クーの迷宮(地下 50階 ドラゴン戦)サービスしてみた
まだかまだかと回収が終るのを待ち続けて、ようやくかと思ったら……
「休憩タイムだ!」
然もあらん。激戦の後である。
もう待てない。
「あッ、ヘモジ!」
ヘモジが大手を振って駆け出した。
僕は挨拶すべきか、まだ躊躇していた。
恐らく見知った者もいるだろうが、和気藹々としているなかに部外者が行くのは憚られた。
だが、そこはヘモジの特性。妙なカリスマと愛らしさで乗り切り戻ってきた。
「ナナナナ、ナーナンナ」
短い指で彼らの行き先を、それから僕たちが進むべきルートを指し示した。
「『ブルードラゴン』をいきなり狙うのか?」
今日中に辿り着けるのかね。このペースだとちょっと不安だな。
『カースドラゴン』の方ならルートを絞れば間に合いそうだけど……
「肉、目当てかな?」
「獣人いるしね」
さっきみたいに時間を掛けていては魔石の大きさには期待できない。
僕たちは追い抜くことにした。
顔を合わすのは、前言通り面倒なので、此度は手を振るだけにして、視界の届く先の地点に転移することにした。
お詫びと言ってはなんだが、こちらの戦い方も見ていくといい。
小規模の集団を狙った。と、言うより転移を探知された。
敵の一団と冒険者の中間に割り込んだので、間合いが若干足りなかったのだ。
でもこの丘の上なら一団からも臨めるだろう。
「補給しながら、見てるといい」
「のんびりやってたら、救援出されるかもね」
「ナナーナ」
敵は狡猾さが多少身に付いてきたレベルの『ファイアドラゴン』が四体。
僕たちは漫然と歩を進める。
ピクルスだけが宙に向かって弓を掲げた。
そして矢が放たれる。
「動いた!」
的より早く、駆け出すヘモジ。
僕はヘモジを狙ってくる一体を速攻で地面にねじ伏せた。
それを行き掛けの駄賃とばかり、叩きつぶしていくヘモジ。
そしてそいつを足場に跳ねた。
ピクルスの矢がさらに後方の一体に直撃する。隠し矢が見事に炸裂した。
追い打ちを掛けた矢が次々命中する。
「射速上がってないか?」
ヘモジを食い千切ろうと迫る一体の正面に、ヘモジはいた。最高到達点を狙われたようだ。
一瞬の閃光と共に雷鳴が轟いた。
直撃を受けた一体が硬直したまま地上に落ちてきた。
ヘモジの全体重を乗せた一撃が狙っている。
『地殻変動』顔負けの威力。大地ごと穿ってみせた。
「やり過ぎ」
オリエッタが私評を述べた。
ブレスを撃とうと身構えた矢先、最後の一体も時を同じく、ピクルスの矢にやられていた。
「この規模だともう出番がないな」
「出番があるサモナーはへっぽこな証拠」
「まあ、そりゃそうなんだけどね」
優秀な召喚獣が二人いるからといってサモナーになったつもりはないんだよ。
兎に角、あっという間の討伐であった。
ふたりにハイタッチを要求されたので、ハイタッチを返した。先のパーティーがやっていたから真似したかったらしい。
何故その単純な脳みそで、複雑な戦闘を易々とこなせるのか?
「楽しそうで何よりだ」
ふたりは魔石を回収するため、すぐ様、踵を返した。
「元気が有り余ってるな」
「待たされたからね」
僕たちの戦いがどう評価されたか、自分が活躍できなかった段階でもうどうでもいい気分になっていた。
「性格よく似てるよね」と、顎を頭に乗せられた。
活躍したふたりが魔石を抱えて、嬉々として戻ってきた。
「…… なるほど」
僕たちは先を進んだ。
その日の夕刻、地上に戻ると噂に尾ひれが付いて、それが一気に拡散されていた。
『ドラゴンの集団を瞬殺。ヘモジとヘモ子、大活躍』
「ヘモ子じゃないし!」
ピクルスはご立腹。
「ナナーナ」
ヘモジは鼻高々。
「四体だけだろ」
僕とオリエッタは…… 白けていた。
「地味な動きしか、しなかったからな」
「自分も見てただけだし」
せめてパーティー単位で評価して貰いたかった。
それにしても彼らはまだ探索を続けているはず…… 『ブルードラゴン』まで行けずに早仕舞いしたのかな?
僕たちは予定通りの量の魔石を確保して倉庫に向かう。が、いつも通りヘモジは畑に消えた。
僕は転送した魔石を定型に収める作業をひたすら繰り返す。
不備はないかとオリエッタは僕の手元をじっと見詰め続けた。
瞬きしような。怖いから。
ピクルスは何をしているのかというと、的を相手に弓の調整をしていた。
「楽しそう」
「好きなんだな」
本当に可愛らしい。
「婆ちゃん、来なかったな」
「さすがに連続では……」
「お灸据えられたかな」
「多分ね。プククッ」
言っちゃいけないことまで暴露してたから、当然だな。
家に帰ると子供たちがいなかった。
「おや?」
今日も砂漠か?
