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着々と、英雄ご一行様

「さすがに早いな」

 夜明けもそろそろという時間。みんな、おかしなテンションになっているが、物は完成した。

 いよいよ明日、否、もう今日になってしまったが、少し休んでから試験飛行である。

 色々直す所が出てくるだろうが、この面子ならどうにでも……

「魔力、ドカ食いするだろうな」

「フィルター機能をフルで使うのは戦闘時ぐらいなものだよ」

「反応炉も積めたらよかったんだがな」

「さすがにね」

「……」

 爺ちゃん二人組はほんとにどうしようもない。

 ここまでばらしたんなら、ホバーシップにしちゃえばよかったんだ。

 こっちの世界には空中戦を任せるガーディアンが山程あるんだから。

 でも高い所を悠々自適に飛ぶっていうのは…… ロマンだからなぁ。

『ダイフク』に搭載できる飛空艇を持つのもいいかもしれない。

「夢は目を瞑って見るものなのです」

 大きな欠伸をする婆ちゃん。

「よく寝たのです。船のなかの装備はもう使って大丈夫ですか? コーヒーが飲みたいのです」

 まさか。ひとりだけ、安眠貪ってたのか!

「ほら、リオっちも目を覚ますのです」

 誰がリオっちだ。

 大体、目を覚ますも何も寝てないからな。

「ピオトとヘモジを迎えに行く時間なのです」

「僕はいいだろう。脱出用の転移結晶は持たせてあるんだから」

「誰も迎えに行かなかったら、かわいそうなのです」

「行くなとは言ってない。僕は置いて行けと言ってるんだ」

「どうせなら最下層で待つのです。待ってる間に『ブルードラゴン』と遭遇するかもしれないのです!」

 婆ちゃん…… あんたって人は……

「爺ちゃん、誘え」

「エルリンはこっちの迷宮、走破してないから無理なのです。だから、コーヒー飲んで、早く行くのです!」



 日の出前、最下層の出口から逆走して『ブルードラゴン』を探す探索に出掛けた。

「『ブルードラゴン』だって、こんな朝早く出歩かないって」

 予想は見事に的中、出口を出たすぐ側でそいつは眠っていた。

 深く入り組んだ地形の窪地。直線距離は近いが、辿り着くのは健脚なくして不可能な地形。

「こんな所に寝床があったのかぁ……」

「婆ちゃんを舐めるな、なのです」

 一般人はこんな所に絶対来ないからな。

 飛ばれないように窪地に蓋をしたら、後は婆ちゃん任せ。


「解体屋もこんな朝早くから、迷惑だろうに」

 気の毒に思いながらも転送する。

 こちらの事情は察してくれるだろう。あとで強壮薬でも差し入れしておこうか。

 眠い。

 最下層の転送部屋で待つ間、眠る。


「ナナーナ」

 頭を叩かれ目を覚ます。

「ヘモジか……」

 ヘモジ兄がこちらを覗き込んでいた。

「おはようございます」

 ピオトさん!

