模擬戦は過酷だ?
よし。もう犠牲覚悟で行くしかない。
替えのパーツも決戦前で出回ってないけど。工房のストックもあるにはあるけど。
「頼むから壊さないでくれよ」
心の中で願いながら、入り江から出て行く機体を見送った。
進路確保のため、子供たちの三機と『ワルキューレ』が行く。
機体に何かあったときのことを考え、念のため『ダイフク』も出すことにした。涼しい場所で休憩もできるし、観戦も楽だ。
因みに我が『ギャラルホルン』は格納庫の奥に眠っている。
婆ちゃんの目がなるべく届かない場所に移動させておいたが…… 婆ちゃんの嗅覚からは逃れられまい。
他の機体より頑丈にできている自負はある。盾もあるし。そのときが来ても被害は少なく済むと信じたい……
模擬戦は五分間。三機の『グリフォーネ』を相手に勝敗が付くまで行なう。延長戦はない。使える模擬弾の数は双方二百発。散弾はなし。武器選択は自由であるが、撃ちきった時点で負けとする。
ゼロになる前に近接戦に切り替えるのはありとするが、逃げ回るだけなら失格とする。
審判を務めるオリエッタの主観を尊重すること。
撃破した場合、クリアタイムがよかった者から順位付けることとする。された場合も同様である。
先導されながら、いつものルートで砂漠に出る。
婆ちゃんが船内で色々うるさい。『ダイフク』の内装が珍しいようで、ガーディアンそっちのけで飛び回っていた。特にソナーシステムを見てからは盤面の絵面の更新を急かされた。
婆ちゃんには自称、世界最高の探知能力があるでしょうに。
防壁を越えた所で、甲板に下りてくる四機を大きなガラス越しに出迎える。
「進路そのまま。全速前進」
「ヨーソロー」
「凄いのです」
「この船は最高なのです!」
爺ちゃんたちの飛空艇も悪くないけど、根本的に大きさが違う。
「本番のときもこっちに乗るのです」
駄目だろ、そりゃ。
「一番機、異常なし」
「二番機も問題なーし」
「三番機、ちょっと吹けが悪い気がする」
子供たちが戻ってきた。
「ちょっと見てくる」
ミケーレとニコロが格納庫に飛んでいった。
「もう少し行ったら始めるぞ」
全員、ソファーの所に集まった。
「さあ。順番確認するわよ」
「婆ちゃんは最後だ。壊すからな」
「なんでですか!」
理由は言いました。
子供たちの機体は複座式だが、本日は公平を期すため、搭乗は一名とする。
一回戦はフィオリーナが『ワルキューレ』 トーニオ、ヴィート、マリーが『グリフォーネ』である。
『ワルキューレ』の操縦はいきなりは無理なので、希望者はヘモジ指導の下、十分間のレクチャーが行なわれる。
十分後『グリフォーネ』三機が『ワルキューレ』と合流する。
それぞれの機体は船の船首上空を回り始める。
開始の合図は船から行なう。
空に向けて空砲一発放たれた。
一気に散開した!
船の周りを左右分かれて一周し、再び船首で交差した瞬間から、戦闘開始である。
交錯するとき、どちらが前に出るか。
高度はどうするか。
フォーメーションは?
フィオリーナは船体に隠れるのをやめて、高度を上げていった。
そして上空から三機の配置を視認する。
機体性能が高いからフィオリーナが前を取ると確信して突撃する猟犬三機は彼女の動きに気付かない。
まだ交差していない。
「三…… 二…… 一……」
最初に船首を抜けたのは男子ふたりだった。
フィオリーナは高度を生かした突撃で、その後ろに割り込んだ。
初撃でマリーが狙われた。
マリーはまだ船首を通過していなかったので、反撃できなかった。
急降下、砂塵を巻き上げながら地面スレスレを飛んで、フィオリーナの猛攻を突破した。
上から押さえ込むようにトーニオの乗る一番機がようやく……
速度が乗っていた分、転進に時間が掛かっていた。
フィオリーナはロールして背を腹にして、下から上空を撃ち抜いた。
いきなり機体の性能差が出た。
ボードに乗った機体は慣性力を利用しなければ背を腹にして仰向けに飛ぶことなどできない。
一番機は盾を撃ち抜かれて脱落した。
くしくも言い出しっぺのヴィートと、彼に土を付けたマリーが残った。ふたりの手腕はいかに?
