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クーの迷宮(地下 50階 ドラゴン戦)傍観する

 翌朝、食堂に下りた時にはふたりは消えていた。

 誰が最下層まで見送りしたのかと尋ねたら大伯母だった。早速、先日の強行軍が役に立ったわけだ。

 大伯母が珍しく、一足先に朝食を切り上げ、紅茶の香りを楽しんでいた。

「朝風呂サイコー」

 子供たちが湯気を上げながらゾロゾロ脱衣室から出てきた。

「昨日入れなかったから」

 そう言って身体を乾かし、テーブルに着いていく。

 どうやら朝風呂に入ることは昨日のうちに決めていたようだ。

「宿題やった?」

「…… あったっけ?」

「赤点取ったら怒るよ」

 ニコレッタが年少組に睨みを利かせる。

「大丈夫だよ。実技だから」

「ほんとかなぁ」

「国語の書き取りは?」

「!」

「後でノート見せて!」と、ニコロがミケーレに囁いた。

「俺も」と、ヴィートも泣きついた。

「あんたたちねぇ……」

 ニコレッタによるこめかみグリグリ攻撃。

「いだだだだだッ」

 ラーラは口数が減っていた。普段ならこんなとき、辛口の冗談の一つも入れてくるのに、それどころではない様子。

 色々、見たくない物を置いて行かれたようだ……

「要塞はあと何日で来る?」

 大伯母が口を開いた。

 ラーラは何も言わず、ほどけた書簡をテーブルにそっと投げてよこした。

 それが僕にも回ってきた。

 二週間切ってるのか……

 迷宮に潜ってる場合じゃないな。子供たちの引率日以外は遠征の準備をした方がいいか……

 ほとんどやることないんだけどな。

 そうなると前線に土産かな。となると、やっぱり魔石か?

「お前は迷宮に潜って仕事しろ」

 大伯母に見透かされた。

「元々そういう役割分担だからね」

 ラーラも同意する。

 ドラゴンの大き過ぎる魔石をちょうどいいサイズに加工もしなくちゃいけないし。

「結局、潜るしかないか」

「わたしたちはいいの?」

 マリーが聞いてきた。

「お前たちの修行は別だよ」

「よかった」

「エルーダは歯ごたえないんだよな」

「でもあれぐらいの方が気が楽だよ」

「舐めてると足元掬われるわよ」

 ラーラに釘を刺された。

 放課後どうするの話になって、そこから先は僕の与り知らぬ子供たちだけの世界なので、僕は僕の予定に注力することにした。

「今日もドラゴン退治か。どうやって倒すかな」

「ナナナ」

 接近戦?

「ばーん」

 範囲攻撃で一網打尽?

「ふたりにやらせりゃいいじゃん」

「!」

「!」

 オリエッタの意見にヘモジとピクルスが親指を立てて賛同した。

「何が『それでよし』だよ」

 僕自身がタロスの集中攻撃を回避して中枢に至らなければならないんだぞ。

 強力な護衛と転移魔法があれば、問題ないと思われるが、まさかの魔力不足状態。このままでは全力が出せない。装備の下駄もこれ以上は上げられないし、いよいよ禁断の付与魔術か。

「あー、アイシャさんがいるときに聞いておくんだったあ」

 正直使う機会がないから、おざなりの記憶しかないのだ。本を読んで記憶の劣化は防いでいるが、実技の方は……

「よし、今日は付与しまくるか」

「身体壊すなよ」

 弟子の馬鹿さ加減をよくわかっていらっしゃる。

 身体に負荷を掛けない方向でいこう。

 そうなると……

 なんにしても自分自身を魔法陣の範囲内に常に据えなければならないから足が止まるんだよな。

 並列処理も増えるし……

『必要は発明の母』というが、よく言ったものだ。

 ドラゴンを単身撃破したその時から、成長の余地など余り残されていないと勝手に思い込んでいた。

 今になって限界の先がやけに遠くにあることに気付くのであった。

 大伯母に鼻で笑われた。

 心読まれてるんじゃないか?

「それはない」とオリエッタ。

「ナナナ」

『単純だから』と、言いやがった。

 それぞれにそれぞれの役所がある。

 僕たちは立ち上がった。

「みんな気を付けるのよ」と、夫人のいつもの一言を軽く受け止め、飛び出していく子供たち。

『親の心、子知らず』と、横目で追いながら、棚に上げている自分の心根の狭さに息を呑む。

「アイシャさんがあんなこと言うから……」

 最後に見たのはいつの日か。僕を見送る母の姿が目に浮かんで、夫人と重なった。

「行ってきます」



「本日もドラゴンいじめ、行ってみようかぁ」

「先客だよ」

「え?」

 どこのパーティーだ?

 スタート地点に足跡だけが残っていた。

 僕より大きな足跡がゾロゾロと。

「重装だな……」

 凹みが大きな足跡も複数あった。

「大所帯みたい」

 前衛だけで十人はいるか?