 僕は立ち上がった。

「あれ? 婆ちゃんは?」

「ナナナ」

「反応はあるけど」

 指差された方角は。

「婆ちゃん、帰るぞーッ」

 フロア出口で叫ぶ。

 すると婆ちゃんが帰ってきた。

「急いでくるのです! 大発見なのです」

「なんだ?」

 僕たちは付いて行く。


「……」

 ドラゴンが頭を内側に寄せ集めて円陣を組んで寝ていた。その数…… 八体。

 この辺りにいるのはニュービーではない。見付けても普通の冒険者は手を出さないだろうに。

「最前線で肉祭りでもするつもりなんじゃ」

 ピオトさんの疑念に僕は青ざめる。

「ヒューヒュー……」

 婆ちゃんが突然素知らぬふり…… 嘘が下手だねぇ。

「早く回収するのです」

「いや、まず倒さないと」

「世界最大級の肉祭りになるね。僕は下がってるから」

 ピオトさんは常識人らしく、逃げを打った。戦闘用の装備も着てないし、正しい判断である。

「前線の半数は獣人族だから、肉はいくらあってもかまわないけど。馬鹿騒ぎで戦う前に前線が崩壊しそうだ」

「ナナーナ」

 ヘモジ兄も参加してくれるそうだが、召喚主がいないんだから、魔力消費には気を付けるように。

「では行くのです」

 婆ちゃんは霞のように姿を消した。

 僕の耳でさえ、足音は捕捉できない。微かな空気の揺らぎが見えるが、それは通り過ぎた残影に過ぎず、そこを狙っても何もない。その影も次の瞬間には消えてしまう。

 風鳴りだけが数回。

 敵のど真ん中。頭を寄せ合って寝ていたその目と鼻の先に婆ちゃんは姿を現わした。

「新必殺『無双・獅子爪・忍び足一閃』」

 双剣を鞘にカチンと戻す。

 ドラゴンの魔力反応がポトポトと消えていったが、景色は何も変わらない。

「長い」

 技名、長いよ。多分、明日には忘れていることだろう。

 それにしても……切り落としたはずの首が胴に張り付いて落ちてこないとは…… 斬られた方も斬られたことに気付いていないのではと思えるほど、切れ味が恐ろしかった。

 ここまで綺麗な切り口ならドラゴンの回復能力で、くっ付き再生されるケースもあるかもしれないと勘繰ってしまうが、空間ごと断絶している以上、どうやっても繋ぎ合わせようがない。

 婆ちゃんの敵はもうエンシェント・ドラゴンぐらいしかいないかも。

「タロスのボスは婆ちゃんが仕留めるのです」

 五十年間牙を磨いてきたのは婆ちゃんも同じであると言いたいようであるが、亜空に入り込めるわけではないのだから迎撃にしか使えない。

 そうなるとやはり爺ちゃんに分があるわけだが、同じ構図は僕とラーラにも言えた。

「ナナーナ」

 出番がなくなったと、ヘモジは僕の肩に腰を下ろした。

「ドラゴンをこの距離から闇討ちできる冒険者なんて、婆ちゃんぐらいだ」



 帰宅したら、がっつり肉料理が待ち構えていた。

 もう一日分、働いた気分だ。

「ナナーナ」

「ナーナンナ」

 ヘモジ同士、両手を広げて大袈裟に抱き合った。

 ピオトさんもピノさんたちと合流を無事果たした。

 ヘモジは早速に兄を自分の畑に誘っていった。

「僕は寝る」

 子供たちの本日の予定は、誰か代わってくれるだろう。



 寝床に入って、気付いたらもう昼を回っていた。

「やばいッ」

 食堂に急いで戻ったら、本日二度目の食事時だった。

 子供たちは婆ちゃんとナガレと一緒にエルーダ迷宮の方に行っているようで、お昼は彼の食堂で取るらしい。

 爺ちゃんたちは既に再稼働していて、船の内装を改装する作業に入っていた。

「午後から飛ぶぞ」

「もう?」

「今のうちに飛んでおかないと、他の作業が行き詰まるからね」

「りょうかーい」



 塗装もしてないハリボテ飛空艇。

 まずは浮力の調整から。これをまずゼロに設定するところから始める。

 まずは基準設定。

 これまでは船体重量と気嚢が有する浮力との均衡を以て成り立っていた関係だったが、これからは違う。機体重量と気嚢が持つ浮力プラス追加した『浮遊魔法陣』の浮力のバランスで、拮抗させなければならなくなった。

