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双子石を使ってみる

 食事の準備が整うまでの間、何もまだ置かれていない居住区二階の居間の真ん中で双子石を試すことにした。

「通じるかな?」

「やればすぐわかるわよ」

「それじゃあ、最初の一文は」

「『こちらは』……」

「どこ?」

「そう言えばこの砦、まだ名前なかったわね」

 試す前に急遽、砦の名前を付けなければならなくなった。

 一人一つずつ案を出して決めることにした。

 が最初の案はどれもしっくりこず、二つ目の提案をそれぞれすることに。そしてやはりしっくりこないので、こねくり回していたらこうなった。


『クーストゥス・ラクーサ・アスファラ(仮)』


 砦の名は斯くの如く決定された。

『湖の守護者』という意味である。一応(仮)にしてある。

 守護者とは僕たちのことではなく、十体のタイタンのことを意味する。提案者は意外なことにミントである。

 しょうがない。みんな名前より双子石を使いたくてうずうずしてるのだ。長かろうが、言いづらかろうが気にしない。

 早速、子供たちは略して『クー』と呼ぶことにしたらしいが、さすがに略し過ぎだろ!

 名前を付けた意味がない。

 兎も角、双子石で一文を送る。

 字数で通信料が取られるので短くしたいところであるが、最初の一通目の送信元が『クー(仮)』では不味かろう。


『宛て。メインガーデン冒険者ギルド、ギルドマスター、カイエン・ジョフレ殿。『銀花の紋章団』砦建設着工。他すべてこともなし。ギルドの計らいに感謝する』


 ついでに二通。


『転送希望。宛て、リバタニア。領主アンドレア・ヴィオネッティー辺境伯並び、関係各位へ。『銀花の紋章団』砦建設着工開始。他すべてこともなし。追加の補給リスト、後ほど送る』


『宛て。『銀花の紋章団・天使の剣』帰属要塞船コムーネ・チェルキオ。同帰属養護院院長様。フィオリーナ以下七名、元気にやっています。魔法をたくさん覚えました』


 いつ通信が来るかわからないので、誰かしら石盤の側にいなくてはならなくなった。そこで石盤は冒険者ギルドが建つまでの間、ソルダーノ婦人にお任せすることにした。


 すぐに三通受け取った旨の返信が来た。

 あまりの早さに「はやっ!」とみんな感嘆の声を上げたが、実は双子石、書いたり消したり校正を入れている段階で既に先方に送っていたらしいのだ。

 書き終えてから転送する設定に変えるよう手順書が送られてきた。

 兎に角! 送受信成功である!

 その場にいた全員が拍手喝采した。


 まだ夕食の準備が整っていなかったので、補給の第二陣リストの作成に掛かった。今回は主に、資材と人材である。が、これはあくまで個人的な手配になる。

『銀花の紋章団』からもいずれ、ギルドとして砦や村の建設のための資材発注や、人事の補充があるだろうが、それは僕たち個人とは別口だ。

 とは言えソルダーノさんが先んじて商売を始めることに異論はないだろう。

 勿論、独占やら勝手をする気はないので、最終的には姉さんとの話し合いで決めることになるが。『銀花の紋章団』にも懇意にしている商会があるし、何よりここはまだ開示できない秘密の場所だ。

 取り敢えず必要なのはちゃんとした大工と建築資材、それと増員が生きていけるだけの生活物資だ。

 でも姉さんのことだから手配が済んでしまっている可能性もある。だとすれば僕たちがソルダーノさんに与えられるアドバンテージは。

「ソルダーノさん、明日、店を出す場所を確保しちゃいましょう。村の広場に面した一等地がいいですよね?」

「よろしいんですか?」

「それぐらいは飲ませますよ。ここまでお膳立てをしたんだから、当然の報酬でしょう?」

「流通は姉さんが独占するわよ」

「どうせ『ビアンコ商会』」

 オリエッタが背筋を伸ばして鼻をひくつかせる。

 男の子たちも匂いの元を探った。

「お食事ですよ。皆さん下りてきてください」

 婦人の優しい声が石のドーム天井に響き渡る。

 三階の食堂に皿が並び始めていた。

「ソルダーノさんの商売の件はわたしが交渉するわ。いざとなったら奥の手を使うから」

 ラーラが言った。

「そりゃ強力だ」

 ソルダーノさんは意味もわからず黙っていたが、ラーラの言う奥の手とは王家の力を使って御用商人にするということである。

 ソルダーノさんに大商人になりたいという野心があるならいざ知らず、家族の安心安全が第一の人だから、さすがにそれはないと思うのだが。努力にはなるべく報いたいところである。


「遅くなったけど、今日も一日ご苦労様。では、いただきます」

「いただきまーす!」

 ラーラの音頭と共に子どもたちが料理にがっついた。

「うめー。やっぱりおばさんの料理は最高だよ!」

「アルベルティーナさんよ。失礼ね。それにそれ、わたしが作ったのよ!」

 ニコレッタがジョバンニの頭を小突いた。

「そ、そうなの?」

「嫌なら食べなくてもいいわよ」

「まずいなんて言ってないだろ!」

 ジョバンニはこれ見よがしに料理を掻き込んで皿を空にした。

「おぐぅわり」

「飲み込んでからしゃべりなさいよ!」

 大切りされたパタータとチポッラがゴロンと入っている豪快なシチューに仕上がっていた。 ドラゴンタイプの肉は焼くより煮込んだ方がおいしいかもしれない?

