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婆ちゃんは婆ちゃんである

 猪突猛進。突き進む馬鹿二人。空に逃げられ怒っている。

「でかいくせに何逃げてるですか!」

「ナナナーナ!」

「なんのための数なのです!」

 ふたりに迫られたら、ドラゴンだって警戒する。

 怒るくらいなら、せめて気配を隠しましょう。

 婆ちゃんは斬るより銃弾で落とすことの方が多かった。

 そのおこぼれをヘモジが狙っていて、味方同士で牽制し合ってる始末。

 成長しような、ふたりとも。

 ピクルスだけはモゴモゴ言いながらマイペースであった。

「楽勝、楽勝」

 派手なふたりが大立ち回りをしてくれているので、面白いように命中していた。

 婆ちゃんはそれがまた気に入らない様子で。

「子供かよ」

 正々堂々と言われても、羽を持った者が飛ぶのは道理である。

 それでも敵のブレス攻撃などものともしない俊敏性のおかげで、全く以て無傷の状態。おかげで口だけは軽いのなんの。

 オリエッタも今日何度目かの欠伸をする。

 既に『ファイアドラゴン』の古参クラスを相手にしているのだが、さすがに子供たちとは大違い。

 僕が結界を張る意味などないに等しかった。

「弾がなくなったのです」

 婆ちゃんにしては消耗が早かった。

 そもそも戦う予定じゃなかったから持ち合わせがなかったのだ。

 これだけ倒していればエルーダならゴールが見えてもおかしくないが、ここではまだ一本目四分の三といったところだ。

 僕は先日子供たちのために購入して『追憶』に放り込んでおいた在庫を提供した。

 婆ちゃんが昔使っていた子供サイズの双剣銃だったら弾の規格が合わなかったところだが、現在は共通の規格を使っているから問題ない。

「特殊弾頭はないのですか?」

「爺ちゃんじゃないんだから、無許可でポコポコ用意できるわけないだろう」

 ピクルスは快調に飛ばしていた。

『カースドラゴン』を前にヘモジはもう疲れ始めていた。

「婆ちゃんと張り合うからだ」

「チビヘモジはまだまだなのです」

「ナ、ナーナ!」

 チビじゃなくても同じ顔した兄弟がいたら、後発がチビと呼ばれるのが世の常だ。実際チビだし。

「痛っ」

 脛を蹴飛ばされた。

 婆ちゃんに当たれないからって…… こっちは召喚主だぞ。

 今日も手負いの集団がいた。

「ボスにやられたですか?」

「まあ、そんなとこ」

「見逃してやるのです」

「珍しい」

「『ブルードラゴン』をお土産にすることになっているのです。エルーダの『ブルードラゴン』とここの『ブルードラゴン』とどっちがおいしいか、食べ比べなければならないのです!」

 別にそんな所で使命感を発揮しなくていいのに。

「結果如何によってはメインの狩り場にしてやるのです」

 もしかして毎回、手伝うのか?

「わたしの老後は安泰なのです」

 あんたの老後あと何百年あるんだ?


