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婆ちゃん VS ブルードラゴン

 ふたりがドラゴンに腰掛けて、僕たちが合流するのを待っていた。

「ナナーナ」

「足並みって言葉知ってる?」

「だから待ってたのです」

「魔石に変わるまでの待ち時間は変わらないんだからな」

「狩っても狩っても次がいるのです! ここは天国なのです」

「その割には不満タラタラみたいだけど」

「あいつら飛ぶのです!」

「そりゃ飛ぶだろう」

「『ブルードラゴン』はまだですか?」

「まだ」

「そろそろ会ってみたい」

「一番奥まで行かないと道もないぞ」

「……」

「天国なんだろう?」

「ナナーナ」

「あと十体も残ってないよ」

 最深部のエリアに足を踏み入れるため、立ち上がる二人。

 時を同じくして、尻の下にしていた骸が魔石に変わった。

 婆ちゃんとヘモジはなぜかドヤ顔だ。

「引き分けなのです」

 なんの勝負してるんだか。

 呆れるピクルス。

「付き合うなよ」

 頷くピクルスとオリエッタ。

 僕は石を拾って倉庫送りにした。


「また叫んでるよ……」

「楽しんでるならいいんじゃない?」

「下りてこい。卑怯者」と、大騒ぎであるが、当人たちは至って笑顔であった。

 大騒ぎを聞き付けたエリア内のドラゴンが一斉に群がり始め、さすがに捌けなくなって逃げ帰ってきた。

「馬鹿なのか?」

「寒いのです」

 あれだけブレスに晒されたら、直撃しなくても冷えるだろう。

「入れ食いだ」

 適当に撃っても当たるとピクルスは喜ぶが、敵の頑丈さと数に押されてる。

 先頭の一体を僕が地面に押しつけると、ヘモジが踵を返して、間髪入れずにとどめを刺した。

「!」

 先を越された婆ちゃんは、ヘモジに対抗心を燃やした。

「さっさと落とすのです!」

 えーっ。自分でやってよ。そのための銃でしょ。

「もう、馬鹿みたいに連れてくるから」

 結界に回す魔力だって余裕ないのに。さらに重力魔法を使えってか!

 魔弾で頭を射貫いてやった。

「あーッ。何するですか!」

「ナナーナ!」

「まとめて消してやる!」

「あー。駄目なのです」

「ナナナナナ!」

「ひどいのです! 老後の楽しみを取る孫は孫ではないのです」

 だったら孫の手を煩わせるんじゃないよ。

「ナナーナ」

「待つのです、ヘモジ!」

 ふたりは再び並び立った。

 敵は賢い。ふたりの間合いに入ってこない。

「届かない物は届かないのです……」

 もう目の前ブレスで真っ白だよ。

 代わる代わる撃ち込まれて、僕の魔力は絶体絶命。

 頼りになるのはピクルスだけだが、これだけ気流が乱されると……

 敵も古老ともなると、婆ちゃん並に手強いものだ。

 僕は万能薬を舐めた。

 それを見た婆ちゃんは何か思うところがあったようで、ヘモジに前を任せて、双剣銃を構えた。

「……」

 まさか、僕の魔力限界を量っていたのか!

「駆逐するのです!」

 でも目の前の一体はピクルスに落とされるのであった。

「あー、狙ってたのです」

「完璧」

 ドヤ顔のピクルス。

 可愛い。

 一方、ヘモジは霜で真っ白に。

「なんで結界の外に出るんだよ」

 防戦一方に堪えきれなかったようである。

 離れていてもジリ貧だと気付いた敵は距離を取る者と縮める者とに別れた。

 こちらの結界を破るべく近付いてきた者は射程に入り次第、切れ気味のふたりに叩きのめされ、離れた者は適確なピクルスの攻撃に二度と接近叶わぬまま落とされるか、逃げ帰るしかなかった。

 全滅が条件なので、必ず仕留めることになるのだが。

 オリエッタがトレースしてるので大丈夫だ。



 大量の魔石を回収するまで待ち惚け。その間、婆ちゃんはソワソワしていた。

 何せ次こそお目当ての『ブルードラゴン』なのだから。

「味は変わらないと思うんだけどね」

 でも今の調子じゃ、手も足も出ないんじゃないか。

 双剣銃の銃部分は、あくまで近接特化した婆ちゃんのための補完機能でしかない。そもそも中距離が限界の装備だ。仕込んだ弾頭の特化次第で飛距離も伸ばせるが、先日購入した弾は汎用の結界貫通弾でしかない。

「地面に落とすのは任せるのです。ヘンテコ魔法の見せ場なのです」

「どこがヘンテコだよ」

 さすがというかなんというか……

 妙なこだわりもプライドもない。できないことはできないときっぱり切り捨てる。そして使えるものはなんでも使う、その柔軟な精神。

 さすが英雄パーティの切り込み隊長だよ。状況の判断能力はピカ一だ。

 ただ、それらすべてが本能に根ざしている点だけは不安要素であるが。

「もっとごねるかとおもったけど」

 一番簡単で適確な手段を選択した。

「飛べなくしてから、ゆっくり楽しむのです」

 敵の部位欠損や魔力消費を考えない段階で、肉一択だ。

 天井に上がるルートを発見した僕たちは登り始めた。

「早っ」

 ヘモジより早く、あっという間に婆ちゃんは登り切ってしまったのだった。


 そして愕然とする。

「隠れる場所がないのです」

「鬼畜だろ?」

「ドラゴン相手にハードなのです」

「敵を落とした時、たまに足元抜けるから注意な」

「それは面倒なのです」

「落ちたドラゴンがどうなるかは運次第だな」

「死んで貰っては困るのです」

 発想が逆なんだよ。

「婆ちゃんの獲物だ。好きにすりゃ、いいさ」

 そうこうしている間に、それらしき反応が煌々と輝きながら接近してきた。

「なんか違くない?」

 最初に気付いたのはオリエッタだった。でも皆すぐ知ることになる。

「で、でかいのです」

 これって野生レベルに強そうなんですけど。

 超遠方からブレス!

