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これがほんとの肉祭りだぁあああ

投稿日間違いまみた。m(_ _)m

「そう言えば……」

 白亜のゲート前広場に降り立つと、砦中大騒ぎになっていた。

「敵襲か!」

「ナーナ」

「違う、あれ」

「あ。肉祭り…… 忘れてたよ」

 約束してたんだった。

 婆ちゃんたちは既に現地入りしていた。

 大伯母もアイシャさんも夫人も同行している模様。

 僕たちは急いで現地に向かった。

 出店の準備もしていない。アイシャさんが来たせいで、すっかり忘れていた。

 焦って到着したら準備は整っていた。

 昨日、夫人に「明日は祭りだ」と言っただろうか。話が通ってくれていて助かった。

「運んでくださったんですよ」

 夫人が視線を誘導する。

 その先にいる大伯母の目は刺すように痛かった。

 子供たちは準備に奔走した。既に始動に遅れている。周りはフライングして既に最高潮に達しているというのに。

「……」

 アイシャさんはテントの裏でジョッキを前に頭を抱えていた。

 住人たちはまだまだ集まってくる。どこにいたんだと言うぐらいに集まってくる。港も満杯だ。

 獣人族を舐めてたつもりはなかったが、これまでの最高記録だ。

 勿論、集まってくるのは獣人たちだけではない。スプレコーンで培ったルーティーンを思い出し、懐かしさに触発された者たちも大量である。

「お前たちが五十層に入った段階で、連絡しておいたんだ。こうなることはわかっていたからな。はっはっはっはっはー。さすがお嬢だわ」

 スプレコーンからの腐れ縁カトゥッロと『ビアンコ商会』の技術主任ベルモンドが肩を抱き合い高笑いする。

 同郷はわかるが、どういう組み合わせだ。

「今夜は泊まりだな」

 婆ちゃんはすっかり祭り上げられ、大勢に囲まれていた。

 付き添っているラーラもイザベルも大変そうだ。

「わたしは来た! 皆が里帰りできる日は近いのだ!」

 ワーッと大歓声が。

 それまだ言っちゃ駄目なんですけど……

「もはや勝利あるのみ!」

 どういう理屈かわからないけど、盛り上がっていた。

「付き合ったら負け」

 オリエッタの言うとおりだと理解する。

 ヘモジも黙ってピザ生地を捏ねる。

 ピクルスはキョロキョロ、チョロチョロしている間にお隣からパニーニを頂戴してきた。

 いつもすいません……

「窯の面倒見よっと……」

 トーニオと一緒に窯に火を入れる。

「お婆ちゃん、凄いね」

「人気者だろ?」

「はは…… 大変そう」

 核心を得ていた。さすがリーダー。

 ピューイとキュルルもやって来た。ミケーレとフィオリーナが召喚したのだ。

 攻略後なので、子供たちは自由にさせたのだが、自分の仕事を取られるのは嫌らしい。

 夫人は早々に食材の不足を予知して、お店に戻って食材を調達しに向かった。荷物持ちとしてアイシャさんが付き添った。

「元気ないな」

 うるさいことが嫌いなハイエルフだから、こういう場所が苦手なのはわかるが。

「やっぱり、姉さんのことかな」

「もういいよね」

 トーニオが窯の準備が整ったと言った。

「ようし、焼き始めるか」

「ボリュームミックスピザ二十皿、マルガリータ十皿入ったよ」

 生地が次々テーブルに並べられた。

「いきなりかよ!」

 それよりボリュームミックスとはいかなるものか? 僕は生地を覗き込んだ。

 兎や鳥、数種類の肉の中央に『ブルードラゴン』のサイコロステーキが載っていた。

「シーフード、入りまーす」

 本日はパスタがないので全員一丸となってピザの提供に専念する。

 子供たちはトッピングに大忙し。

 でも鉱石精製より楽だと言って、嬉々としていた。

「魔力込めなくていいからね」

