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デッド・ラインズ・プライマー  作者: ポモドーロ


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姉来たる

「オリエッタ、向こうの人数どれくらいだ? あの船に姉さん一人ってことはないだろ?」

「もうちょっと」

 まだ遠いか。

「わかったら、姉さんが来たこと婦人に知らせてきてくれるか」

「わかった」

 同じテーブルを囲むことはないと思うが、それでも相応のおもてなしというものがある。一品二品の差し入れはあって然るべきだろう。

「ナーナーナー」

 再召喚!

「ヘモジ、お前! 何やってんだ。横着するなよ」

 しゃきーん。

「ナナナ」

 畑に水やる時間?

 ポーズもおざなりにジョウロを掴んだ。

「まったくもう」

「じゃ、見張りもよろしくな」

「ナナナ!」

 樽の水が空?

「魔法で入れるか?」

 ヘモジは首を振る。

 水を運ぶには今置いてきたガーディアンをもう一度取りに行かないといけない。

「二度手間だな。ご愁傷様」

「ナナナ!」

「自分で取ってこい! ゲート開けてやるから」

 間髪入れずにヘモジは飛び込んだ。

「樽! ヘモジ、樽忘れてる!」


 しばらくして水の入った別の樽を抱えた『ワルキューレ』が戻ってきた。

 水より樽が溜っていくぞ。

「ヘモジ、空の樽はちゃんと下ろせよ」

「ナナナ」

 雨水を溜める?

「砂漠だぞ。ここ」

「ナ!」

 ヘモジは空を見上げた。

 オリエッタが戻ってきたので、今度こそ見張りを代わった。

「船が来たらスロープの方に誘導を」

「遠回り」

「籠城戦の基本だろ」

 望遠鏡を覗く。

「故障はしてないようだな」

 取り敢えず大丈夫か。

「橋架けるのそんなに駄目か?」

 オリエッタは大きな欠伸をした。

「時間の無駄。『浮遊魔方陣』壊れた船、どうせ橋渡れない。壊れてない船、迂回すれば問題ない」

「それはそうなんだけど」


 やって来たドック船はドックと言うだけあって巨大だった。ほとんど竜骨とあばら骨だけの船だったが、腹のなかには壊れた中型船が二隻収まっていて、作業員たちが目まぐるしく動き回っていた。

 船は帆を畳むと、誘導に従い湖を迂回しながら造り立てのスロープを下り、湖面の上を滑りながら西側港エリアのドックに入港した。

 桟橋も船台もない、ただ停泊するだけの更地だけれど。


「ちょっと、ほとんどでき上がってるじゃないの!」

 何もかも中途半端な現状のどこがほとんどなんだか。

 姉さんを先頭に数人がタラップを降りてきた。

「『箱船』で来ると思ってたんだけど」

「主力船を後方に下げるはずないでしょう」

「ドラゴンタイプを回収して欲しかったんだよ」

「ドラゴンタイプ? 何? あんたたち襲われたの?」

「はあ?」

 何を暢気な!

「こっちは遭遇しなかったわよ」

「一体も?」

「見掛けたことはあったけど、下りては来なかったわね。こっちは小物ばかりよ。あんたが破壊した駐屯地から溢れた連中だと思うけど。斥候程度が毎日チマチマと。足止めでもしてる気なのかしら?」