夫人も知らないという。
見付からないところを見ると街中にはいなさそうだ。やはり砂漠か。
納戸を覗くと、ボードもない。
が、そのときガーディアンの反応が。
入り江に向かってくるのがわかった。
あの音は……
「ただいまー」
子供たちが地下から戻ってきた。
「ガーディアン使ったのか?」
「今日はガーディアンの訓練したんだ」
「模擬弾全発、撃ち切ったからね」
「無駄撃ちしたってことでしょ。下手くそなんだから」
「下手って言うなよ。マリーたちの逃げ足が速過ぎるんだよ。なんでだよ、同じ機体なのに!」
そう言ったのは、二番機の搭乗者たちである。
「それを下手って言うのよ」
子供たちの所有する全機を使って模擬訓練をしていたらしい。
「『闇の魔石』もたまには使ってあげなくちゃいけないもんね」
『カースドラゴン』を立て続けに討伐したせいで、手元に大量の『闇の魔石』が残っていた。
寝る前に余った魔力を消費して魔力量を増やす試みも、まず空にしないことには始まらない。
「師匠の『ワルキューレ』今度、乗っていい?」
「まだ早いんじゃないか?」
「『グリフォーネ』 動きがもさいんだよ」
我が家の機体は『グリフォーネ』にしてはキビキビ動く方だと思うんだけど……
フライトシステム搭載の機体に乗りたいのかな、と思う。
やる気を削ぎたくはない…… が、どうしたものか。
彼らの稼ぎなら掛かるコストの問題はないが……
「ナーナ」
現在『ワルキューレ零式』はヘモジ用にチューニングしてあるから、逆進化して『スクルド』に近い仕様に落ち着いている。だったらオプション背負った『スクルド』の方が…… 当分、型落ちしないよな。
ここに来て新品は手に入らないだろうし……
「師匠ー。乗せてよー」
「ヘモジに聞け」
「ヘモジー」
「ナーナンナ!」
ヘモジも首を横に振る。
「実際、遅く感じるなら成長の証と見てもいいんだけど」
聞けばマリーとの追いかけっこに負けたからと言うし。それじゃ駄目だろってことで。むしろマリーに機体を用意しろって話だろう。
「師匠。俺、絶対速いから」
珍しく食い下がるヴィート。本人が納得するなら……
問題は誰の機体を使うかだが……
モナさんも含めて、どいつもこいつも個性的なんだよな。
汎用に最も近いのはイザベルの機体なんだけど…… 誰よりも大事に乗ってるから、傷なんか付けた日には。
「どっかに転がってないかな」
「今から頼んだら、いつ来る?」
タロスとの決戦が終れば、大型の魔物がほとんどいないこちらの世界では需要はなくなる。ほぼほぼ用なしになることは既定路線だ。
勿論、僕が失敗すればその限りではないが。
少なくとも今の保有数はいらなくなるはずなので、大量に売られることになるだろう。
冒険者なら荷運びや移動用に一体あればとも思うが、アールヴヘイムに帰る連中はコストを考えると置いていくことになるだろうから、買うならそのときがベストなんだが……
これから起こる最終決戦に合わせて使いたいんだよな。
「ヘモジ」
「ナ」
ヘモジは渋々頷いた。
パラメーターは過去の記録もあるので多少はいじれるだろう。
「飛んで見ろ」
「やった!」
ヴィートだけでなく、全員が参加することになった。
明日の攻略はお休みとなった。
今から工房に戻らないと……
翌朝、食堂に婆ちゃんがいた。
「……」
年寄りは早起きと言うが……
「今日は泊まっていくのです。全力で狩りをするのです」
「残念。今日は子供たちとガーディアンの操縦訓練をするので、迷宮はお預けです」
絶望するかと思いきや「ガーディアン!」と、目を輝かせた。
「お爺ちゃんが乗せてくれないのです」
「乗る度に大破させてたら、当然だろう」
結局、最後は肉弾戦だし。
「あれはヘモジが悪いのです」
兄の方のヘモジのことである。
「ドラゴン相手に正面から突撃していったです」
煽って一緒に突っ込んでいったら、同罪だろうに。
爺ちゃんの手が掛かってなかったら、とっくの昔に墓の中だ。僕は婆ちゃんの顔も知らなかったかもしれない。
「新しい機体に乗るのは初めてなのです」
「え?」
もう乗る気になってるの?
「ナナナナーナンナ」
危機感を抱いたヘモジは僕にも機体を出せと言ってきた。
僕の機体は完全に専用機で、操作の煩雑さは汎用以上だ。汎用機も扱えない婆ちゃんに……
ラーラ、機体貸して!
「あ」
目をそらされた。




