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緊急連絡がきた

「書庫を作ろうか?」

「名案」

「ナーナ」

「『異世界召喚物語』 まずはあれからだな」

「古代語難しい」

「翻訳本もあるから」

「実用書から」

「ナーナ」

「面白いのに」

「注文する」

「ナーナ」

「場所どこにしようか? 高価な物だから立派な書庫を」

「リオネッロの部屋でいい。いっぱい増えたら考える」

「すぐ満杯になるって」

「ナナナ」

「閂なんていらないよ! 馬屋じゃないんだから」

「ナーナ」

 トラップ?

「迷宮かよ」

 オリエッタが吹き出した。

「魔法練習場も欲しいな」

「空き地いっぱいある」

「でかいのできるな」

「そういう意味じゃない」

「ナー……」

「でもまずは装備だな。今のままじゃ心配でしょうがないよ」

「子供すぐ大きくなる」

「ナーナ?」

「うん。勿論ドラゴン装備と魔法の盾」

「一応注文してはいるけど、第二陣の補給に間に合うかな。武器は何がいいだろう。みんなに聞いておかないと」

「ナーナーナ」

「お!」

「まっすぐになったか?」

 僕たちは船に乗って、砦から何本も繋ぎ合わせたロープを延ばしている。

「方角は?」

「問題なし」

「ようし! 土台造るぞ」

 僕は船の後部甲板から湖面を見下ろす。

 魔法を使って湖底の地層を迫り上げていく。

「素材、投下して」

「りょうかーい」

「ナーナー」

『ワルキューレ』に乗ったヘモジが船の甲板に載せた岩ブロックを次々湖底に投げ込んでいく。

「もうすぐだ」

 湖面を波立たせながら水を押しのけ空洞の筒が現われる。

 空気の筒の径はどんどん広がっていき、その中心にツルツルの石の柱が現われる。

 水気を抜いて…… 水気を抜いて…… 固く…… 固く……

 どんどん径は太くなっていき三メルテ程になったところで終了。頑丈な土台の完成である。

 ヘモジにもう一端のロープの先をほどいて貰っている間に、こちらは魔法で土台に穴を穿ち、中心に棒を立てて、抜けないように固め、そこにロープの先を括り付ける。

「移動するぞ」

 僕たちはロープの長さ分だけ船を北に進める。

 空を『ワルキューレ』が飛び越え、ロープをピンと張ったところでホバリングして僕たちの到着を待つ。

 船を真下に着けると、ヘモジがきれいに着地する。

「方角は?」

「ちょい東」

 オリエッタがコンパスを爪でつつきながら方角を指し示す。

 僕は甲板の上を東に移動する。

「どうだ?」

「もうちょっと」

 甲板の端まで移動したが間に合わず、船を東に移動させることに。

「はーい。そこそこ」

「ナーナ!」

 ヘモジがロープをピンと張った。

 みんなで方角と距離を再確認した後、作業再開。

 目印代わりに結んである団子の下に土台がまた一つ迫り上がってくる。


 今朝ドラゴンに叩き起こされてから作業を始めて、最寄りの北西の瀑布に辿り着いたときには太陽が天頂に差し掛かっていた。

 滝口から見下ろす水面にまっすぐ土台が一直線に並んでいる。あの上に水道橋のアーチを架けていく予定だ。アーチの上に更にアーチを掛け、水路に僅かばかりの勾配を付けていく。

「水を張る前に造っておくんだった」


 港に帰るとミントと子供たちは迷宮に潜っていた。ミントは兎も角、子供たちは蟹相手に今日も特訓らしい。午前中は座学をしっかりやって、それから突入したそうだ。

 今日の付き添いはラーラとイザベルだ。

「蟹脚ばっかり増えるな」

「ナーナ」

 そりゃ、土の魔石が手に入るのは嬉しいけど。

「リオさん。連絡が来てましたよ」

 婦人が掃除の傍ら、メインガーデンから連絡が来たことを知らせてくれた。

 双子石で送られてきた内容は一言一句違わずメモされていた。それもそのはず、送られてきた文章は一回の通信に収まりきらない量だったからだ。

 送り主はメインガーデンのギルド長だった。


 見出しは『アールヴヘイムより急報。ミズガルズ全ギルドに情報拡散、並び情報収集求む』


 ギルドってこんな風に情報のやり取りしてたんだなと感激しつつ、すべてのギルド支部に宛てた内容を確認した。


『兼ねて組織Mを支援していたルカーノ諸島連合が崩壊したプロセスについて、追加情報――』

 Mとは『ミズガルズ解放自由戦線』のことらしい。

 ルカーノ諸島連合の中心的役割を果たしてきたルカ・ビレ代表王国で勃発したクーデターが連合崩壊の直接の原因と見做されていたが、調査の結果、事態は遙かに深刻だったと記されていた。

