新調するも
子供たちは夕飯を済ませて居間で騒いでいた。
「お帰りなさーい」
「どこ行ってたの?」
「お婆ちゃん、お見送りしてきただけじゃないの?」
「一人だけ楽しんできたんだ」
「ズルい」
「ナナナ」
「お帰りー」
ヘモジもオリエッタも下りてきた。
「詳しい話は後だ。荷物を下ろさせてくれ」
ということで、食堂に集合。そこで僕は本日の成果を語った。
「えーっ!」
「ほんとに?」
「ほんとに、ほんと?」
「一週間後だ」
「三機じゃなくて、一人一機なの?」
「あ」
ラーラの言葉に、僕はとんでもない大ポカをしたことに気付いた。『ダイフク』の操船がある以上、全員が一斉に出撃することはない。バックアップを考えても四機もあれば事足りたのだ。今までだって三機で充分回せていた。
一度口から出た言葉は今更変えられない。
子供たちの眩しい笑顔を見てしまったら……
子供たちは早速カラーリングをどうするか、考え始めた。すべて統一するのか、ワンポイントだけ変えるのか、完全に個人の趣向に委ねるのか。
結果「統一感は欲しいよね」ということで『零式』に準拠した白を基調にしたカラーリングを採用することにした。
そして固体認証のためと愛着を持つためにワンポイントだけ好きにしていいことにした。
自ら制限を設けたのは、他の冒険者が大概そうしていることもあるが、互換性とメンテナンスのことを考えてのことらしい。結界も使えるし、実力的に早々壊すようなことはないと思うのだが、パッチワークのような模様になってしまうことを危惧した。
モナさんや僕のように趣味の延長線ではないのだから、そういうものなのかもしれない。
その分、操縦席周りはモナさんの怒りを買わない範囲で、好きにしていいことにしたら、乗り間違えない程度には個性が現われた。
装備やオプション設定だけでも個性は出ると思っていたけれど、中々どうして。
まず共通している点は白を基調にしていること。それだけでは足りないのでチームを象徴する共通のエンブレムを全会一致で採用した。
それは神樹を模した金色のエンブレムだ。白地に映えるいいデザインである。
それを全機、左肩に設けた。
好きにしていい個別認証用の方は右肩に付けることに。
まずトーニオ機。機体には指揮官機として角を生やして貰うことにした。『銀団』で採用されている基本コンセプトなので準ずることにした。
それ以外は汎用のまま。「何がいいのかまだわからないから」だそうだが、その分操縦席周りはこだわった。シートは茶の革張り。冷暖房完備である。
当人希望のワンポイントは自分の杖を模した杖のマーク。トレントの杖はそれ自体個別に進化するので仲間内なら誰の杖か大体わかる。カラーは深緑。
武装はアサルトライフルと汎用ブレード。予備の弾倉パックは多めであった。
みんなの感想は「地味」である。
ジョバンニの機体は『補助推進装置』を短長短径の物に変更して速度より機動性を上げてきた。
エンブレムは伝説の不死鳥。カラーリングは単色の赤。
武装はアサルトとロングソード。
みんなの感想は「ふーん。なんか普通」である。
フィオリーナの機体は完全支援機仕様。遠距離特化型でカラリングはトーニオと同様に杖の模様を採用した。色は暖かい橙色。
結界装置に近距離機がよく使うブースターユニットをなぜか採用。味方のピンチには突貫する気満々か。
武装はアサルトのなかでもロングレンジ寄りの物を新調。近接はまったく使う気がないので汎用ブレードそのままである。
シートはおしゃれに革張りの灰黄色を採用したが、汚れが目立つと今から後悔している。
みんなの感想は「…… 悩む」である。
ニコレッタ機も無理に特化する気はないようで、臨機応変に使えれば、その方がいいじゃん的仕様。エンブレムはこちらもトレントの杖を模したものを採用。ただし、カラーは砂漠と青空を表わしたという砂色と青の二色刷りである。光と影のコントラストがうまく表現されていた。
こちらもジョバンニと同じ『補助推進装置』を採用。機体パラメーターも特化する気はないと言いながら前衛的である。
