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姉を待つ日々

 モナさんは工房をどこに造るか決めかねていた。

 砦に近い所がいいか、村に近い方がいいか、はたまた港に近い方が……

 リスト作成に必要な物を見極めるためにも早く決めたいところである。

「西側に住居街、東側に砦の防衛機能を集中させる予定だから、工房は中間の北か南側に造ればいいんじゃないかな」

「鍛冶屋街みたいなものを作るのもいいかもしれませんね」

「じゃあ階層もその中間辺りにする?」

 砦の方が村の建設予定地より上層にあるので、その中間にフロアを設けることになる。必然的に外周部以外は地下になるだろう。

「でも『ニース』が……」

「空中専用機ばかりじゃないもんな」

 山の中腹に造るのは問題ありか。

「でも生活圏となるべくかぶらないようにしたいんだよね」

「それは同感ですけど」

「浮遊魔方陣を使ったアシスト装置みたいな物で浮かせる手もあるな」

「それいいですね」

「じゃなかったらクレーンで吊り上げるとか」

「それは嫌かな」

 何が違う!


 結局、ガーディアンを収容できるサイズの穴を山の傾斜に空けることにした。そして着陸し易いように残土で穴の足元にデッキを設けた。

『ニース』などの重量級に関しては無理やり斜面にアタックさせずに、オプションユニットのような物を使って、浮かせて搬入することに。

 そういう商品が既に世の中には存在する。我が社のカタログにも載っている。

『浮遊アシスト機能付き運搬サポートシステム』の頁を食い入るように見詰めるモナさんの目が輝いている。

「どうかしら?」

 そんな嬉しそうな目で見られたら……

「い、いいんじゃないですか」

「甲板に重い荷物を積み込んだりするときにも使えるから港でも使えるわね」

 元々ガーディアンを使わず、貨物を持ち上げて運ぶときに使う運搬器具だ。あちらの世界の大きな港湾などではよく使われている。

「予備と二つあれば」

「リストに載せておくよ」

「お願いね」

 壊れたガーディアンでも手に入れてきて自作した方が早いのだけれど、それじゃ嫌だよね。

 はい。新品購入しますね。

 新し物好きはメカニックの性みたいなものだから。


 巨大な工房の扉も、間に合わせに残土を固めて作った。

 砂を薄い板状に加工して中抜きした物を、レールの溝に載せ、左右に引いて開ける引き戸にした。ただし中抜きして重量を落としても、人の手では開閉不可能だ。人の手で簡単に開けられるようにするには軽くて丈夫な素材やコロや錘を付けるなど細かい工夫が必要だ。が今は資材が何もない。接地面を磨くぐらいしかできない。ということでガーディアン用の取っ手を付けることにした。

 搬入するガーディアンもまだないので、船にあるガーディアン用のパーツ部品などを移したら取り敢えず閉めておき、小扉から出入りすることにする。

「屋根の角を丸くして貰っていいですか? 照明に死角が出るの嫌なんで」

「床に排水用の溝を掘って貰えます? 勾配も扉の方に向かって低く」

「光の魔石はあそことあそこ。作業台はここに。高さはこれくらいで」

 色々注文が多い。が、気持ちはわかる。

 いずれモナさんの持ち場になるのだから望み通りにしてあげよう。

 地下から家に連結する近道も通そうかと考えたが、ドワーフ鉱山の縦坑にあるような釣瓶を巻き上げるタイプの巨大水車を山の内側に造ろうと考えているので、後回しにすることにした。