「バジリコもっと頂戴」

 粉まみれで真っ白になったヘモジが駆けてった。ピクルスもその後を追い掛けた。

「ほんと兄弟みたい」

 子供たちは楽しそうに笑う。

 水洗いした瑞々しいバジルの葉っぱを抱えたふたりが戻ってきた。

「葉っぱちぎってくれる?」

「ナナナ」

「ふむ」

「地味だなぁ……」

 ドラゴンをも一撃で倒す召喚獣が……

「師匠」

「お」

 焼けた、焼けた。


 焼いても焼いても終わりが見えない。

 さすがに面白みも消え、苦痛を感じ始めた頃、胃袋も満たされた客たちはようやく暴食の手を休めた。

 ようやく夕飯に有り付ける。

「ピザ・アンド・ピザ……」

 と、大量の戦利品。

「串焼き」

「ケバブサンド」

「ハンバーガーもあるよ」

「スープが欲しい」

「干し肉晒すか?」

「いらなーい」

「ジュースは?」

「軒並みソールドアウト。水筒に入ってる分だけ」

「とっくに空だよ」

『追憶』からジュース樽を出す。非常用である。

「冷やすよ」

「いいよ」

「今、帰ったのです!」

 カウンターから婆ちゃんが戻ってきた。

「一杯欲しいのです」

 準備していた子供たちを押しのけ、最初の一杯目をうまそうに喉に流し込んだ。

「あーッ」

「ぷはーっ。おいしいのです」

 子供たちの痛い視線が集中した。

「お土産なのです」

 それは売り切れ前に確保していた炭酸水だった。その瓶を子供たちの数だけテーブルにどうだと言わんばかりに並べていった。

「これで割って飲むと最高なのです」

 あっという間に子供たちの心を掌握してしまった婆ちゃんに僕は呆然。

 でも唖然とした理由は別のところだ。

「どこから出した?」

 婆ちゃんにはヴィオネッティー家縁の収納スキルはないはず。まして獣人族の婆ちゃんには空間制御系の魔法は……

 アイシャさんと視線が合った。

 僕は黙ってアイシャさんの向かいに席を取った。

「最新の収納鞄だ。非売品だがな」

「爺ちゃんですか?」

「他にいるか?」

「婆ちゃんでも使えるって、魔力消費どうなってるんです?」

「まだ教えられん。革新的な技術だからな。世界の物流にも影響するかもしれん」

「なかったことに?」

「どうだろうな」

「元気ないですね」

「ん、そうか?」

「心配事でも?」

「……」

「姉さん、この街にいればよかったんですけど」

「いたらいたで、何を話せたか……」

 人とハイエルフの寿命の隙間に嵌った姉さんの苦悩。その人間的な思考を自分の娘が内包すると思い至らなかったことから生まれた確執と後悔。

「楽しくやってますよ」

「……」

「誰憚ることなく、誰よりも自分してます」

 僕の視線は暢気に笑っているハーフ獣人に視線が向いた。

 僕のためにただ一人、五十年越しの作戦に反対し続けてくれた強い人。中止できないと悟った六年前

、同志を募ってこの地にやって来た。

 そこに自分自身の逃避も含まれていたとしても僕の評価は変わらない。

 その証拠に個として立った今の彼女にその影はない。

 今、否以前から、彼女のそばには命懸けで共に戦ってくれる仲間がいる。

 僕も変わった。

「アイシャさんの気持ちは伝わってますよ。保証します」

「お前に保証されてもな」

「親不孝は僕も同じですからね」

「お前こそ、会いに行かないのか?」

「未練はあった方が、執着できる気がするんですよ」

「お前の方が重症か……」

「愛想笑いをするのは嫌ですからね。どうせなら本当に笑いたい」

「お前の出産には周りの大人たちも大勢関わっている。わたしもその一人だ」

「母も被害者だというのはわかりますよ。そもそも貴族の結婚はスキルありきですからね。でもだからって、僕が傀儡のように生きてただ死んだら、それこそ母さんは悲しむんじゃないかな」