武装はアサルトと『ホルン』専用の細身のソード。
どうしてもと強請られたので新調することにした。完成までは僕の予備を使って貰うことに。
内装は気が削がれるのは嫌だからと言って、無骨なまま大きくはいじらなかった。グリップの径なんかはとことんこだわっていたが。シートの色は購入時に指定できたのでエンブレムに合わせて砂色を採用したら灰黄色と余り変わらなかった。起毛なので肌触りはよいが、砂漠ではお尻が蒸れそう。メーカー推奨なので、お値段、若干こちらがお安め。
みんなの感想は「意外におしゃれだ」「なんか違う」だった。
ヴィートの機体は何も言うことがない。汎用そのまま。理由はトーニオと同様で、まず乗り熟してからということらしい。シートはどの道、新調しなければならなかったので青と茶色のバリエーションをチョイス。みんなに変な配色だと言われたが、当人は満足していた。
これが見慣れるに連れて、かっこよく見えてくるから不思議である。
そして採用した武装はアサルトライフルとロングソード。
エンブレムは杖とロングソードを交差させたデザイン。色はダークブルー。意外に渋い選択。
みんなの感想。「生意気」「らしくない」
ニコロとミケーレは斥候任務が多くなると踏んで『補助推進装置』は標準タイプを採用した。武装もロングレンジライフルに汎用ブレード装備となった。
コアのパラメーターを自分たちでいじったぐらいでシートも新しく新調せず、今まで使っていた物をそのまま流用していた。
エンブレムは目立っては駄目だからとふたり揃って砂色の杖模様。チームのエンブレムも反射を軽減する加工を施そうとしたが「機体が白なのに」と、友の言葉に諦めた。
魔法使え、魔法。
みんなの感想。「もっと自己主張しようよ」だった。
マリーとカテリーナはニコロとミケーレとは真逆で「よくわかんない」という理由で、標準仕様にとどまった。不都合が出てきた段階で要相談である。
装備もアサルトに汎用ブレード。
個別認証ももう杖でいいやとなった。色はふたり揃ってピンク色。
その分、内装には力を注いだようで実に子供らしい、ファンシーな造りとなった。
これだよ、これ。子供らしいとはこういうことなんだよ。シートは淡いピンク色。熊のお人形さんに、花柄ステッチ、ひまわり座布団敷いて、スリッパもヒラヒラ。スケルトンに…… ゾンビ…… キメラみたいな変な人形…… フェルト生地の錬金釜?
「魔法使いっぽいでしょ」
や、病んでる……
「飛んだら、全部ふっとんでっちゃうよ」と、みんなでやんわり回避。お披露目早々、変更を余儀なくされた。
よかった。
結界があれば風圧の問題はないんだが、空気を読んで誰も指摘しなかった。
結果、無骨な基本デザインを完全に隠すこと叶わず、中途半端な物になった。
こちらも徐々に修正が必要そうである。
メインボードの縁に「頑張って」と応援する可愛らしい角兎の銀細工を見て、モナさんも苦笑いだ。
みんなの感想。「なんか不安になった」
斯くして全機出揃ったのは工房に発注書を届けてから、さらに一週間後のこと。
そしてその後の一週間は僕たちがペンキにまみれることに。
颯爽と『ダイフク』の格納庫に収まっているそれを見上げるラーラ。
「『箱船』じゃないんだから」
最終的にはここに僕やラーラの機体も並ぶことになる。
「急に大所帯になった気がしてきたな」
「気のせいだから」
ラーラも先日、二日掛けて里帰りを済ませてきた。
碌な思い出はないと言っても、親は健在であるし…… どんな別れをしてきたのだろうかと察する。
「いや、生きて帰るんだから別れじゃないな」
僕は呟く。
「子供たちに負けずにわたしも傾いて見ようかな」
「……」
子供たちは別に傾いているわけじゃないんだけど。
「あのエンブレムいいわね」
「神樹の?」
「わたしの機体にも付けるわよ」
「ご自由にどうぞ」
僕はもう付けた。
「あ」
「何?」
「何でもない」
ジョバンニとヴィートの機体も個体認証のエンブレムをいつの間にか杖に変更していた。