「人手が欲しいな」

 痛感する。人はひとりでは生きられない。何をするにも人手と物資が足りなさ過ぎた。

「姉さん、早く帰ってこーい!」



 迷宮へ至る長いスロープで子供たちがソリ遊びを思い付いた日の午後、快晴。港の休憩所前にて。

「へー、面白いな」

 一足先に遊びから戻ってきたヴィート少年が持っていた自作のソリを見せて貰っていた。

「最初、四つにしたら曲がらなくて」

 土魔法で作ったソリの底に半球状の穴と車軸を収める穴が開いていた。そこに軸を串刺しにした小さな玉を嵌め込んで転がる仕組みを作り上げていた。

 土魔法で造形しまくりだな。

「軸折れないか?」

「モナお姉ちゃんから金属の棒を貰ったんだ」

 以前回収したガーディアンのガラクタから使えそうなパイプを手に入れたらしい。

「大丈夫なのか? 軸穴が馬鹿になりそうだぞ」

 石質に金属棒では削ってくれと言っているようなものだ。

「平気だよ、別に。削れたら魔法でチャチャッと直せばいいんだからさ」

 魔力の無駄遣いも修行の内か。

「それより、いつ迷宮に行くの?」

「それなんだがなぁ……」

 やることが多過ぎて、迷宮探索に行く時間がない。

 タロスも常時警戒しなくちゃいけないし。

「リリアーナ様、いつ帰ってくるの?」

「十日のうちに、とは言ってたんだけどね」

「今日で何日目?」

「ちょうど十日目」

「じゃあ、今日来る?」

「厳密に決めたわけじゃないから」

「もう、リリアーナ様が来ないと事が進まないよ!」

「全く以て、その通り」

「村の家、勝手に造っちゃ駄目なの?」

「水車、造ろうぜ」

 ジョバンニたちが地下から戻ってきた。

「木材はいろんなところで使うから、計画的に分配しないと」

「じゃあ、森に木を切りに行かない? 『無刃剣』の練習にもなるし」

 ニコレッタが言った。

「畑作りにも水は必須だからな。早々に着工したいところなんだけど。砂漠の木材にその強度があるかどうか」

 年輪が詰まっていない木は脆い。水の重さまで加わる巨大な水車を支える柱になりうるものか。迷宮内で鉱石が採れるようになるまで待った方がいいのかとも思う。が、鉱物が採れるエリアまで進むにはきっと時間が掛かるはずだ。

 バザーン!

 目の前の湖面に突然水柱が上がった!