「嘘だろ。なんで前線をスルーするかな」

 僕がうなだれると一緒に出迎えた子供たちもうなだれた。

「やっぱりドラゴンもリリアーナ様が怖いんだよ」

「こっちが舐められてるってこと?」

「ここを落として『箱船』を挟撃するつもりだったんじゃない?」

「だったら途中でユーターンすればいいじゃないの。ドラゴンなんだから」

「んなろーッ! 今度遭ったらコテンパンにしてやるぜ!」

「あ、話そらした」

「ナナーナ!」

「生きて帰さない!」

「いや、倉庫いっぱいだから追い返せよ」

「倉庫に入らない分は今度から肉片残さず吹っ飛ばーすッ!」

「吹っ飛ばーすッ!」

「ナーナンナーッ!」

「西の空は地獄の空だと思い知れーッ!」

「思い知れーッ!」

「ナーナンナーッ!」

「もいだ羽、日干しにしてスルメにするぞーッ!」

「おおっ?」

「スルメ?」

「なんで?」

「ぷっ」

「あはははははっ」

 子供たちはネタで大騒ぎしながら、姉さんたちを巨大倉庫へと案内した。

 そして大きな扉を押し開けると……


「なッ、何よ、これーッ!」

「こ、これ全部…… ドラゴン?」

「我らと別れてから精々二週間。その間にこんなに?」

「というより、君たちだけで捕獲したのか?」

 溜まりに溜った十四体、いや、十五だったか? ドラゴンタイプの並んだ骸を見せると、姉さんたちは唖然と立ち尽くした。

 例年の姉さんたちの稼ぎからすると、これだけで全体の上がりの二ヶ月分に相当するらしい。

「こっちはほぼ毎日よ」

 ラーラが姉さんにやんわりと不満を漏らした。

「第二形態も来たんだよね」

 マリーが話に乗っかった。

「来たけど来なかったんだよ。変なおじさんがどっかに飛ばしちゃったから」

「変なおじさん?」

「黒い髪した早口な人」

「ヤマダさんって言うの」

「ヤマダタロウ! もう来たの?」

「ほら、あそこ」

 僕たちはだだっ広い港の中央にポツリとある白亜の東屋を指差した。

「迷宮への転移ゲート、もうできてるよ。爺ちゃんが手を回してくれて、教会のセッティングも終わってるらしい」

「暇な連中連れてくるんだったわ」

 姉さんの口振りからすると前線は本当に閑古鳥が鳴いているようだ。

 一過性のものだろうが、対岸に渡って二週間ちょっと、防衛ラインを構築するにはタイミングがよかったということだろう。が、稼ぎを考えると笑ってもいられない。

 僕たちの戦利品の山を見て、少しは安堵してくれただろうか? それとも不安が増したか?


 分け前は獲物によって配分が変わってくるが、ドラゴンの場合、運搬、解体、販売手数料等の諸経費を引いた利益から、三割がギルドに、残りが討伐参加団体に入る契約になっている。

 この場合、運搬等の諸々はギルドの後方支援部隊が行なうので、厳密に言えばそれもギルドへの上納と言えるだろう。

 ドラゴンの場合、利ざやが大きいので多めに取られるが、それでも優に儲けの五割は入ってくる計算だ。ドラゴン七体分と考えれば、魔石の補充はおろか、大型船だって買える。

 子供以外、みんなの給料はギルド持ちになっていたが、この際こちらに引き取って、独立して貰うことにする。子どもたちも含めてあっという間に大金持ちだ。

 子どもたちが何人迷宮に潜りたがるかわからないけど、全員分の装備を整えてやれるし、部屋の内装も好きなだけいじれる。やりたい放題だ。

 ランキングポイントに関してはギルドにすべて譲渡した。

 ドラゴン十五体分、有効に使って頂きたい。僕たちはランキングには参加しないのでイザベルの分だけ戻して貰えればそれでいい。換金後の現金の方がありがたい。


「この穴蔵は港湾エリア。商業区にしようと思ってる」

 爆発で抉れてしまった斜面を更に掘り進めて造った巨大な空洞。

 湖の水位まで盛り土をして、そこに造った平地と、あえて傾斜を残し階層化した外縁部。そしてそれらを囲うようにそそり立つ壁面。煌々と夜を照らすことになっても、明かりが東の大地に漏れることはない。