「見失ってるな」
トーニオとの戦闘に夢中で、二人の位置を見失っているように見えた。
案の定、奇襲に近い動きは最初だけで、苦手に不慣れが重なってあっという間に模擬弾の犠牲になっていた。
撃墜マークはマリーに付いた。
「フィオリーナにしては善戦したわね」と、ニコレッタはそれでも親友の善戦に拍手した。
撃墜一機。タイムはジャスト二分だった。
マリーにも別口にスコアが加算される。
猟犬サイドの撃墜マークにはチョコレートケーキが賭けられているらしい。
出資者は目の前で歓喜している婆ちゃんであった。
ほんと、イベントを盛り上げる才能は天才的だね。
二回戦は落とされたばかりのトーニオが『ワルキューレ』に。ジョバンニ、ニコロ、カテリーナが猟犬である。
「猟犬に差がある気がする」とは、負けたばかりのフィオリーナの言葉。彼女のライフルの残弾はほとんど残っていた。
ヴィートとマリーの手腕に関してはあっさり片が付いてしまったため、保留である。
交戦開始と共に、ジョバンニが接近戦を挑む。
「やっぱり慣れだな」
慣れない機体では性能以前に反応が鈍くなる。二人の年長組対決も見たかったが、ここはトーニオが引き下がるしかなかった。
そこへニコロとカテリーナが無駄玉を大量に浴びせ掛けた。
トーニオは当たらない。
普段、船の操船ばかりでガーディアンに乗せてやれなかったが、中々どうして。
カテリーナが被弾した。
三発食らったところで展望室から見ていたオリエッタが撃墜を宣言した。
「ナーナ」
ヘモジも賛同するように頷いた。
ジョバンニが再び急接近を仕掛ける。
今度は落ち着いて対処するトーニオ。敵機を軸に旋回、上を取りつつ、銃弾の雨を降らせた。
が、さらに外側上方からニコロが仕掛けた。
『ワルキューレ』の上昇性能を生かしたいところだったが、しょうがない。
間に合わせたニコロを褒めるべきだ。
ジョバンニも一気に距離を詰めた。
必死に抵抗するもどちらの弾かわからない、複数の弾を浴びてトーニオは撃墜された。
ニコロが二発、ジョバンニも一発被弾していたが、撃墜判定は付かなかった。
模擬弾の色判定でとどめの一撃はニコロのものだったことが判明した。
「楽しそうなのです」
婆ちゃんは『グリフォーネ』には乗らせないので出番はない。
三回戦はニコレッタが『ワルキューレ』に。トーニオ、ミケーレ、フィオリーナが『グリフォーネ』である。
トーニオは本日既に三回目である。フィオリーナも二回目だ。戦い慣れつつあるふたりとパーティーのポイントゲッターであるニコレッタの勝負である。
スタートから仕掛けたのはニコレッタだった。いきなりの発砲。トーニオを牽制しながら、ミケーレに接近、ブレードを突き立てた。刃はふにゃふにゃ、引っ込む構造なので機体に損傷はないが、ここでミケーレは退場した。
「容赦ないな」
フィオリーナが援護の雨を降らせるが、間に合わず。次の標的にされた。
うまく躱すも、機体の性能差が。
「順応が早いな」
距離を取ろうとするフィオリーナを追い掛けての撃ち合い。
「!」
横手からトーニオ。
「ナイスタイミング!」
ニコレッタが被弾した。
撃墜のコールはなかった。
距離を取っての三竦み。
全員が被弾しまくるが、決定打にならず。
実戦なら機体に異常が出るところだが、そこまで縛る気はない。
大いに楽しみ、切磋琢磨せよ。
たまらず逃げるニコレッタ。船を盾に、隙を窺う。
弾数を気にしたか。
船は今回、どちらの勢力にも組みしないので結界を掛けた石コロ扱いである。
そして五分が経過した。
四回戦。『ワルキューレ』に搭乗するのはジョバンニである。
シートの変更をしなければならないので、まず年長組からということになっていた。これが済んだら子供たちは一旦、休憩である。
『グリフォーネ』にはニコレッタ、ヴィート、カテリーナが搭乗する。
通常、女性チーム専用機の三番機を使用するニコレッタだが、人数の関係で本日は一番機に搭乗する。
マッチアップは開始早々、ヴィートになった。
ここはニコレッタが最適だと思うのだが、大人の配慮が働いた模様。
「ナナナ」
いいのは逃げ足だけだ。
ヴィートは言うだけあって、反応は悪くなかった。が、攻め方は単調だった。あれなら逃げる方は御し易かろう。
「お、行った!」
曲者が仕掛ける。
ニコレッタが二人の間に割り込んだ。
「入った!」
数発が命中した。
展望台からの反応はなし。
決定打にはならなかったか。
「今のを躱されたんじゃ、長期戦かな」
しかし戦いは誰もが予想しなかったタイミングで終了した。
「撃破、確認!」
オリエッタの声が伝声管から届いた。
勝者はカテリーナであった。
ロングレンジからの一撃である。
ピクルスとマリーがガッツポーズ。
どうやら三人で企んでいたようだ。
カテリーナの機体はスタートした時からほとんど動かず、船の船首甲板の上で虎視眈々と狙っていたのだ。
他の子供たちはぽかんとしていた。
撃たれたジョバンニでさえどこから撃たれたのか、しばらく理解できていなかった。
釈然としない顔をしたまま甲板に下りてくる。
そのジョバンニに機体を格納庫に入れるよう指示を出した。
そして子供たちは休憩タイムに入るのであった。
僕は年少組用の専用シートを『ワルキューレ』に設置しなければならないので、格納庫に向かった。