 氷の突風が結界の外側を駆け抜けた。

 足元の柔らかかった雪が……

「歩き易くなったのです」

 全然たじろいでないな。

 二発三発と短いブレスを飛ばして、こちらを牽制している。

「あの手の敵は弱っちいのです」

 婆ちゃんは見た目とは逆の判断を下すと姿を消した。

「そうなのか?」

「さあ」

 ヘモジは追い掛けない。

「ナナーナ!」

 敵はピクルスの誘導弾と追いかけっこを始めた。

 その間に、僕たちは距離を詰めるために走った。

「ナナーナ!」

 ヘモジが転移させろと言ってきた。

 珍しいことだ。

 念話で跳びたい位置が自然と理解できた。

「出会い頭にやられるなよ」

 僕の開けたゲートにヘモジは飛び込んだ。

 そして敵の動きが一瞬止まった。

 その瞬間、ピクルスの一撃がまず命中した。

 そしてヘモジが接近する敵の攻撃を躱して、一撃を叩き込んだ。

「へー、やるじゃん」

 オリエッタが感心した。

 ピクルスの矢をうまく使ったな。

 だが、敵は吹き飛ばされただけでダメージはさほど受けていなさそうだった。

「でもちょうどいい」

 僕の射程に飛ばされてきた。

 注文通り、落としてやる!

 頭を押さえつけ、強引に引き下ろした。

 首が切れたことを、抵抗力が消えたことで感じた。

 頭部は僕の魔法で地面にめり込んだが、反抗していた図体はゆっくり雪原に落ちていった。

「お前たち、天才ですか?」

 分離したドラゴンの骸の間に婆ちゃんが姿を現わした。

「仲良しパーティーなら、これくらいの意思疎通はできるんだよ」

「お土産ができたのです」

 ピクルスとヘモジが揚々と戻ってくる。

 このままお土産を別の迷宮に持ち帰ることは確かできなかったはずである。一旦地上送りにしてからでないと。

 僕はコアたる心臓を消滅させ、早々にドラゴンを解体屋送りにしたのであった。

「ちょうどいい時間だな」

 もう一体いるかもだけど、婆ちゃんの帰路を考えると今日は手仕舞うのがよいだろう。

 面倒だが、解体屋に戻って、いいところの部位を見繕わないと。



「しまったのです……」

 婆ちゃんは解体屋まで来てようやく気付いた。

 全部は持ち帰れないということを。

 膝を落とす獣人娘。端から見たら何事かと思うだろうが、既知の者は笑うだけだった。

 お嬢は相変わらずだと。

 婆ちゃんはこの日、王宮の使者から奪った仕事をこなすため、転移結晶をギルドで購入して帰るしかなかったが「明日また来る」と言ってゲートを越えていった。

 僕たちは顔を見合わせた。

「楽しかったな」

 オリエッタもヘモジもピクルスも頷いた。



 地上に戻ると展望台方面が盛り上がっていた。

「婆ちゃんは用事があって今日は帰ったぞー」

 宙に向かってそう声を発すると、ざわつきと共に静まり返ってしまった。

「明日も来る気らしいから、祭りは明日に取っておけ」

 崖の上がもの凄い歓声に包まれた。

 五十年間の刷り込み、恐るべしだな。

「よーし、よし。準備する時間ができたってもんだ」

「やるぜー。やってやるぜー」

「正真正銘の肉祭りでい!」

 おい。今までのはなんだったんだよ。

 前夜祭もまた通常通り、執り行われそうであった。

 僕たちにはまだ時間があったので、畑に向かうヘモジとだけ別れて、倉庫に向かった。

 ここ数日間、溜めに溜めまくった魔石が大量に積み上がっていた。

「さてと」

 不純物を取り除いて定型に収める作業をすることにした。大き過ぎると使用の用途が限られてしまうので、余分をサイズダウンさせることにしたのであった。

『魔法物質精製』スキルが、鬼のように上がっていった。


 帰宅途中、チーちゃんとチェーリオ君とタオ君と擦れ違った。

 放課後の楽しい時間も終わりのようだ。

 いつもより街が賑わっている気がした。

「婆ちゃん効果か? 怖いねぇ」

 パン屋で菓子パンでも土産にしようと思ったら、ほとんど売り切れだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 何、リオナさんの開会の挨拶がないと 本物の肉祭りちゃうってこと? 挨拶ってより食レポだった様な? 脳筋指数と知能指数は反比例する模様。 旦那様ワーム狩りしとる場合ですか? ポンポコ嫁ちゃんと…
[一言] >先日購入した弾は汎用の結界貫通弾でしかない。 「ドラゴンを殺せしもの」持っているリオナには無用の効果な気が・・・。
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