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タロス殲滅作戦(前進と後退)

「とうとう来たわね」

 僕の肩を叩いた。

 一見自信に満ちたその目には憂いが見えた。

「来なくてもよかったのに」

 爺ちゃんたちに言ったようだが、僕に言っているように聞こえた。

「この戦いはわたしたちの戦いでもある」

 姉さんは自分の母親に厳しい視線を向けた。

 何度も繰り返された言い合いに発展する前にぐっと言葉を押し殺す。

 今はその時ではない、もはやその時ではない。

 僕とラーラが今ここに立っていること自体、姉さんにとって望まぬ結果の一つなのだから。

 ピノさんが割って入った。

「それでどうなってんだ、現状は?」

 総司令官相手でもかまわず遠慮がない。

「高低差で思うように前進できていない。ガーディアンで領域を確保しても、船を下ろせないでいる。地ならししながら前進してるのが現状よ」

 タロスの最後の砦は臼状の縦坑のさらに深部にあるらしいのだが、その勾配がきつ過ぎるようだ。

 下手に進むと船底を見せながらの前進となるため『浮遊魔法陣』のコアを晒すことになる。

「艦隊戦は無理ってことか?」

「縦穴だけじゃなく横穴も無尽蔵に張り巡らされてるのよ。敵もこの時を予測していたかのような念の入れようで。しらみつぶしにしてるけど。ここまで手子摺らされるなんて」

「ちょっとした大迷宮ってことか」

「まあ、それでもマップはできつつあるわ。隠しルートが残ってるのか、たまに後ろを取られるようだけど」

「空間を抜けてこられてるのか?」

 パトリツィアさんが口を挟んだ。

 第二形態だけでなく恐らく新種も転移先を指定できたなら転移ゲートを開くことは可能だろう。自陣なら記憶も鮮明であろうし、目視できたなら尚更だ。

 それ故こちらは常に後方を意識させられているわけだ。

 幸い大型船の結界を強引に突破する力はないようだが。

「もしかしたら僕たちの出番かも」

「穴掘りなら誰にも負けないから」

「大師匠、連れてくればよかったね」

「レジーナ様には砦を守って貰わないと」

 子供たちが囁き始める。

 タロスは地下深くに拠点を築く癖があることは承知していたが…… 縦坑の大きさは僕がかつて造り出した湖の大穴より大きな代物だった。

 それに加えて周囲に蟻の巣のように張り巡らされた坑道群を考えると、その規模は『メインガーデン』をも飲み込んで果ては見えない。

「投下弾頭を使えば、もう少し効率的に行けるんだけど、正直、これ以上餌を与えたくないのよね」

 臼状の大穴で飽和攻撃しようものなら穴のなかは一気に余剰魔力で満たされることになる。

 魔石から必要量だけ絞り出すように使うのとは訳が違うのである。

 ラーラの出番だな。一度、綺麗にしておいた方がいいかもしれない。

 ラーラと目が合った。

「状況的に飛空艇に分がありそうだな」

 爺ちゃんとロメオ爺ちゃんは内心喜んでいるようだった。

「あとは防御の硬い小型の船だけど」

 飛空艇はそもそもドラゴンと戦うために生み出された船である。高高度を飛ぶため武装は下向きにも対応している。結界も完璧。

 その点『ダイフク』も下方には弱い。が、結界は最強だ。

『箱船』は縦坑の勾配を進むのには大き過ぎて、整地が叶うまで前進できなくなるだろう。

 このままでは侵攻も頭打ちになって……

 姉さんが急に固まった。

「?」

「どうした?」

 ソナーシステムの盤面からヘモジが顔を覗かせた。

「ナナナナナ」

 挨拶だけして、すぐに頭を引っ込めた。

 警戒してるわ。

 するともう一つ。

 別の顔が盤面の向こう側からひょっこり現われた。

「!」

 あ、対面するのは初めてだったか……

 爺ちゃんたちがいる手前、恥をさらすわけにも行かず、姉さんはじっとこらえる。

 理由を知る者には一目瞭然。

 振り返り、僕を睨み付ける。

『どういうこと? どういうこと? これは一体…… どういうことなの!』

 姉さんの目が猛烈に訴えかけてきた。

 報告行ってなかった?