 山の傾斜に寄り添うように伸びる石畳の坂道を上がると、そこにあるのは居住区である。

「ここは村の建設予定地。あそこに噴水を造るつもりです」

「整地まで終わっているのですね」

 側近のひとり、腰まである長い髪のアマーティさんが感心して言った。

 普段はブリッジクルーらしく、たまたま休暇と重なったせいで副団長の代わりを押しつけられたらしい。

「あの岩ブロックは建材として利用して貰うためにおいてあるので、自由に使ってください」

 売約済みの看板には誰も突っ込んでこなかった。


「この辺りに工房や鍛冶屋とか職人長屋を造ろうかと。できれば北と南で生活と軍事を分けて」

「港と離すのはどうなのかしら?」

 明らかに冒険者のなりをしている女性から異論が出た。名前はポシェットさん。ぶっ壊れた中型船の所有者の一人である。

「そもそも公共ギルドはどっちに置く気なの? 港湾区なの? 居住区なの?」

 姉さんにも突っ込まれた。

「それは…… 上に置こうかなと思ったんだけど……」

「駄目よ! 迷宮の脱出ゲートの近くじゃなきゃ。物流は港湾区に集中させなさい。このフロアは砦で使う軍事物資だけを扱うように。砦の機能と街の機能ははっきり分けること!」

 民間に流れては困る軍事物資もあるから、警備の面でもその方がいいらしい。

 会計処理も含めて、砦を運営することになる姉さんたちには曖昧さはミスの元だそうだ。

 唯一ある工房というか、まだ物置にしかなってないモナさんの工房を尻目に次の目的地、砦の建設予定地に向かった。


「下から見たら狭く感じるけど、結構広いわね」

 一般的な城が建つぐらいの広さは充分にある。

「東側を一望できるだろ」

「これはいいわね」

 皆、眺めのよさに感動していた。

 その足で僕たちの家の外側に造った石段を登りながら見晴台に向かった。

 その前に。

「この扉、何?」

「それは後で」

 我が家の非常口兼、見晴台へのショートカットである。


 見晴らしのいい平坦に出た。樽やそれを運んできた『ワルキューレ』が無造作に置かれたままになっていた。

「これ何?」

「見ての通り畑だよ」

「なんでこんな所にあるのよ!」

「ヘモジだよ。見張りだけじゃ退屈だって」

「じゃあ、しょうがないわね」

 怒るどころかデレた。

 西に広がる絶景をのんびり眺めている時間もないので、北の別働隊の防壁建設の遅れだけ確認すると、僕たちは先程の扉まで戻った。


「ちょっと、あんたたち!」

 姉さんが声を上げた。

「一階は空けてあるから姉さんが使ってよ」

「砦のど真ん中じゃないの!」

「それは錯覚。西寄りだから居住区扱いだ。僕達以外には使いづらい場所だよ。砦の管理施設は東寄りのすぐ下に広い地層があるから、そっちにどうぞ。広い部屋ができるはずだよ。その方が工房との連結もうまくいくから。高い所じゃなきゃ嫌だって言うなら別だけど」

「姉さんは人里外れた山小屋みたいな場所が好きなのよ」

「総司令官が世捨て人じゃ、困るだろ」

「この一階は貰い受ける!」

 姉さんは頬を赤らめ、宣言した!

 気に入っちゃったんだ……

「要人用の客間も砦よりこちらの方がいいわね。外側には蔦を絡ませて、木も植えるのよ!」

 この辺りまで水を上げなきゃいけなくなった。

「ナァア!」

 お前が喜ぶな。

「『箱船』に帰るのやめて、ここに司令部置こうかしら」

「ちょっと! リリアーナ様!」

「じょ、冗談よ!」

「絶対冗談じゃないよ」

「うるさい! 馬鹿弟!」


 船に残っていた連中にも上陸許可が下りた。家をいきなりとはいかないのでテントを作るなり、滞在中は好きにしていいということになった。彼らは前線で沈められた船のクルーであり、その船は今ドック船の上で修理作業が行なわれている。暇になった連中を砦の建設作業に従事させるつもりで連れて来たのだ。

「見張りについて貰えるだけでも助かるよ」

 ようやくミントの仲間を探しに行けそうだ。



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