 抗うしかないんだ。

「……」

「大丈夫。会いに行きますよ」

「……」

「恨みがてらに刺し違えるのもありかなと思っていた時期もありましたけど、やめました」

「お前に死なれたら、あいつに会わせる顔がない……」

 母も今のラーラのように幼い頃から爺ちゃんの家に出入りしていた口だ。アイシャさんにとっては娘も同じ。姉さんとは姉妹同然だ。

 僕が死んだら、作戦の執行を許可した大人たちは残りの人生をどんな気持ちで生きることになるか。

 ハイエルフであるアイシャさんはある意味、誰より深い業を背負うことになる……

 幼く鬱積していた頃はそれぐらい当然だと思いもしたが、ルカとその父が教えてくれた。

 僕は自分の足元を見詰めた。

 僕は僕の足で立っている……

「僕は死なないので」

 僕は立ち上がると窯に戻り、トーニオと場所を変わった。

「この炭酸水って、どうやって作るんですかね」

「水の中に強制的に空気を閉じ込めるらしい」

「水魔法と風魔法ですかね」

 空になった瓶で試すトーニオ。

「あ!」

 ぶしゃーっと口から吹き出した水鉄砲の直撃を受けたトーニオが濡れ鼠になった。

「アーッ」

「生地が濡れちゃうよ!」

「馬鹿ッ!」

「何してんのよ」

「結構、難しいかも」

 動じていないな。

 他の子供たちも雑巾で拭くよりも早く、すぐさま水気を飛ばして数秒前の世界を取り戻していた。

 それをアイシャさんが見て笑った。

「お前の弟子も中々じゃな」

 当分死ぬわけにはいかない理由、わかってくれます?

「お前にとっても孫弟子のようなものだ。可愛がってやるといい」

 ドンとテーブルにエールの入ったジョッキを叩き付けたのは大伯母だった。

「珍しいな。酔ってるのか?」

「今なら襲撃を受けても、お前がいるからな」

「どう見ても過剰じゃろう」

「だから飲め」

「酔いなんて万能薬でどうにでもなるだろうに」

 僕が呟くと「お前はピザを焼け」と、ふたりハモって叱責してきた。

「大師匠が二人になった」

 子供たちは目を丸くした。


「ラスト一枚」

「売り切ったー」

 後半参加してきた男子たちが一斉にダレた。

 女子に拍手されて、嬉しそう。

 婆ちゃんの方も終焉を迎えていた。

「時が来る。それは我々が五十年前諦めざるを得なかった命題への回答の時である。手段には言いたいこともあるだろう。でもこれが最初で最後のチャンスである。リリアーナはリオネッロを守るためにこの地に降り立った。お前たちもそうだ。祖母として今日までの皆の努力に心より感謝申し上げる。決戦には我らも参戦する。みんなでリオネッロを送り届けよう。皆の努力のおかげで計画より敵中枢に接近できた。あと一歩だ。この地を我らの手に取り戻すのだ」

 頑張って難しいこと言ってる……

「今日は付き合ってくれてありがとう」

「おーッ」

「みんなで世界を奪還するぞー」

「おーッ」

「奪還するぞ」

「おーッ」

「じゃあ、明日も飲むぞー」

「えーッ!」

「冗談なのです」

「嘘付けーッ」

 お決まりのボケが決まったところで、みんな笑顔で解散となった。

 昔からほんと煽るのがうまいよね。

 王家の血筋か、獅子族の血筋か、どっちが作用してるのかわからないけど。

 子供たちは「明日もやるの?」と、冗談なのか、本気なのか判断しかねていた。

 大虎はふたり揃って珍しく寝落ちしていた。

「婆ちゃんの一人勝ちだな」

 宴は終らない。

 逃げてきた婆ちゃんは夜の夜中だというのにキラキラ輝いていた。

「孫やひ孫と一緒は楽しいのです」

「ひ孫じゃないけどね」

 僕たちもみんなすっかり婆ちゃんに乗せられていた。深夜だというのにやる気に満ちあふれていた。

「明日出発してもいいくらいだね」

 幾万の星が瞬く。

「前線に一日掛からず着きそうだ」

 いつもならとっくに寝ているはずのオリエッタも目が冴えていた。

 いつも通りの、いつもと違う現実。

「さあ、明日も早い。帰って寝るとするか」

 踵を返したら婆ちゃんが言った。

「ちょっと知恵熱出たのです」

「…… 子供かよ」



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― 新着の感想 ―
[一言] アイシャさん大丈夫大丈夫 あなたの娘は立派に甥っ子相手に ジャイアンしてっから。 リオナさん真面目に語ると 熱出すってどんだけ(大爆笑) リオくん親子も何かあるんやね 終わるまでには伏線ちゃ…
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