 教えたら、現場放棄して行っちゃいそうだったから、秘匿してたのかもな。

 姉さんが急に浮き足立ったことは言うまでもない。

「侵攻より大事なことかよ……」

 作戦に影響が出ませんように。


 話し合いは各ギルドの代表も含めて急ピッチに進められた。

 そして躊躇していた『特殊弾頭』の投下が決定された。

 これにより縦坑の外周を広げ、船が通れる勾配を生み出そうというのである。

 投下ポイント選定と出力調整が念入りに行なわれた。

 ついでに地下の巣に隠れている一部勢力も巻き込めるので一石二鳥である。

 だが、そのままにしていては魔素溜まりができてしまうので、ラーラを連れて爆心地に赴き、魔素の二次使用を行なうことで空間に溢れた魔素を除去しなければならない。

 ついでに副産物の『無双』でさらなるルートを切り開くという寸法だ。

 穴の縁まで来たら元々ある渦巻き状の螺旋を拡幅しながら進むことになるが、穴の側壁には敵がびっしり張り付きこちらが下りてくるのを手ぐすね引いて待っている。

 ということで、エリアが指定されて、作戦が実行された。

 姉さんは僕たちとの時間を作ろうとしたが、側近に羽交い締めにされ出ていった。

「あとで教えてやるよ」



 飛空艇ではないので、投下弾頭はガーディアンが落としていく。ガーディアンが運べるサイズなので、爺ちゃんの船の物とはサイズも威力も違うが。そこは数で勝負だ。

 抉れる大地。

 粉塵が充満して辺りは何も見えなくなる。

 逃げ惑う敵。崩れる斜面、坑道。埋もれる巨人。

 待ち伏せしていた連中も溜まったものではない。

 穴の最深部もただでは済むまい。

 とっくに瓦礫に潰されているんじゃなかろうか。

 巻き込まれて消えていく敵の反応を見詰める。

 穴の深部は溶岩の熱と強烈な魔力反応のごった煮状態だ。イフリートが出てきても驚きゃしないぞ。

 頃合いを見計らって、僕たちは跳んだ。

 ラーラに加えて、護衛にヘモジたちも連れて。

「何げに転移スキル進化してない?」

 ラーラが言った。

 そうか、ラーラを転送するのは久しぶりか。

「散々子供たちを転送させてきたからな。そりゃスキルも成長するだろう」

「こんな快適な転移、初めてだわ」

 危険に身をさらさなくても出る先の様子は事前に確認できるし、ゲート展開時に発生させていた魔力放出も以前より抑えられている。ゲートを通り抜ける際の重圧感も今やシームレス。

 出現すると、地面の奥、壁の向こうの反応を確認する。味方はいない。

 そしてそこにラーラは全力の『無双』を撃ち込んだ。


 指定されたエリアに向けて、縦横無尽に魔力が薄れるまでラーラは剣を振り続ける。

 当人は固有スキルのおかげで至って元気だ。

 袈裟懸けにされた柱がずれ落ち、支えきれなくなった天井が崩落する洞窟。どれもタロスサイズの巨大な空洞である。

五十層の『アイスドラゴン』の巣を彷彿とさせる。

 敵陣の破壊は一気に進んだ。

 平面積にして元の穴の二十倍以上、掘り込んで広大なルートを作り上げた。それでもまだ勾配はきつい。だが、その勾配を起点にさらに螺旋状に部隊は展開していく。

 そして張り巡らされた坑道に潜伏するタロス兵を、潜入ルートを無視した所から襲い掛かる。

 穴に隠れていたタロスは想像だにしなかった展開に狂乱を極めた。

 そして空飛ぶガーディアンに為す術なく散っていった。

「さすがに坑道の中までは対空兵器は用意してなかったみたいだな」

『ダイフク』は戦闘が続くなか、工兵の如く立ち回り、後続のため時にトーチカや塹壕、防壁を建設、整地作業を行なった。

 現状、側面を守る『箱船』はない。

 が。

「こっちの方が見晴らしいいよね」と、子供たちは暢気だ。

 まあ、制空権は取ってるからいいけど。

「見晴らしがいいってことは、どこからでも狙われるということだからな。気を抜くんじゃないぞ」

 いつの間にかパトリツィアさんが子供たちの指南役に収まっていた。

 僕もラーラも現状かまってやれないから、丁度よかった。

 寝る前にしている『闇の魔石』への魔力注入作業のおかげか、子供たちの魔力コントロールが著しく成長していた。

 おかげで無駄な魔力放出が抑えられ、仕事効率がさらに上がる結果となった。

「限界を超えたぜ」

『ちびっ子穴熊軍団』の誕生であった。

 タロスに負けない巨大地下建造物をこの地に築きそうな勢いだった。

 ただガーディアンに乗ったままでの作業なので、当人たちが納得する出来とはいかなかったが、パラメーターの単位は巨人サイズなので問題はなかった。

 味方は侵攻の遅れを取り戻す勢いで、螺旋状の勾配に沿って穴を次々攻略していくのであった。

 一方、もはや総崩れ状態のタロス陣営は引き籠もり戦術を捨て、大きく後退したのであった。

 そして、味方の被害もお構いなしに、こちらの足元を崩していく作戦に出たのである。

 包囲網を一気に狭める快進撃を見せていた我々だったが、ここに来て後退を余儀なくされた。

 縦坑はその直径を当初の二倍程に膨らませ、こちらの整地作業を台なしにしたのであった。

 が、味方を大量に犠牲にしたタロスにもはや求心力はなかった。

 爺ちゃんたちの船を先頭に穴の深部に向けて、斥候部隊が派遣された。



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