表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
512/553

クーの迷宮(地下 50階 ドラゴン戦)殲滅せよ。奥の間攻略

「身体壊しそう」

 こうも寒暖の差に晒されると感覚が馬鹿になる。

 氷に包まれた強者を目の前にすると、人というのはデリケートな生き物なのだと思わずにはいられない。

「敵は力も頭もよくなるぞ。覚悟はいいか?」

「一体ずつならね」

「もう目の前に三体いるし」

「五体だ。上見ろ」

「……」

「どうやって倒せばいいの? たぶん時間掛かるよ」

「この入口の狭さを利用するしかないな。一緒には入って来られんだろう?」

「釣るのも怖いんですけど」

「ヘモジ、倒してきてもいいよ」

「おねがーい」

「……」

 御用聞きではないと、ヘモジは不満のご様子。

「ここクリアできないと『ブルードラゴン』の見学はなしになっちゃうな」

「!」

 子供たちだけで突破できないことはもうわかってることじゃないか。手を貸してやりなよ。

「ナナナナーナ!」

 大股で一人突き進んでいった。

「『弟子に甘い』ってさ」

「それは悪うございました」

「二体ぐらい倒してくるかな?」

「最初は一対一ぐらいがいいだろうな。手前から一体、引っ張ってくると想定して、上の二体だけど」

「一体は屠る!」

 ピクルスが矢筒から矢を引き抜いた。

「じゃあ、わたしたちはおこぼれに預かるとしましょうか」


 案の定、ヘモジは二体を葬って戻ってきた。

 そして子供たちのために一体を釣って戻ってきた。

 が。

「止まっちゃったよ」

「警戒されちゃってる?」

「上の二体が来ちゃうよ!」

「相手はそれ待ってんでしょ」

 手練れというにふさわしい状況判断能力。

「こりゃ、二体分の魔石は消えるな」

 ヘモジが屠った分を取りに行くには時間がなさそうだ。

「!」

 ピクルスが矢を放った。

 僕はまだ撃つタイミングじゃないと思った。

 案の定、接近してくる一体にスルリと躱されていた。

 ピクルスの口角が上がった。

「うわっ。ヘモジと同じ顔」

 オリエッタが目を潜めた。

 何か企んでいるときの怪しくも笑える……

 躱された一撃は天井に命中して爆発した。

「ナナーナ!」

 ヘモジがトーニオに合図する。

 トーニオは全員に前進を指示した。

 崩れてくる天井を回避するため宙にいた二体は高度を下げながら、入口とは違う方向に一時退避し始めた。

 一時的に孤立した地上の一体に向かって子供たちは果敢に挑んだ。

 飛び交う魔法。

 尻尾の薙ぎ払いッ!

 仲間が結界でいなすと同時に、ニコレッタが『無刃剣』で切り裂いた。

「磨きが掛かってる……」

 オリエッタが身震いした。

 狙っていたのだろう。

 これでもう二度目の薙ぎ払いに怯える必要はなくなった。時間が経過すれば、すぐ生えてくるが、その余裕はあるまい。

 子供たちが魔法を次々叩き込む。

 水蒸気で辺り一帯煙る中、ドラゴンの断末魔が。


「やばかったーッ」

 ヴィートがしゃがみ込んだ。

「四枚、ぶっ飛んだね」

「フッフッフッ、一人多重障壁、二枚だから!」

「全部で十枚だからッ!」

 ミケーレとニコロとマリーが浮かれた。

「ブレスが飛んできて」

「噛み付かれたら」

「マイナス二枚で全滅」

 年長組がからかった。

「なんでそういうこと言うんだよ!」

「油断するなってことよ」

「ほら、まだ終ってないぞ」

 旋回していた二体が戻ってきた。

「全員、下がるぞ。駆け足ッ!」

 子供たちは急いで入口付近まで後退した。

 視界不良のなか、ピクルスが矢を放った。

 ノルマの一体分だな。

『影矢』を放っていた。二本同時に放たれた矢は一本の軌跡となってドラゴンに向かっていった。

 ピクルスは立ち位置そのままに、次の矢を番えた。

 天井をまた崩されることを警戒したドラゴンは回避行動を大きく取った。

 そして逸れた矢はまたもや天井に命中。

 うまく瓦礫を回避できたと針路をこちらの戻そうとした瞬間、隠れていたもう一本の矢が襲い掛かった。

 背中から強烈な衝撃を浴びた一体が爆風に押し出されるように落ちてきた!