 そしていよいよ火口のど真ん中、火山灰降り積もる中心に奴がいた。

「飛ばれると厄介なのです」

「ナナーナ」

 ふたりは姿を消した。

 灰に足跡が付くんだけど。

 もの凄い勢いで足跡が伸びていった。

『カースドラゴン』が首をもたげた。

 あ、目が合った。

「こっち、見てたら駄目だぞ」

 まさか大伯母より速やかに完了するとは思っていなかった。

 首が地面に転がった。

 僕とラーラの剣の師匠でもあるわけだし、当然の結果と言えば、当然なのだけれど。

 十八番。必殺の隠遁攻撃。

『カースドラゴン』にも悟らせないとは。

「隠遁が甘いのです! もう少しで見付かったですよ」

 それをヘモジに言うのは酷というものだ。ヘモジそれ自体が強力な召喚個体なのだから。むしろ褒めてやって欲しい。

「ナナナナ、ナーナ!」

 めげてはいないようだった。

「出番なかった」

「今日の主役は婆ちゃんだから、やりたいようにやらせとけ」


「おー、これが噂の――」

 普段使いするにはでか過ぎる闇の魔石。ポーチしか持ってきていない婆ちゃんは、僕に丸投げした。

「帰りに持って帰るのです。みんなに自慢してやるのです」

「爺ちゃん、家にいるの?」

「お隣に行ってるのです。ワーム狩りの季節だから」

「資金提供して貰うための建前作りか」

「タダより怖いものはないのです」

 働いた体にして軍資金を調達するわけだ。

「欠伸してただけだったな」

 オリエッタと頷き合った。

「お昼なのです」



 家に帰ると大伯母が待ち構えていた。

 婆ちゃんは食堂に上がる前に拉致られて、地下に消えた。

「やっと一休みできるな」

 何もしてないのにどっと疲れた。

 ラーラも既にいて、皿がテーブルに並んでいた。

 夫人が厨房に用意した料理は肉料理ばかりであった。

「リオさんのお婆様ですって? お口に合えばいいですけど」

「大丈夫よ。普段わたしたちが満足してるんだから」

 大伯母から何か難しい伝言でも預かったのか、婆ちゃんの顔に陰りが見えた。

 難しいこと覚えるの、苦手だもんなぁ。

 どの道『ブルードラゴン』討伐した頃には、忘れてると思うぞ。

「ちょっとこれ持っていて欲しいのです。帰りに忘れず渡して欲しいのです」

 丸投げかぁ。

 書類の束を僕に預けてきた。

 さらに何かメモをしたためて、それも渡してきた。

 どうやら複数、行き先の異なる書簡だったようである。

 魔石も預かってるし、手間は変わらないから、別にいいけど。

 厄介ごとがなくなって急に毛並みに艶が戻ってきたな。

「どこに座ればいい?」

 ラーラが手招きした。

「いい匂いがするのです!」

 もう他のことは一切耳に入らない。

 大伯母もそのことは重々承知しているので、これまでの活動報告を僕に求めてきた。

「そうか。権限の緩和はできたんだな」

「作戦終了までの暫定だけど」

「裏口の方が便利になるのは問題だからな」

「そのためにも、こっちの迷宮を婆ちゃんには走破して貰いたいんだけど」

「そう時間は掛からんだろう」

「その頃には爺ちゃんたちも暇になるだろうし」

「来たのです!」

 何が来たのかと思ったら、ワゴンに載った料理だった。

 夫人はこの量を出して平気なのかと、ラーラや大伯母、僕に確認するかのように視線を向けた。

 皿には三人前の肉が載っていた。

「お代わり自由なのですか?」

「普通、この量見て言わないよな」

「ターキーに比べたら、生易しいのです」

 別に苦行を強いているわけじゃないんだが。

 爺ちゃんや大伯母の母親、婆ちゃんの義母であるココ様が、家庭のイベントや客を持て成すときに振る舞うとんでもなく大きなターキー。本家を訪ねると必ず受ける試練ではあるが。

 それと比べるのはあんまりだろう。


「まだまだ戦えるのです!」

 我が家に備蓄していた特殊弾頭をガッポリ掴んでポッケに入れる。

「爺ちゃんに頼んで、ちゃんと補完してよ。子供たちも使うんだから」

「家に帰ればいくらでもあるのです。お爺ちゃんは常に何か造ってないと駄目な人なのです。あれは病気なのです」

 バトルジャンキーに言われてもね。

 そのおかげで僕もマイスターなんてやってるわけだけど。

「学校が賑やかなのです」

 ベランダから校庭を一望できる。

「うちの子たちも今日はあそこです」

「早く会いたいのです」

 視線はベランダの下に。

「あの無翼竜は誰のです?」

「うちの子たちですよ」

「強いですか?」

「…… 普通です。騎乗と運搬用ですから」

「そろそろ出発するのです」

「今度は雪山ですよ」

「冷気耐性は完璧なのです」

「かんじきいります?」

「ナナーナ」

 ヘモジとオリエッタが下から見上げていた。

「今、行くのです」



 ふたりが突撃していく間に、ピクルスが矢を放つ。

 低空に逃げた相手はふたりの餌食に。遠くに逃げた相手は戻ってくるまで無視で。兎に角、前進。

「出番ないね」

 オリエッタは退屈過ぎてリュックの上で伸びをした。

 突出した三人の横から一体が僕たちを狙ってくる。

「ブレスを吐くまでもないってか」

 非戦闘員とでも思ったか?

 僕は、牙を剥いて迫ってくる奴の頭を上から押さえ込んだ。

 敵の体は誘われるように頭から地面にめり込んで、盛大に土砂を撒き上げた。

 空に何かいる!

 と思ったら、婆ちゃんだった。

「早っ」

 めり込んだ頭をもたげたところで、それは袈裟懸けに切り落とされた。

 結果も見ずにこちらに猛烈な勢いで駆けてくる。

「何したですか!」

「魔法で落とした」

「…… せ、成長したですね」

 なんで不満そうなのよ。魔法じゃ、自分と関係ないからって、色々おざなり過ぎだろう。

「ナナーナ!」

 次の相手がヘモジに迫ってきていた。

 ピクルスが矢を放つ。

「今行くのです!」

 婆ちゃんは再び戦いに飛び込んでいった。

「変わんないね」

 オリエッタが言った。

 僕は倒したドラゴンの魔石を回収するため、その場に待機しながら、ピクルスを結界内に収めることだけに注意した。

「あっち」

 オリエッタの指示の下、魔石に変化した石を回収しに向かった。



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― 新着の感想 ―
[一言] リオナさん孫のところ来ても通常運転。 地頭いいのに脳筋極振りだから 覚えるの苦手。というかその気なし。 序盤の『起こるくらいなら』は 『怒るくらいなら』なのでしょうか? リオナさんの速さな…
[一言] 安定のリオナで安心しました。 ・・・今作のヒロインポジションのラーラがほとんど動かないから(汗 でも、外見は獣人版ヴァレンティーナ様になっているんですよね。
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