供たちが蜘蛛の子を散らすように倉庫から出て行った。

 僕は眉間に傷のあるドラゴンの頭に手をやり、大きく溜め息をついた。

「失敗か……」


 内心、期待していたのだけれど、僕の新たなスキルは不発に終わったようだった。

「まあ、これはこれで成功なのかも知れないけど」

 僕は大きな欠伸をしながら食堂に戻った。朝食を食べていないのはもう僕だけだ。

「すいません、婦人」

「構いませんよ。きのうはお疲れだったのでしょう? そうそう、通信が届いてますよ」

 ギルド通信が届いていた。

 爺ちゃんからだった。


『お前だろ? 邪魔だったから移しておいたぞ』


「これは一体…… どういう…… 意味?」

 まさかアールヴヘイムに送ってしまったということか?

 倉庫にあったのは爺ちゃんが送り返してきたから?

 ということは…… もしかして……

 爺ちゃんの『楽園』に届いちゃった?

 届いちゃったのかぁ!

 頭が噴火しそうになるぐらい興奮しながら、だからこそ何度も内容を再考して急いで返事を出した。


『届いちゃいましたか?』


 こんがらがった頭で書いては消してを繰り返していたら、一言になってしまった。



 返事は昼食時にきた。


『おめでとう』


 たったそれだけだったが、涙が込み上げてきた。

 僕は欠伸をする振りをしながら涙を拭った。

 隣りの専用の椅子から見上げるオリエッタとヘモジに「成功してた」と呟いたら、飛び上がって喜んだ。そして僕のコーンスープの入った皿を引っ掛け、跳ね上げた。

「ああ、何やってんだよ! ヘモジ」

 居並ぶ子供たちが怒った。

「ナナナ!」

 やったのはオリエッタだとヘモジは抗議した。

「ごめんなさい」

 オリエッタはすまなそうに頭を垂れた。が、振り返った顔には満面の笑顔が浮かんでいた。

 ヘモジも同様だった。

「ありがとう」

「ナーナ」

「これでおやつ隠し放題! 大量発注」

 満面の笑みが怪しい笑みに変わった。

 おやつのために誰が膨大な魔力を消費するんだよ!

 この場に姉さんがいなくて助かった。いたら間違いなく怪しまれた。僕が『楽園』を手に入れたことを。オリジナルを尊重するなら『牢獄』と言うべきか? 僕の新たなユニークスキルはどんな名前になっているだろう。


「どんな名前になってる?」

 自室で『認識』持ちのオリエッタにこっそり確認したところ首を振られた。

「習得には至ってはいないと言うことか……」

 ふたりが僕の代わりにがっかりうなだれた。

「ナーナ」

「そうだな。でもスタート地点には立てたんだよな」

 僕にも習得できる可能性が出てきたんだ。

「さあ、続きをするぞ!」

「おーッ!」

「ナーッ!」

 ジュディッタたちの家を建てる続きをしに居住区に向かった。



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