 もはや装置が壊れても浮いていられる安全な船ではなくなったのだ。魔力切れがイコール墜落ということになる。

 問題はフィルターなしの状態で全『浮遊魔法陣』の稼働率を何割程度に抑えられるかである。

「アンカー解除」

 船は浮かび上がらない。これまでとは明らかな差異だ。

「『浮遊魔法陣』作動。一番から」

 元々ある飛空艇用の『浮遊魔法陣』二基を加えての四基体制。様子を見ながら順番に上げていく。

 新しく積み込んだコアはさすがに出力が大きい。

 新規で設けたそれをメインにした方が操船はし易いという判断で『メインの一番』と呼称することに。これまでの魔法陣はサブに格下げである。いずれ自動で連動する様に調整されるであろうが、それまでこの船に活躍の場があるかどうか。

 メイン出力九割で船体重量と拮抗した。船倉に物資が満載状態なので、空荷なら六、七割程度の安全圏に入るのだろうが。

 ここから出力を残りの魔法陣に散らしていく。

 操船に一番影響を与えるだろうフィルター付きの魔法陣をなるべく温存しながらの調整である。サブを三割ずつ稼働して、メインを六割に調整できたところで、ここを基準とすることにパイロット全員の賛同を以て決定した。

 そしてここで機体の水平を保つためのバラスト調整を行なうことに。

「荷物を全部下ろしてやりたいところだけど」

 既にすべての荷物は固定金具で固定されている。爺ちゃんの魔法で回収してしまえばいいということにはならないので、今回はこれで妥協だ。

「後は飛びながら調整する」

 船に余計な荷重が掛からないように動いている状態で調整をしていく。「六、三、三、〇」の小数点の調整をアナログ的に決めていくのだ。


「うへー、小回りが死んでる」

 この船のメイン操縦士であるテトさんのファーストインプレッション。

「機体がちょっと上向いてるよね」

 バラストで調整せずにサブの出力を調整して、これまでの姿勢を再現してみせた。

 スピードは鈍亀状態だけど、なんとか安定は確保した模様。

 船はこの状態のまま防壁の外に向かった。

 その間も、調整に余念がない。機体の首を振ったり、高度を一気に上げ下げしてみたり。

 サブは機体制御用と割り切るコンセンサスが操縦士間で段々でき上がってきた。そして、サブの魔法陣には触れなくなっていった。

 ちょうど防壁を越えた辺りから、いよいよケバブサンドの魔法陣を起動させる。

 徐々に上げていく段階で、皆、驚きの声を上げた。

 あれほど重かった機体が、まさに風のよう。以前に増して、操りやすくなったとのこと。

「こりゃ、凄い」

 テトさんは縦横無尽に船を操った。さもドラゴンと追いかけっこをするかのように。

「片手で全部の出力調整したい」

 スロットルバーをもっと揃えて欲しいとのこと。現在は仮状態なので、スロットルは取って付けたような状態なので一度に全部の出力操作はできなかった。

 爺ちゃんが急いでスロットルバーを並列に配置した物を拵えた。

 手作り感満載だな。

 魔導ケーブルを引っ張り出して、操船中にもかかわらず差し替えていく。

 そしてボックスを固定。

 そこからはテトさんの妙技の披露となった。

 船体を大きく傾けながらの急旋回。遠心力が半端ない。軋む船体。

 いつの間にか船体の負荷実験に移行していた。

 そしてパイロットの交代。基本操作に慣れるまでの間を利用して、全員で船外活動。

 機体の異常を見付けるために走り回る。

 一番懸念していたのは中央の新規コアとの接続部、いちばん力の集中する箇所だ。

 ラダー等は異常なし。さすが爺ちゃんたちの船だ。



一年間、ご愛読ありがとうございました。

良いお年を。

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― 新着の感想 ―
[一言] リオナさん親玉ぶった斬るおつもりみたいやけど エンシェントドラゴン出てきたりせんよね? まあ自分で斬れないとわかると旦那に 極上肉祭りなのです!とかって無茶振りしそうやけど。 で、振られた無…
[一言] 今年一年楽しく読ませていただきました。 よいお年を!。
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