「困ったな」

 レイドを組んでいるパーティーの横をソロの人間がチョロチョロしていたら、よく思われないだろう。寄生とか思われたら嫌だな。

「二股のどっちに行くかだよな」

「取り敢えず追い掛ける?」


 敵は狩り尽くされて、こちらへの襲撃はなかった。

 随分早朝から攻略が開始されている様だった。

 事前情報から開始時間を逆算したのか。

「まさか両方のルートを一日で走破しようと思っていたり……」

「いた」

 意外と浅い所でオリエッタが探知した。

「うわー、ひっちゃかだ」

 遙か前方。僕たちの存在が探知されないぐらいには離れた位置から様子を見遣る。

 空飛ぶ巨大蜥蜴のせいで空が暗い。

 ブレスの炎が交錯する。

「大丈夫なのかな?」

 他のパーティーがドラゴンと戦う姿を見る機会は意外に少ない。大概、ドラゴンが関わるときは救援とか共闘とかすることになるから。

 魔法の矢が飛び交う。

 銃の使用率は零。ちょっと悲しい。

 弾薬の補給を考えると、自作できる弓やボウガンに軍配が上がるのだろう。

 様々な属性効果が炸裂して、見ている分には楽しい。

「!」

 大技炸裂!

地殻振動(アースクエイク)』だ。

 地表にいたドラゴンが大地の亀裂と湧き出すマグマに飲み込まれた。

「あれ、回収どうなるんだ?」

「感心するとこ、そこじゃない」

「ナナーナ」

 効果や上級魔法を使った魔法使いに注目するところと、ヘモジにも突っ込まれた。

 それはそうなんだけど……

 あの『地殻振動』は定型術式によるものだ。それに使うなら他の属性の大技を使うべきところだ。それができないということは、偏った覚え方をしているということ。つまり二流だ。

 枯渇した魔力の回復に苦労していることだろう。レイドの利点を生かして、配給された万能薬を持ち寄り、集中使用しているのかも。

「婆ちゃんの煽りが効いたかな」

「酔った勢いじゃなきゃいいけど」

「帰ったら万能薬、作らにゃ。材料間に合うかな?」

「ナーナ」

 まかせとけと僕の足をパンパンと叩くヘモジ。

「頼りにしてる」


 乱戦は徐々に下火になっていった。

 彼らが分岐点に差し掛かるのはもう少し先になりそうだ。

 もうしばらく付き合わねばなるまい。彼らが進まなかった方に僕たちは行く。

「うひゃー」

 土壇場に来て尻尾による横殴り攻撃!

 パーティーが一気に吹き飛ばされるかと思いきや、盾持ちが尻尾の軌道を跳ね上げ、回避させた。

「凄いな」

 さすがに最下層まで来る盾持ちは尋常ではない。

「ナナーナ」

「そうだな」

 僕たちも同じことしてるけど。

 端から見るとああ見えるわけだ。

「たまには見学もいい経験になる」

「ナナーナ」

「クッキー欲しい」

「……」

 僕たちまだ何もしてないよね。


 自分が使わない、見たこともないスキルを度々見掛けてはいかなるものかと考察する。

「今のなんだ?」

「飛んだ」

「ナナーナ」

「『ステップ』?」

 大剣持ちが弧を描くことなく目標に一直線に跳ねた。跳躍したわけでないことは一目瞭然だった。

 ドラゴンの首を真っ二つに刎ねた。

 僕たちは思わず唸った。

 大剣一振りだ。

 八方から迫ってきた魔法の矢を避けきれずに直撃を受けた一体が地に落ちる。

 ピクルスの口が開いたまま塞がらない。

「今度は氷系だ」

 味方の落下に巻き込まれた一体が地上に落ちたところで翼を凍らされた。

 そこに鈍器が叩き込まれた。

 ドーンという轟音と共に舞い上がる土煙。

「ナナーナ」

 ヘモジも感心する一撃。

 魔法使いは結界を主体に防衛陣地を構築。弓兵はその中から基本援護攻撃。機を見て、盾持ちにガードされた攻撃部隊が出て、一気に首を狩る。それの繰り返し。

 こうなると最初の一撃が功を奏していることがわかる。

 地上に降りれば、あれが来るとなると、遠くからブレスを撃つか、低空を飛ぶしかない。落ちたら落ちたでまず地上から逃げ出そうとする。

 なまじ知恵が回るから。

 数の暴力を大人がやるとこうなるのかと、いい見本になった。

 そして僕の気を引いたのは味方陣営の足元に展開された付与魔法陣である。

 移動を制限することになるが、回復が早まる効果が付与されているから、魔法使いは安心して結界を張り続けられている。

 序盤は冷や汗ものだったろうけど。

「作戦勝ちだな」

 数が減ると、もう抗うことはできない。大量の弓と魔法に押し潰され落下するドラゴン。

「やっと前進か」



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