「なんだ!」

「落石?」

 湖面にぷかりと小さな頭が浮かび上がった。

「船が見えたッ!」

 てっぺんで見張りをしているはずのトーニオが叫んだ。

「落ちたの?」

 ニコレッタが言った。

「風と水を操るトーニオ様に不可能はなーい!」

「操ってる人がどうして勢いよく背中打ってるのよ」

「ちょっと追い風がきつくて。あ、頂上からじゃないから」

「当たり前だ! 頂上からだったら死んでる!」

「うん、危なかった。庇の展望台から飛んだんだけど、危うく土の魔法の力を借りるところだったよ」

「師匠が固めた床を一瞬でどうやって柔らかくする気よ!」

「忘れてた」

「以後、飛び込み禁止!」

「えーっ!」

「えー、じゃないわよ! 魔法が使えなかったら、地面に激突よ!」

「使えるから飛び込んだんだけど」

「うるさい! 風魔法が使えない者がもし真似したらどうする気よ!」

「うわ。ニコレッタ、こえー」

「聞こえてるわよ、ジョバンニ!」

「以後気を付けまーす」

「慎重なトーニオが珍しいわね。こんな馬鹿なことするなんて」

 フィオリーナが言った。

「そうだった! 船だよ、船ッ! 船が来たんだ!」


「襲われてる?」

 ようやく来たと思ったら。

 港エリアから半周回って東側に出ると、地平線の空に煙が棚引いていた。

「なんで早く言わないのよ!」

「みんな駆け出すから……」

「馬鹿!」

「馬鹿、トーニオ!」

「ガーディアンは?」

「ヘモジがもう出た」

「ラーラにも伝えろ!」

 ミントが飛んできた。

「船が襲われてるわよ!」

 ミントがトーニオを見た。

「あら、早かったわね」

「僕の勝ち」

「今度やったらお仕置きだ。急ぎならバケツを鳴らせ」

「はーい」

「ラーラもイザベルと出るから留守番よろしくだって」

 僕たちは急いで見張り台に跳んだ。


 望遠鏡を覗くと魔法の光がときたま明滅するのが見えた。

「タロス兵だな」

「兵隊いっぱい!」

 オリエッタが手摺りを蹴飛ばし僕の肩に飛び乗った。

「ポイントになりそうにないのがわらわらと……」

 せめて精鋭ならいい物回収できるんだが。

「どうするの?」

「見守るしかないな。信号を見落とすなよ」

「どうせなら近場でやってくれたらいいのに。こっちにはタイタンもいるんだからさ」

「あっ、橋、造ってないや」

 対岸に渡る橋をまだ架けていなかった。

「師匠…… 今その話する?」

 弟子にたしなめられた。

 その内ヘモジのスーパーモードの光の筋が縦横無尽に棚引き始めた。

 僕は減り始めた魔力を補充するため『万能薬』を舐めた。


「通信。『回収する』……」

 ニコレッタが光を読んだ。

「到着遅れるって」

 アイテム回収か。損害軽微といったところだな。

「ここはもういいから、みんな戻っていいぞ。トーニオもな」

「やった」

「何かやることない?」

 ニコレッタが言った。

「勉強」

 オリエッタが言い返した。

「頭働かせたくない」

「じゃあ、身体動かす」

 そう言って僕を見る。ちょっとオリエッタ。こっちに投げるなよ。

「魔力残ってるか?」

「今日はほとんど使ってません」

「じゃあ、あの船が湖に降りられるようにそうだな…… あの辺りに大きめのスロープを造っておいて貰おうかな」

 対岸の少し海寄りを指した。

「砦に近過ぎると襲撃の足がかりになるからそれはなしだ」

「適当でいいの?」

「橋を架けるまでの暫定処置だ」

「橋架けるって、船も通れるようにする気?」

「嘘でしょ?」

「あれ、違った?」

「何考えてんのよ」

「師匠……」

「常識考えようよ」

「『箱船』が渡れる橋って何!」

 子どもたちがじとーっと僕を見る。

「じゃあ、どうする?」

「『箱船』は岸の段差なんか気にしませんよ!」

「壊れたりして水に入れない船が問題なんじゃないの?」

「中海越えてくるんだから大概水には入れるでしょう」

「壊れたらって言ったろ!」

「ドック船がいる?」

「それが一番簡単なんじゃない?」

「じゃあ、ドック船をリストに……」

「ちょっと、師匠!」

「対岸で修理すればいいだけじゃないの」

「師匠、無茶振り」

「冗談だって」

「師匠、そのドック船が来るよ」

「はあ?」

 ヴィートの声に振り向くと、近づいてくる船が視界に入った。

 襲われていたのは中型のドック船だったのか。

「なんでドック船?」

「さあね」

「ヘモジが戻ってきた!」

「ナーナナー」

「ようやく来たか」

『ワルキューレ』が大きな弧を描きながら、船着き場の方に向かった。

「ほら、姉さんたちが来るぞ。ガーディアン使っていいから、早くしろ」

「りょうかーい」

「僕たちのガーディアンどこ置いた?」

「最後に使ったの誰だっけ?」

「マリーじゃないか?」

「だったら船だな。あいつ律儀だから」

「そう言えばマリーは?」

「夕食当番」

「ソリやりたいって泣いてたろ」

「思い出した」

「ガーディアン取りに港に戻るぞ」

「おーッ!」

「全員で行かなくても。一人でいいだろ。残りは今ゲート開けてやるから、先に作業始めてな」

「じゃあ、トーニオが取って来いよ」

「わたしたち先に行ってるから」

「えーっ! なんでだよ!」

「飛び込んだ罰よ」



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