「ナナ?」

 僕たちは崩壊のことすら知らなかった。

 原因は驚くことにタロスによる襲撃であった。

 結果、王都が丸ごと消えたらしい。そう、崩壊したのではなく文字通り消えたのだ。

 劣勢に追い込まれた王宮側が起死回生に何かしたのではないかというのが専らの噂らしい。その結果、予期してか、しなくてか『太陽石』が寝言を吐いてしまったというのがギルドの大方の予想だ。

 捨てきれずにいた大量の『太陽石』を持ち逃げするために一まとめにでもしたのだろう。そして飽和に達し、タロスを呼び込んだ。というのがヘモジとオリエッタの素直な感想だった。

 だがゲートキーパーに周辺世界への干渉調査を依頼した結果、今回の接触はなんとタロス側からではなく、王都側からなされた形跡があることがわかった。

『寝言』を利用して、あろうことか人類側からミズガルズに干渉したという驚きの調査結果がもたらされたのである!

 タロスにまたアールヴヘイムの所在がばれたのではないかと一時は戦々恐々となったらしいが、そちらの心配はしなくてよいとのことであった。

 かねてからの懸案であった、ミズガルズへの渡航チェックを彼らがすり抜けていた件に関して、図らずも回答が得られた格好だ。

 彼らはミズガルズに転移する技術、あるいはスキルを有している!

 そう考えれば『太陽石』の特性にいち早く気付けた理由も合点がいく。

『寝言』に一度きりという制限があるでなし、普段は分けておいて必要なときだけ数を合わせれば何度でも再利用が可能だ。一定期間をおいて魔力を回復してやりさえすれば、一度集めた『太陽石』で、何度でも繰り返し発動できるのだ。

 悪ふざけが過ぎたな。

 ギルドからの拡散情報はここまでで、ここからは情報収集の依頼だ。


 自然消滅したはずの『ミズガルズ解放自由戦線』のその後の行動把握と消えた王都の調査である。

 転移した質量を逆算すると、こちら側の世界に切り取られた可能性が高いらしい。やったのは遭遇した第二形態のようだ。

「参ったな……」

「読み終えたらこっちへよこせ」

「うわっ!」

 姉さんがいた。

 台所の椅子に腰掛け、僕が読み終えたメモを手に取っていた。

「ほら」

 最後の一枚をよこせと催促された。

「お早いお帰りで」

「何言ってるの。外はもう真っ暗よ」

「え?」

 僕は長い間、考え込んでいたらしい。

 姉さんの後ろでは婦人が夕食の鍋をかき混ぜていた。

「ああ、ごめん」

「いや、正直わたしも驚いている。我らと同等の技術やスキルを持った者がいないと考えるのは傲慢だと頭ではわかっていたのだがな」

 僕は作業の邪魔にならないように台所から出ようとしたら、引き止められた。

「北の部隊から気になる報告があった。数日前、北の空に煙が上がっているのが見えたそうだ。タロスの斥候が野営しているのだろうと、そのときは気にも止めなかったらしいが……」

「僕に行けって?」

「他に誰がいる?」

「わかったよ。じゃあ明日」

「今夜だ!」

 姉さんの真剣な顔をまじまじと見詰めたのはいつ以来か。

「転移能力を持つ者が生き残っていたら封じて連れてこい。無理なら」

「闇に紛れていた方が顔を見ずに済むかな」

「人の力だけでできることじゃない。技術的な関与もあるはずだ。第二形態にも注意しろ。相打ちになっているなどと安い考えを巡らすなよ」

 だったら姉さんも行こうよ。


 子供たちが蟹の脚を一関節分持ち帰ってきた。

「お刺身で」

「まだきのうのが残ってるわよ。保管庫に入れてらっしゃい」

「自力で倒せたか?」

 ヴィートに尋ねた。

「最初はよかったんだけどさ。最後は逃げられちゃって」

「足場から下りて追い掛けるなよ」

「だから逃げられたの!」

「ならいいけど。装備は発注してあるから今は我慢してくれよ。その内好きなだけ追い駆けっこさせてやるから」

「人を犬みたいに言わないでよ!」

「残りはお姉ちゃんズがやったのか?」

「一瞬で真っ二つだよ。ほんとやんなっちゃうよ」

「剣を持たない今のうちに魔法をしっかりものにするんだな」

「うん、そうする」



「なんか『ワルキューレ』ガタ付いてないか?」

 久しぶりに乗った愛機の調子が悪い。

「ヘモジが無茶するから壊れた」

「ナーナ!」

 いつもの面子で夜の散歩である。



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