 婦人は「魔法は便利ね」を連発させていた。なんでも煮込み時間が大幅に短縮したんだとか。一体どうやったのか知りたいところである。

「それにしても」

 僕は明かり取りの窓の外の暗闇を覗いた。

「ヤマダタロウ氏はどこまで第二形態を跳ばしたんだろうな?」

 この夜、結局タロスからの襲撃はなかった。



 翌朝、晴天。村の建設予定地に積み上げてある石ブロックを僕は見上げた。

「どんな店構えがいいだろう?」

 積み上げた石ブロックのせいで広場の中心が定まらない。

「何を売るか決めないことには……」

「ですよね。商業ギルドもいずれ来るでしょうから、かぶらない物がいいですよね。でもそうなるとやっぱり加工品かな。お薦めは宝石なんですけど」

「宝石ですか?」

「迷宮で山ほど採れますからね。スキルで加工すると結構なマージンが稼げるんですよ。こちらの世界独自の石が見付かると、なおいいんですけど。あとは『完全回復薬』と『万能薬』 これは定番でしょう」

「いやいや、さすがにそれは!」


 頭の上を飛んでいたヘモジが止まった。

「ナーナ……」

 親指と人差し指をぱちぱちさせてアバウトな測量を何度もした後、ガーディアンを石ブロックの隙間に下ろした。

 どうやらあの辺りがこの広場の中心になるようだ。

 ヘモジのアバウトは本能のなせる技なのか、意外に的確だったりする。田畑の測量も勘だけでうまくやって退けるのだから不可解でならない。


「下位レベルの薬は冒険者ギルドのアイテム販売所でも扱いますから、あまり売れないでしょうが、売れたときの儲けは大きいですからね」

「普通に売れる物があれば……」

「迷宮から出る物といえば皮や肉、装備品…… それを加工した物を売るなら腕のいい職人が必要になりますね…… いっそ金やミスリルを」

「かき氷屋する!」

 マリーが手を上げた。

「それはいい! ここは年中暑いからきっと売れるね。業務用のかき氷器を手配しておこう。そうなると練乳とあずき、(フラーゴラ)も必要だな。単独で入荷させると輸送費がかさむから何かのついでに紛れ込ませるのがいいだろうな」

「リオさん! それはまだ」

「わかってます。でも子どもたちにも働く場を用意してあげないといけませんし」

 旗を突き立て、方角を定め、短いながらも街道を四方に配置しよう。中心から噴水池の半径、広場の幅を割り振って、一等地の角を押さえよう。

「ここに石ブロック置いた奴は誰だ! 面倒臭い!」

「ナナーナ」

 ハイハイ。僕ですよ。

 ヘモジと一緒に石ブロックを山の斜面の方に積み直すと、地面に線を引いて町並みのレイアウトを描いた。

「港湾区まで下りられる広い道は上りと下りで二本あった方が便利かな」

 教会やギルド事務所、野菜市場に喫茶店。斜面にもいずれ街並みが溢れることだろう。

 足元に広がる砂漠を見下ろす。

「先は長いな……」

 適当に敷地を区切って『売約済み』の看板を立てた。

 街道を整備するのがまず先だと知った。

 その前に噴水まで水を引いてこないと作業の二度手間になる。

 街の開発。迷宮探索。タロス攻略。やることだらけだ。

 空に金バケツの音が響き渡る。

「ドラゴン来たよーッ!」

 見張り当番の一人、トーニオが叫んだ。

「ドラゴンが来たみたいです」

 ソルダーノさん一家を建物のなかに避難させた。

 僕はヘモジの操縦する『ワルキューレ』に飛び乗って見張り台に降り立った。

 トーニオから望遠鏡を受け取るとヘモジが飛んでいった先を追う。

「倒さなくていいからな」

「倉庫もういっぱいだしね」

 すぐに決着が付いた。四体が編隊を組んで飛んできたが『ワルキューレ』を見ると早々に踵を返した。

「一体だけで済んだな」

『ワルキューレ』をいよいよ天敵と見なし始めたかな?

「あー、こら! 追い掛けなくていいから!」

 トーニオとオリエッタが爆笑した。

「はあ……」

 回収してくるか。



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