 もう一体も爆風に晒され、姿勢を崩している。

 一体の頭が吹き飛んだのはその直後だった。

「ナーナ!」

 ヘモジが妹分の急成長ぶりに感心した。

 一見するとわからないが、矢の射速を変えたり『必中』効果をわざと外したりと結構、芸が細かい。

「まあ、ドラゴン相手に連日だからな。もうただの『四枚羽根ドレイク』とは言えんだろう」

 ひよこからも卒業してるんじゃないか。

 残った一体は苦し紛れにブレスを吐いた。が、それは恐怖から来るもの、考えなしだ。

 子供たちは狭い入口の影に身を隠してやり過ごした。

 そしてブレスが途切れるのを眈々と待った。

 そのときはすぐに来た。

 が、敵も完全には吐き切っていなかった。

 やはり手前のエリアにいた雑兵とは違う。

 どちらが誘われたのか。

 トータル十数枚の結界障壁を犠牲にしながら、子供たちの視線は前を見据えていた。

 魔力の回復も充分。今度こそ!

 ブレスが消えた先にドラゴンの姿がくっきりと見えた。

「いけぇええええ!」

「オーッ」

 全身全霊の弾幕を一身に浴びたドラゴンは、威力に押されて仰向けに倒されるように落ちていった。

「あの巨体を押し倒すかよ」

 墜落した肉塊は動かなくなった。

「オリエッタちゃん、お願い」

 肩で息する子供たちは小瓶を取り出し喉に流し込んだ。

 疲れ切った顔は確認を要請はしたが、内心勝利を確信していた。

 ポジティブになったりネガティブになったり、ほんと猫の目のようだな。

 オリエッタが勝利を宣言した。

「ナナーナ」

 感動に浸りたいところだろうが、魔石の回収が先である。

 動ける者から動き出した。

「それにしても……」

 たった一戦で、舞台が瓦礫の山だぞ。


 その後、重力魔法を使ってのサービスタイムを挟みつつ、探索は無事進行、おやつタイムとなった。

「シュークリームの方がよかった」

 本日のおやつはモンブランケーキ。栗をペーストにしたクリームがお子様にはまだ苦かったようだ。

「いらないなら貰ったげる」

「誰がいらないって言ったよ!」

 お店の方で栗が大量に入荷したらしく、夫人が安く多めに買い込んできたのであった。

 聞いた話では妖精族が迷宮内に植えた栗の木が収穫時期を迎えたらしく、余剰分を外に放出し始めたとのこと。

 あいつらも外で買い物するわけだし、外貨は必要だからな。

 品質もよいらしく今後、この地の特産にできるかもしれないそうだ。

 それにしてもあの一階フロアは異常である。持ち込んだ苗が育つのだから。

「あそこだけ別世界だな」

 ゲートキーパーも随分気に掛けているようだ。

 野に放逐してタロスの勢力にまた利用されることを考えたら、安いことなのかもしれないが……


 甘ったるくなった口を、さらにバター飴の甘さで上書きする。

 さすがに僕は遠慮して、渋めのお茶をチョイスしたが。子供たちはおいしそうに舐め始めた。

「この先、まだあるの?」

「たぶんあと一、二戦かな」

「全滅させないと上に上がるルートが出てこないっていうのは、やだよね」

「全滅させる相手がドラゴンじゃなきゃ、別にいいんだけど」

「やっぱ『ブルードラゴン』って特別なんだね」

 レアではあるが別に特別ではない。

 現実世界では強い個体ほど遠くまで越境してくるから、人里で遭遇する確率は個体数差に比べ、思っている以上に高いはずだと誰かに聞いたことがある。

 ヴァレンティーナ様だったか?

「よーし。後半戦、行ってみようか!」

「待って。まだ飴舐めきってない」

「……」

「締まらねーなぁ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